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第189話 今の自分
聡は考える。あのネットに書き込んでいた頃を思うと、今の自分が不思議だ。 一人で色々と考え、組み立てていた物語が、信じられない事に現実に近づいて来た。
それを三郎が熱心に読んでいたことも驚きだ。
(オレの妄想みたいなことに答えてくれる人がいた。それで何一つ検証出来るわけじゃないが。
あのオショーと玉梓の存在も謎だ。)
ずいぶん遠くに来てしまった。子供の頃からひとりぼっちで、開き直って意固地な人間になっていた。ここに来て自分の周りが目まぐるしく変化している。
(これは白浜ベースの持つ力、じゃないのか?
ここは不思議な求心力がある。)
今まで、聡は自分が置かれている孤独で寂しい世界に何とか理屈をつけてきた。
屁理屈かもしれない。でも、時として、真理が見えた気がしたのだ。
こんなにもタカヨシに惹かれている自分。
両想いなのか?不安もある。
「いつも何かが始まる時は、あっという間だ。
思いもかけないことが起こる。」
今回は幸運だった。ずっと何かを期待して裏切られて来たけれど、きっとタカヨシは裏切らない。信じていいんだ。
数日後、DJタイジの紹介で、彫り辰のところに行った。ピアスの穴を開けるためだ。
市川駅に近い彫り辰のアトリエは、センスのいい現代的なスタジオだった。
「このピアスは口径が太いから、少しずつ慣らしていこう。しばらく通って。」
タカヨシの方を見て
「キミも今の穴じゃ小さいから少しずつ大きくして行こう。」
皮膚科の医師免許を持っているという彫り辰は、目の前に医療用の針の入ったバッグを広げた。
ずらりと大から小に針が並んでいる。
「肌馴染みがいいように注射針と同じカッティングと素材なんだ。だんだん太くする。」
聡が呼ばれて耳たぶを摘まれた、と思ったら
「あっ。」
「一瞬だけチクッとしただろ。もう入ってるよ、金のピアス。毎日消毒して。」
それからしばらく彫り辰の所に通った。穴を広げる方が時間もかかるし痛かった。
ピアスのため、と言って、聡とタカヨシは毎日一緒に過ごした。お互いの距離がグッと縮まった。
その間に痛車の注文も増えていった。
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