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第241話 天下劇場に行く

 『無頼庵』に戻って来た五月雨を、琥珀が心配そうに見た。 「図書館カフェ、どうだった?」 「今、ジョーたちはピアスの話で持ちきりか、と思ったら、意外なお客さんがいたんだ。」  涅槃寂静のボスの山崎さんが、奥さんを連れて来ていた、と言う。 「へえ、奥さんってどんな人?」 「凄い美人だったよ。」 琥珀の肩を抱いて頬にキスしながら、そんな事を言った。 「メイ先生は好きになっちゃった?」 「どうして?ここに琥珀がいるのに。他の誰も目に入らないよ。」 「うそ、しっかり見つめて来たんでしょ。 美人だ、って認識出来る程には。」 「ははは、ツッコミが厳しいな。」  五月雨は、相手が美人でも、女性に興味が持てない。琥珀を抱いている時が一番幸せなのだ。 「今夜はお客が少ないねぇ。」 ロックバーの咲耶さんがつぶやく。 「みんなF市の天下劇場に行ったんだって。 ストリップショーを見に。」  店に来たサブとジョーが応えた。 オショーについて行ったのは、粟生とナナオ、鉄平、サイコ、そしてなんと玉梓まで。  フレディが8人乗りのワゴンを出してくれた。  夜遅く一行は帰って来た。 みんな魂を抜かれたようにぼーっとしている。 放心状態のようだった。  五月雨はオショーに声をかけた。 「どうでした?母も一緒だったんでしょう?」 「ああ、ものすごく綺麗だったよ。 玉梓はどうだった?」 「ああ,刺激的ね。見ていられなかった。 今の時代はすごいわね。」 「アタシは好きな人と見に行きたくないな。 綺麗でセクシーで、嫉妬しちゃう。」  粟生の感想は真っ当だった。  オショーは五月雨から、ニンフォマニアの事を事前に聞いていたから、飛鳥の事が心配だった。  日を改めて涅槃寂静のボス、山崎氏とゆっくり話そう、とオショーは思っている。五月雨にそう言った。

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