197 / 256

第197話 カオス

 店の片隅で思わぬドラマが展開された。 「三郎ってこんなキャラなんだ?」 ジョー先輩に肩を抱かれて 「うん、僕は自分の殻を壊したいんだ。 人は変われるって思いたい。」  五月雨たちが入って来た。長い髪をかき上げていい男のオーラを撒き散らしながら。  タンクトップの肩を筋肉が盛り上げている。 ドラムを叩くせいで肩の筋肉がすごい。 「メイ先生、今夜は何を演ってくれるの?」 「歌姫の粟生が決めるだろ。」  サイコと粟生が入って来た。犬のドウセツくんとディーキーも一緒だ。 「今夜はロックな気分。 だけどフラメンコもいいね。」  粟生はフラメンコダンサーのようなドレスを着ている。  結構広い店も、犬と人間で、混沌の場所になっている。  ドラムソロを入れて数曲、往年の70年代ハードロックをやった。  五月雨が汗だくで降りて来た。琥珀がタオルを持って飛びつく。  抱き上げて、顎を持ち上げてキス。周りが囃し立てる。  五月雨は、囃し立てている客席をいたずらっぽく見て、琥珀の顔を両手で持って、激しいディープキスをした。  教師の時には考えられない事だった。 「琥珀、愛してるよ。人は変われるんだ。」  ステージでは犬遠藤さんのソロで弾き語りが始まっていた。渋いブルースをゆっくり歌う。  哀愁を感じさせるギターソロ。 スパニッシュギターに持ち替えてフラメンコを弾き始めた。粟生がステージに上がってフラメンコを踊る。激しいリズムに腰が揺れる。  それで今夜はドレスを着ているのか。 「上手いな。」  激しくセクシーに腰を振る。粟生の意外な一面を見た。踊り終わってみんなで乾杯した。 「粟生は子供の頃、私とスペインで暮らした事があるんだ。5才頃から10才まで。  私がフラメンコギターを修行しに行っていた時だ。それで帰って来ても日本の学校に馴染めなかったのかもしれないな。」 「おじいちゃんのせいじゃないよ。 アタシはロマの人に憧れたんだ。ジプシーっていうのは差別用語。ロマが正しい。  天涯孤独のロマの子供になりたかった。 歌って踊って旅して暮したかった。」  みんな何かを背負って生きている。それでも、粟生にはギフテッド、歌がある。  琥珀の手を握りながら五月雨が見つめてくる。 くすぐったい。  亮たちのラップバトルが始まった。

ともだちにシェアしよう!