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第167話 F市のラッパー

「ずっと会いたかったんだ。我慢してた。 いつも会いたいって思ってた。」  思いがけないタカヨシの告白。聡はどうしていいか、わからなくなった。  好奇心だけでキスした。タカヨシは意志が強そうだ。聡に足りないこと。  ロックバーにF市のクラブのラッパー仲間が来ている、と鉄平がカフェに呼びに来た。  近頃話題の白浜ベースを覗きに来たらしい。 ジョー先輩も知っているラッパーたちだった。タカヨシも顔は知られている。 「サトウ、この頃、顔見せないから、来ちゃった。」  女の子がタカヨシにいきなり抱きついて来た。 派手なファッションはフィメールラッパーか。  タカヨシがサトウ呼びされている。彼女はイカつい男たちを従えてかっこいい。 「F市のクラブのラッパーたちだよ。 今日はジョー先輩とサトウに会いにきたんだって。」 鉄平が紹介する。 「鉄平とナナオとサイコはクラブに来てくれるし、DJタイジはクラブの仕事もしてるから、顔見られるけど。  ジョーとサトウに会いたかったんだよ。」  ボス、と紹介された男が言った。タトゥーだらけでボディピアスもすごい。 「俺、サトウって名乗るのやめたんだ。タカヨシって呼んでくれ。本名だ。」 「とうしたの? サトウってナメた言い方、気に入ってたのに。」  ジュネ、と呼ばれた女の子がタカヨシに抱きついて離れない。  おへその見える短いシャツにミニスカートとブーツでセクシーだ。  肩がはだけたジャケットをずり落ちそうに着ている。素肌にトライバル柄のタトゥー。カッコいいと言うより、怖い感じだ。  タカヨシの頬を両手で挟んでキスした。ダークカラーの口紅が付く。 「ジュネはサトウがお気に入りだもんな。」  一緒に来ている輩が囃し立てる。聡はイライラした。 (タカヨシにベタベタ触るなよ。)  タカヨシが心配そうに、聡を見ている。  DJタイジがビートを回す。 サイコが粟生を連れて入って来た。  ア・セクシャルのサイコはベタベタする女の気持ちが理解できない。 「わ、何?この女。キモいんですけど。」  ジュネと取り巻きが、浮き足だった。 「ラップでやろう。 ーー変なねえちゃん、白浜に来ちゃったね。   ワナビー、かすりもしない。   湿気った煙草みたいに   決定的な空回り   アタシはサイコ   サイコーのパンチラインーー」

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