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第212話 暴力
拳が顔面にめり込む感触。鼻血が噴き出す。止まらない。五月雨の暴力性が解放される。
2台の族車に囲まれて車を停めた所で、頭が熱くなる。箱乗りするのか窓全開の車から一人引き摺り出す。車から出されたら、戦意喪失か、顔面にこぶしを叩き込む。鼻骨が折れたか、鼻血が止まらない。自分の血にビビっているガキのその顔がやけにイラつかせる。
ハンドルを握っていた前の車が仲間を置き去りにして逃げ出した。気がつけば後続の車から出て来たガキが、金属バットでスカGをボコボコにしている。首を掴んでアスファルトに叩きつける。
もう一発、蹴りを入れて、気絶させる。
置き去りにされたやつのために救急に連絡した。
久しぶりに暴力を堪能した五月雨は、スカGがまだ動く事を確認してベースまで帰った。
「ひどーい!」
車を見て、サイコと粟生が叫んだ。
「メイ先生の車は、まだ痛車にしてなかったのに。」
大切に乗っていたGTR。
「これから痛車にする予定で絵柄を選んでたところだった。」
聡が悔しがった。整備工の兄貴を呼んで見てもらう。相談したら
「大丈夫だよ。焼き付け塗装で修復出来るだろう。茂○の高橋自動車に持って行こう、レッカーで来てるから。
メイ先生、しばらく預かります。」
「塗装するならついでに痛車にしてしまおう。
出来るかい?こんな有様で。」
「フルラッピングですね。大丈夫です。
時間がかかりそうだから代車、用意しますね。」
そう言ってプリウスを持って来てくれた。
五月雨は好きな車じゃないが我慢した。
琥珀は五月雨があまりにも意気消沈しているので心配だ。そっと手を繋ぐ。
顔を上げてにっこりと微笑む五月雨はとても素敵だ。傷だらけの手を見て、かなり本気で殴ったのだろう、と想像出来た。
五月雨が意気消沈して見えたのは、暴力の興奮が冷めたからだった。
高速道路ではない有料道路での出来事だった。
その話を聞いて聡の同級生たち走り屋が動いた。
彼らのネットワークはすごい。鉄平が聞いて来た。
「聡の友達、内田って奴が、金校の卒業生に聞いたって。いろいろな情報が入って来た。
元教師が白浜ベースにいるから、シメろ、って
上から話が降りて来たって。
スカGの事もわかってたっぽい。
北関東の族で、バックにチャイマが付いてるから
この頃やりたい放題だってさ。ほとんど外国人。
ヤバい連中みたいだ。」
車はそれほど酷い事にはならなかった。塗装で戻るらしい。
「内田が聞いて来た話だと、奴らの方が大惨事だったらしい。かなりやられてたって。
一人であんな事出来るのか?って噂が広がってる。先生は狂犬か、重戦車だって、みんな恐れてたって。」
五月雨はそんなにダメージを受けていない。やられたのは車だけだった。苦笑いしている。
「奴ら、被害届出したら面白いな。
こっちが被害者だけど。」
「でも、そいつらが言ってるって。
今度は痛車狩りだ、って。聡、気をつけろ。」
オショーも問題にしている。まったく犯罪だ。
金平を呼びつけた。
「ワタシの知らないところで何があっても仕方ないね。ワタシたち人数が多いから、血気に逸るものもいるね。
仲良くやれ、って事でしょ。」
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