221 / 256
第221話 図書館
図書館の本の独特の匂い。
学校の嫌な思い出と違って、救いのような、一つの逃げ場だったあの頃。この町には小さな図書室しかなかったが。
(懐かしい匂い。安心する書架の陰。
思い出す。だからオレは本が好きだ。)
聡は久しぶりに三郎の図書館カフェに来た。カフェには寄らずに真っ先に2階の図書スペースに上がって来た。
何冊か、本を取って椅子のあるガラス張りの窓際に座る。2階からはギリギリ海の気配がするだけだ。三郎が来た。
「古着屋さん、どう?
面白そうだ、と思ってたんだ。」
「うん、古着って面白い。音楽とも繋がってるんだ。時代を反映してる。ファッションだからね。」
三郎の静かで押し付けのない佇まいに好感を持てた。
(ジョー先輩はサブのこう言う所が好きなんだな。)
「ジョー先輩とは、どお?」
「どお、って?彼は興味深い人です。」
「恋人をいつまでも興味深い、なんて言えるのは素敵だ。」
「ははは、1階の厨房にいるよ。」
「後で何か食べに寄るよ。
タカヨシと待ち合わせだから。」
「相変わらず、仲いいね。」
「お互いに、だ。」
サブが下に降りてまた一人の時間になった。
昨夜のタカヨシに抱かれた余韻が腰のあたりをくすぐる。
(昨夜は久しぶりだった。
身体中で求めていたんだ。
タカヨシがいないと生きていけない。
こんなにも愛してる。口に出さないけど。)
階段を上がってくる足音。タカヨシの足音だ。
心が浮き立つ。
結構広い図書スペースで、階段の前に司書の女性がいるが、窓際からは離れている。
何かの本を見ている。図書目録かな。
カウンターの中でそこだけ、忙しそうにモニター画面を見ながら操作している。
意外とたくさんの書籍が揃っている。彼女のセンスなのか、面白そうな新刊がすぐに揃う。
この市は今まで文化にかける予算が少なかった。白浜ベース商店会からも出資して、やっと図書館と呼べるものが出来た。
高齢化が進むこの市で、本は年寄りの楽しみになっている。DVDの貸し出しもある。
「タカ!」
走って来てキスしてくれる。
(オレの恋人。)
ともだちにシェアしよう!

