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第154話 男の世界

「何すんだよ。帰るぞ。」 粟生はまだ何かしたいような顔をしていたが、兄貴もいるこの整備工場で、変な事はしたくない。 (なんだ、この女。キモいな。) 「兄貴、ウチも痛車作りに力入れないか? やりたいって言ってるお客がたくさんいそうだよ。」 「じゃあ、おまえが本気でやれよ。 親父が喜んでたぞ。やっと働く気になったって。」 「そうか、親父が。 そんじゃ、オレ今日は帰るわ。」 「彼女さんもまたいらっしゃい。」 「彼女じゃねぇよ。」 「はい、また来ます。さよなら。お邪魔しました。」  聡は早く帰りたかった。白浜ベースのあの男くさい雰囲気に浸りたかった。 (女はいらない。ウザいだけだ。)  あの粟生という娘に、あまり性的な欲求を感じない。  聡は女が煩わしく感じた。短い時間だったが、兄貴の所に粟生を連れて行った事を後悔した。 (何もしなくて良かった。なんか特別な関係だと期待させたくない。)  今までボッチで陰キャと言われても全然平気だったのに、ここで出会った男たちには、なぜか、カッコつけたくなっている。  やっと自分の殻を破って、自由になれそうなのに、彼女面されて縛られたくない。 (危ねぇ。一度でも手をつけたら、縛られそうだった。)  聡は今までは彼女が欲しい、と思っていたが, この頃は生身の人間は煩わしいだけだ。今の心境はそれだ。  聡は男同士でつるみたい。車の話やアニメの話で盛り上がりたい。男同士で。  ロックバーに入って行った。粟生もついてくる。 「今日はナナオはいないの?」 粟生が鉄平に聞いている。  下○沢の連中がいない代わりに、今夜は見慣れない奴がいる。 「聡,会うの初めてかな。 サトウだよ。ラッパーなんだけど普段は声が出ないんだ。返事しなくても勘弁してやって。」  背の高いカッコいい奴が目だけで会釈した。 DJタイジが古典的なヒップホップトラックを流している。 「サトウ、ラップやりたいのか?」  極端に無口な男だ。タイジのビートに創作意欲を掻き立てられたか。 「あ、こんちは。オレ聡。外に停まってる痛車、作ったんだよ。見てくれよ。」  みんなで外に出た。 「いい車出来たじゃん。カッコいい。 サトウ見ろよ、エイトドッグス、だって。」  笑ってうなづくサトウの顔を見た。

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