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第198話 無頼庵
コスプレショップ無頼庵には犬たちが自由に出入り出来る躙り口(にじりぐち)がある。
寄棟の大きな屋根が特徴的な古民家には、八畳台目の茶室に床の間に向けて躙り口がある。
コスプレの着替えなどにも使われる部屋だ。
犬たちが入れるように、いつも押せば開く扉が付いている。
炉の切ってある八畳の茶室の先に、厨の土間が続いている。
土間にいつも水とドライフードが用意されている。八犬士たちがいつでも入れるように。
野犬が入ってくる事はない。野良猫はいるが、野良犬は絶滅した。
一昔前、野犬は見つけ次第殺処分した時代があった。今、市街地で野良犬はほとんど見かけない。人間が害獣認定すると、見つけ次第殺されるのだ。この頃は、アライグマとか、ハクビシンがそれだ。畑の作物を荒らして食べてしまうから、駆除するしかないのだろうか。悩ましい問題だ。
農家の人を思うと軽はずみな非難は出来ない。
やはりこの地球は殺戮の星なのか。生き物を殺す事でしか生きていけない。食物連鎖の地獄。
ロックバーから犬たちを連れてオショーがやって来た。
「みんな盛り上がってるから、犬士たちはここで休んでくれ。暖かい寝床もあるだろう。」
玉梓が綸子の側(がわ)に綿を入れて犬用の布団を作った寝床が、大小ある。
昔の女郎屋で使っていたような、犬には少し艶めかしい布団だ。玉梓の手持ちの布だった。
「わあ、ここに来るといつも気恥ずかしいわ。
ラブホッぽい。」
「ラブホ、知ってるのかよ。」
シノの言葉に源八が言う。ケノも
「男たち、盛(さか)らないでよ。」
「メスが誘わなければ盛らないよ。
失礼しちゃうな。俺たち紳士だよ。」
しんべヱが抗議する。
オショーが笑いながら聴いている、犬たちの会話。ヒートのタイミングが来なければ、犬たちは理性的だ。
「人間のようにノベツマクナシ、に発情するわけじゃないな。
じゃあ、私はロックバーに戻るよ。」
オショーが帰って行った。
「自然に生きるって難しい。やっぱり無理があるな。」
「生き物はおたがいが、餌なんだよ。
食うか食われるか。綺麗事は言えないな。」
犬たちは聡明だ。
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