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第204話 戦国時代
500有余年前。戦国時代、主君の命令は絶対だった。畜生道に落ちた姫を助けてくれ、とは主君は望んでいなかった。
そもそも八房にした約束をたがえたのは、主君里見の殿様だった。犬の命がけの約束を破ったのだ。ずいぶんいい加減な殿様だった。
犬なんかに娘を嫁にやりたくないばかりに、八房に美味い猪肉を食わせようとしたり、宝石の勾玉の付いた立派な首輪を与えたりして誤魔化そうとしたが頑として拒否されたのだ。立派な首輪は鋺が張った結界を破るために役に立った。
それで畜生道に落ちた、とするのは言語道断。
二人は愛し合っていた。今もなお。
鋺大輔は主君の命令に逆らえない。武士の哀れと言えるかもしれない。
出家して僧衣の鋺大輔は、あの橋を渡って帰って行った。
ラクダが見送った。
「サラリーマンと同じようなものですね。
上司の言う事には逆らえない。もう戻って来ないでしょう。
それと、余計な事ですが、里見の殿様は玉梓に会いたかったようですよ。」
傍らで微笑む玉梓に言った。
「あ、私、殿の側室だった気がするわ。」
オショーは微妙な顔をした。
勝手な主君に振り回されるのは、今も昔も変わらない。パワハラ認定もされなかった戦国時代、女性には自由が無かった。
愛を貫いた伏姫は、あっぱれ、と言えるだろう。
犬たちはホッとしたようだ。
「犬種も生まれた所も年も違うのに、八つ子のように言われて変だと思ったのよ。」
と、シノが言う。
「でも俺たち何かの因縁がありそうだ。」
「きっと魂の八つ子、だな。」
オショーと玉梓が立ち会って、一件落着と言う事でいいだろうか。
犬たちはしゃべる事を自粛する、と話し合った。小次郎もディーキーも頷いている。
「玉は持ってるか?」
オショーに聞かれて
「あれっ?あれっ?」
「ないよ、ないよ。」
「玉、出せなくなってる。」
犬たちの混乱をよそに
「しゃべるのも下手になってる。」
「ウーワンワン、ホントだ。しゃべりにくい。」
「ワワン、玉梓は知っていたんだね。」
「ウーウー」
「でも大丈夫。みんな、言葉は理解してるでしょ。賢い犬に変わりないよ。安心して。」
ひとまず、犬は大団円って事で。
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