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第163話 聡とタカヨシ
タカヨシが嬉しそうに聡のミラに乗り込む。
痛車が珍しいのか、車を一回りしてから、背の高い体を折りたたむようにして助手席に乗ってきた。
「狭いだろ。」
気にしないで、と目で言っている。ほぼ無言で車を出した。黙っていられるのは気が楽だ。
何がタカヨシのスイッチになるのか、わからないから沈黙を守る。
気を使って話題を探す必要がないのが、心地よい。
30分ほどのドライブで、聡の家ともそんなに離れていない。
「ここかな。着いたよ。」
タカヨシは微笑んで手を握って来た。握手か。
そして
「ありがとう。部屋に寄って行くか?」
ハッキリと声に出して誘われた。
「夜も遅いけど、いいのか?」
「ウチは大丈夫。おふくろがいるけど、俺の部屋は2階だ。」
「おじゃまします。」
「あら、いらっしゃい。珍しいのね。
鉄平君以外の人が来るのは。」
「遅い時間にすみません。」
「凄い可愛い車が入って来てビックリしたわ。
どうぞ、お上がりください。
タカヨシが声を出すなんて滅多にないのよ。
あなたの事が大好きなのね。」
タカヨシは赤くなって
「おふくろやめろよ。俺の部屋に行くよ。」
タカヨシの部屋は、ぎっしり詰まった本棚とベッドが占領していた。
「凄い本の量。読書家なんだね。」
「一人の時は音楽を聴いて本を読むしかないだろ。」
「ずっと一人だったのか?」
「ああ、聡のネットの書き込みは、追ってたよ。
面白いと思った。聡の言う通りだったら、死ぬのはそんなに怖くないな。」
「何で,しゃべらなかったの?
小さい時からでしょ。ヨーガの修行みたいだな。」
「子供の頃は世界が怖かった。世界は恐ろしいもので出来ている。
自分の部屋だけが安全なのだ。この安全な世界から出たくなかったんだ。
聡の書き込みを見て、世の中には勇気のある人がいるんだなぁ、と感心した。
心の中を曝け出してるのか、と思った。」
ベッドの上であぐらをかいて座っているタカヨシが聡を隣に引き上げた。
ベッドに並んで座る。
「あはは。」
顔を見合わせて声を出して笑った。
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