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第158話 痛車
意外だった。サトウが免許を持っていない事にだ。
(不便だろうな。オレ、サトウの足になってもいい。いつも、どこへでも、連れて行くよ。)
そんな事を思う。絶対、口には出せないが。
聡は亮に初めてキスされた事が、忘れられない思い出になった。
そして初めてサトウに会った時から、心を奪われた。その一挙手一投足。
家に帰って来た。痛車は思いのほか評判で、みんなの注目の的だ。嬉しいような疲れるような。
複雑な気持ちだ。
サトウを車に乗せてどこかへ行きたい。サトウは何が好きなんだろう。何も知らないのに頭の中はサトウで一杯だ。
サトウはきっと犬を飼っているだろう。エイトドッグスのメンバーだ。
(オレ、犬に嫌われてるからな。小次郎を蹴ったから。謝っても許してもらえないか。)
暗い気持ちになった。
痛車の担当のようになって白浜ベースに通う事になった。痛車の制作以外は『無頼庵』にいる事が多い。大学はずっと行ってない。
何かに夢中になるとそれしか見えなくなる性格だった。
茂○の髙橋自動車にいるか、『無頼庵』でオータと打ち合わせているか、で忙しい。
夜は、咲耶さんのロックバーに顔を出す。サトウに会える事を期待して。
(オレってリア充じゃね?忙しいのが楽しい。)
そして、たまにサトウの顔が見られると、この上もない喜びで胸がいっぱいになるのだ。
その夜もロックバーに顔を出した。下○沢の連中が来ていた。
「聡、亮のBMWを痛車にすることにしたから、見積もってやってくれよ。」
「え?BMW?そんな高級車、大丈夫かな?」
「亮が覚悟を決めたって言ってるから,今のうちだ。」
「どれくらい持つの?」
「うん、丁寧にやって2年くらい持つかな。」
「ハゲちゃったら元に戻せるんだろ?」
「オルペンでもそんなもんだろ。
戻せるよ。昼間『無頼庵』に来てくれ。
絵柄を決めるから。オータと打ち合わせだ。」
「頼んだぞ。」
今日はミカドを連れて来ていない。亮は帰りがけ、聡の肩を抱いてキスして来た。
この前の思い出がよみがえる。忘れられない甘いくちづけ。
ぼーっとして振り返るとバッチリ、サトウと目が合ってしまった。
(来てたんだ。あ、見られた。でもサトウはオレのことなんか何とも思ってないだろう。)
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