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第194話 八房
「里見八犬伝によると、八房を育てたのは玉梓なんだよ。」
昔、母犬とはぐれた仔犬の八房を見つけて育てたのはその土地のボス狸だったとされている。
その狸が玉梓だ、と。 愛情深い母狸。
オショーの言葉にみんな疑いの目を向けた。
「玉梓が狸だったなんて、そんなおとぎ話、有り得ない。」
「この辺では狸の事を玉面(たまづら)と言ったんだ。玉梓と音が似ている。」
みんな思わず、顔を見合わせた。
それから
「昔、この辺りには房州犬という犬の品種があった。ルーツは秋田犬のDNAから分かれているらしい。その頃は、千葉固有の犬種だった。
素晴らしい犬だった。八房は最後の生き残りだ。全ては今では絶滅したんだ。
昔の大名が戦さに駆り出して大量に死なせてしまった。勇敢な犬だった。」
今も館山城の中に剥製が残っている。辛うじて八房のDNA鑑定が可能だったらしい。
オショーは図書館カフェを作る際に、市から寄贈されたこの土地にまつわる文献を読み漁った。
これは八犬伝と色々な言い伝えを繋ぎ合わせてまとめたオショーの独自の見解だった。
オショーの話は胡散臭い事が多い。
だが、その中にほんのわずかに真実が隠れている。
「絶滅種なのか、八房は。」
「それより、玉梓が狸だなんて。失礼過ぎるよ。」
いつの間にか、みんな集まって来た神社の境内で、謎解きが始まった。
はじまったが、ますます謎は深まるばかり。
「面白い。だけどアニメにすると、特段の珍しさはないな。
事実は小説よりなんとか・・だな。」
「そう言えば玉梓が持っている留袖(既婚女性の正式な和礼装、裾模様が八房なのよ。
犬の柄の留袖って珍しいと思ったの。」
無頼庵の衣裳作りをしている不二子ちゃんが言った。なぜか、今日は神社に無頼庵のメンバーも来ている。
「もう、衝撃的な話ばかりでついていけないよ。」
「人について行くのじゃなくて、自分の足で歩きなさい。」
厳しい事を言うのはサイコだ。
「八房はなぜ、ここに入れないの?」
「なんか鳥居の狛犬の所からこっちに来れないって、シノが言ってる。」
「えっ?シノが?」
うっかり話してしまった。犬がしゃべる事。
知らない人は怪訝な顔をした。
「今日はなんで、みんな集まってるんだ?」
気がつけば、犬たちはもちろんのこと、その飼い主も、そして無頼庵のメンバーも集まっている。他にも数人集まった。
虫の知らせか?
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