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第181話 ブライアン
五月雨を生んで玉梓は本当にブライアンと共に生きて来た。五月雨を育てるためにいつもそばにいてくれたブライアンの思念。
五月雨を受胎して、まだ出産する前に、飛行機事故で亡くなったブライアン。
どんなに心残りだったろう。 いつも夢枕に立って、玉梓の悩みを聞いてくれた。
現実的なアドバイスもあった。思念となって一緒に子育てをしてくれたのだ。
ある日、改まった感じでブライアンは言った。
「20年目だ。私が死んで20年。
もう喪は明けた。私は逝くよ。
キミはオショーと結ばれる時が来たんだ。」
ブライアンの言葉に、玉梓は一晩泣き明かした。そして次の日,初めてオショーに抱かれた。
それからずっと寝室は一つだった。
20年前。
オショーと玉梓が初めて結ばれた日。
禊は終わった、という事か。
それまでオショーは女性に不自由した事がない。これでも結構モテるのだ。
大学に入る前、世界を放浪していた時、しばらく暮らしたラジニーシのアシュラムは、フリーセックスを標榜していた。
入所する時にはエイズ検査を受けて、陰性証明を提出しなければならないが、それさえクリアすれば後はフリーなのだった。
ヒッピーの集まりでいろんな国の女性と、文字通り交わった。ゲイも経験したけれど、オショーはやっぱり、女性が好きだった。
アメリカの大学に入った頃には30才になっていた。そして、性に関してはかなりの強者になっていた。
一方、玉梓は、というと何しろすごく長い時を生きて来た。オショーよりも誰よりも、年上なのだった。考えられない存在だ。もっともその大半の記憶を失っている。
戦国時代、大名の側室だった事もある。
家来と謀って主君を襲わせた罪で、処刑されそうになった事もある。
八犬伝では悪い女、とされているが、それは馬琴のフィクションだろう。処刑などされず、男に愛されて生きて来たらしい。
オショーは気付いていたが、とうとう玉梓の美しさに陥落した。
オショーは不思議な事に、今まで生きて来て玉梓に何も感じなかったのだ。
禊は終わった、という事か。
日本の神道は性の営みを、穢れとは考えない。性は悦び寿ぐものなのだ。性に大らかである。
しかし、すぐそこに性の深淵が覗いている。
気付かないけれどその深淵は、精神の根源的な所に口を開けて待っているのかもしれない。
思念だけの存在は?性の問題は、肉体を持つものを縛る。本来必要のないものなのか。
なぜ、この星はすべての生き物が子孫を残そうと必死なのか?
また,一つ生命の謎に突き当たる。
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