167 / 256
第167話 F市のラッパー
「ずっと会いたかったんだ。我慢してた。
いつも会いたいって思ってた。」
思いがけないタカヨシの告白。聡はどうしていいか、わからなくなった。
好奇心だけでキスした。タカヨシは意志が強そうだ。聡に足りないこと。
ロックバーにF市のクラブのラッパー仲間が来ている、と鉄平がカフェに呼びに来た。
近頃話題の白浜ベースを覗きに来たらしい。
ジョー先輩も知っているラッパーたちだった。タカヨシも顔は知られている。
「サトウ、この頃、顔見せないから、来ちゃった。」
女の子がタカヨシにいきなり抱きついて来た。
派手なファッションはフィメールラッパーか。
タカヨシがサトウ呼びされている。彼女はイカつい男たちを従えてかっこいい。
「F市のクラブのラッパーたちだよ。
今日はジョー先輩とサトウに会いにきたんだって。」
鉄平が紹介する。
「鉄平とナナオとサイコはクラブに来てくれるし、DJタイジはクラブの仕事もしてるから、顔見られるけど。
ジョーとサトウに会いたかったんだよ。」
ボス、と紹介された男が言った。タトゥーだらけでボディピアスもすごい。
「俺、サトウって名乗るのやめたんだ。タカヨシって呼んでくれ。本名だ。」
「とうしたの?
サトウってナメた言い方、気に入ってたのに。」
ジュネ、と呼ばれた女の子がタカヨシに抱きついて離れない。
おへその見える短いシャツにミニスカートとブーツでセクシーだ。
肩がはだけたジャケットをずり落ちそうに着ている。素肌にトライバル柄のタトゥー。カッコいいと言うより、怖い感じだ。
タカヨシの頬を両手で挟んでキスした。ダークカラーの口紅が付く。
「ジュネはサトウがお気に入りだもんな。」
一緒に来ている輩が囃し立てる。聡はイライラした。
(タカヨシにベタベタ触るなよ。)
タカヨシが心配そうに、聡を見ている。
DJタイジがビートを回す。
サイコが粟生を連れて入って来た。
ア・セクシャルのサイコはベタベタする女の気持ちが理解できない。
「わ、何?この女。キモいんですけど。」
ジュネと取り巻きが、浮き足だった。
「ラップでやろう。
ーー変なねえちゃん、白浜に来ちゃったね。
ワナビー、かすりもしない。
湿気った煙草みたいに
決定的な空回り
アタシはサイコ
サイコーのパンチラインーー」
ともだちにシェアしよう!

