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第192話 玉 2
聡の言うのが普通だろう。
「おや、荒ぶる魂、は見えないものを感じる繊細な考察をする人じゃないのか。」
オショーに突っ込まれてしまった。
しばらく前の事だった。
犬が走ってる。犬たちの目的地は神社だ。神社の入り口付近に芝犬のシノが待っていた。
「八房に呼ばれた。」「僕も。」「私も。」
「オイラもそうさ。」
みんなが口々に言う。初めて八房の元に、八犬士が一堂に介したと言うのに、みんな興奮してまとまらない。ワンワン吠えているだけにしか聞こえない。
「八房が神社に入れないって。
鳥居の外で待ってるはずよ。」
シノが言う。
神社に向かって走って行くと、鳥居の手前で八房は待っていた。
久しぶりの八房は相変わらず秋田犬の姿で、堂々としていた。武士の佇まい、を感じさせる。
すごい貫禄だ。
「八房、今までどこにいたの?」
シノが聞く。
「私は思念のまま漂って、みんなを見ていたよ。
私の目的は、離れ離れになってしまった伏姫を探す事だが、他の思念と絡まって難しい事になっているようだ。
そしてなぜか、この神社の敷地には入れない。一体どうなっているんだろう。」
八房はつらそうに言った。
「昔から、ここには入れないのか?思念でも入れないなんて事があるのか。」
しんべえが言うと
「この前来た時も入れなかった。
鳥居をくぐるとまた、鳥居の外だ。反対から入っても同じ事。一向に前に進めない。
鳥居の下の狛犬より中には行けないようだ。
見えているのに。」
八犬伝にゆかりの地、のはずなのに。
「だけど、ここには黄泉の国(よみのくに)へ続く黄泉比良坂(よもつひらさか)があるらしい。
その入り口がわかれば伏姫に会える気がするのだ。犬の伝承にもあったはずだ。」
八房の話だと、この神社に結界が張られているのは、黄泉の入り口を守るためだそうだ。
あの世に用のない人間は、何の問題もなく神社に入れると言う事だった。
「私はずいぶん昔、伏姫とはぐれてしまった。
互いに呼び合い探しているのだ。
きっと伏姫は心細い事だろう。死んでも離れないって誓ったのに。」
八房は悲しそうに言った。
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