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第221話 図書館

 図書館の本の独特の匂い。 学校の嫌な思い出と違って、救いのような、一つの逃げ場だったあの頃。この町には小さな図書室しかなかったが。 (懐かしい匂い。安心する書架の陰。 思い出す。だからオレは本が好きだ。)  聡は久しぶりに三郎の図書館カフェに来た。カフェには寄らずに真っ先に2階の図書スペースに上がって来た。  何冊か、本を取って椅子のあるガラス張りの窓際に座る。2階からはギリギリ海の気配がするだけだ。三郎が来た。 「古着屋さん、どう? 面白そうだ、と思ってたんだ。」 「うん、古着って面白い。音楽とも繋がってるんだ。時代を反映してる。ファッションだからね。」  三郎の静かで押し付けのない佇まいに好感を持てた。 (ジョー先輩はサブのこう言う所が好きなんだな。) 「ジョー先輩とは、どお?」 「どお、って?彼は興味深い人です。」 「恋人をいつまでも興味深い、なんて言えるのは素敵だ。」 「ははは、1階の厨房にいるよ。」 「後で何か食べに寄るよ。 タカヨシと待ち合わせだから。」 「相変わらず、仲いいね。」 「お互いに、だ。」  サブが下に降りてまた一人の時間になった。 昨夜のタカヨシに抱かれた余韻が腰のあたりをくすぐる。 (昨夜は久しぶりだった。 身体中で求めていたんだ。 タカヨシがいないと生きていけない。 こんなにも愛してる。口に出さないけど。)  階段を上がってくる足音。タカヨシの足音だ。 心が浮き立つ。  結構広い図書スペースで、階段の前に司書の女性がいるが、窓際からは離れている。  何かの本を見ている。図書目録かな。 カウンターの中でそこだけ、忙しそうにモニター画面を見ながら操作している。  意外とたくさんの書籍が揃っている。彼女のセンスなのか、面白そうな新刊がすぐに揃う。  この市は今まで文化にかける予算が少なかった。白浜ベース商店会からも出資して、やっと図書館と呼べるものが出来た。  高齢化が進むこの市で、本は年寄りの楽しみになっている。DVDの貸し出しもある。 「タカ!」 走って来てキスしてくれる。 (オレの恋人。)

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