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第186話 父の存在

 五月雨は顔も知らない父を思った。玉梓が言うには、父の思念がいつもそばで見守ってくれていたそうだ。何かにつけてアドバイスをくれたという。今回の事で初めて知った。    オショーもその声を聞いた。 「ブライアンは私の親友だ。たとえ、死んでも 何を望んでいるか、伝わって来た。  ブライアンの許可なしには、玉梓に手を出せない。それをずっと守って来たよ。」  不思議に思っていた。再婚もしないで一人でいる母。  以前から、五月雨はオショーと母がお似合いだ、と思っていた。父のように頼っていた。  世話好きな年寄りが玉梓に縁談を持って来ても、ただちに断る。玉梓は固い人だと評判が立った。五月雨が教師になってからは、縁談の矛先が変わった。美貌の中学教師だ。人口の少ない田舎で、五月雨は優良物件だった。  しかし、五月雨の心は、あの腕を傷つけている少年に占められていた。 「運命って信じるかい?」 琥珀に聞く。 「運命?そんなにしっかりした自覚はないけど、メイの事だよね。俺の運命の人?」  初め、琥珀はそんなに真剣に五月雨の事を受け止めていなかった。変態教師だ、と思ったくらいだ。いつからこんなにかけがえの無い人に変わったのか。  学校だけではわからない五月雨の一面を見てしまった時も、別れる、なんていう選択肢は考えられなかった。  あの、ヤクザ相手の殴り合い。ドン引きするどころか、憧れてしまった。  カッコよく銃を扱った時もだ。いつも意外な一面に驚かされる。ドラムを叩いている時も、カッコ良すぎる。 「人を好きになるのって、計算じゃ無いんだよ。 いつのまにか、落ちるんだ。  恋ってそういうものだろ。」  琥珀はいつも五月雨に見惚れている。 五月雨の首に抱きついて 「死んでも離さないで。死ぬまで、じゃないよ。 死んでも、思念になっても、だよ。」

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