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第148話 ロックバー 2
「どうした?なんか混乱してるようだね。」
琥珀に言われて気付いた。
(初めてキスしたんだ。しかも男と!)
「あーあ、この町は女が少ないなぁ。
美人だと思うと男、だ。」
奥からタトゥーだらけのデカい男が来て言った。
亮の仲間のようだ。
「サイコはもう元カノだ、
終わったって牽制するし。」
「ヒロシはあの娘がいるじゃん。
歌姫の粟生ちゃん。」
確かにこの頃ここは同性のカップルが多い気がする。
「琥珀も男が好きなのか?」
「やだなぁ、男好きじゃないよ。好きになった人が男だっただけだよ。メイ先生。」
「そ,そうだよな。」
聡は今まで性的な事は毛嫌いして来た。それでも、好奇心から、ネットで見て情報はある。
親が嫌なのも、アイツらが愛し合った事があるという事実が汚らわしい、と思うからだ。
あの薄汚い年寄りたちが愛を語るのは許せない。聡の中で愛は限りなく美化されている。
親は「片岡モータース」という自動車整備工場を国道の方でやっている。工場の2階に車好きな兄が住んでいる。整備士になって自立している。
家に引きこもってウジウジしているのは聡だけだ。
(でも、オレは大学生だ。)
学生という隠れ蓑にしがみついているが、この頃あまり身が入らない。
ネットの書き込みが唯一の生きがいになっている。
そばに座っている亮が話しかけてくる。
「今からライブが始まるんだよ。
この店のハコバン、かっこいいんだぜ。」
やたら話しかけてくる。
(この亮って奴、オレにキスした。
オレのこと好きなのか?)
グラスを手渡してくれた。
「これアルコール入ってないから、飲んでみて。」
オレンジジュースにグレナデンシロップを沈めた綺麗な飲み物だ。
「これにテキーラを入れたら、テキーラサンライズだよ。これは酒入ってないから。」
「甘くて美味しい。」
聡は恋愛に免疫がない。親切にされるとその気になってしまう。
琥珀が
「ライブ始まるよ。メイ先生のドラムがかっこいいんだ。」
こんなに人から話しかけられた事はない。好意を勘違いしそうだ。
元気な女の子がステージに上がった。
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