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第249話 琥珀

 家を出てほどなく、五月雨とこういう関係になった事は、母親の知る所となった。  母は激怒した、勝手に高校を辞めた時もこれ程は怒らなかった。 「私の育て方が間違っていたの?  だから、夫は他の女に走ったの? どうして普通に生きてくれないの?」 母は号泣した。気の強い母だった。後にも先にもこんな母を見たのはこの時だけだった。  琥珀の両親は、琥珀が15才の時に離婚している。 「親父は、母さんより好きな人がいる、って俺が小さい時、出ていったんだ。  琥珀より大事な家族がいるって言って。 銀行員で離婚はまずいから、と15才になるまで待って、離婚した。ずっと別居して潤沢なお金を送ってくれていた。  大人の都合か、父親と一緒に暮らした思い出はほとんど無い。  俺はおじいちゃんと母さんに育てられた。 だから歪んでしまったんだ。」 五月雨は、声を出して泣く琥珀が愛しくて、この手で抱きしめたいと思った。 (僕が歪めてしまったのか。 琥珀の心を。いや、身体もだ。」  和室に逃げた。畳の部屋に布団を敷いて眠ろうとした。  ベッドルームに琥珀を置き去りにして。 (ダメだ。これじゃ逃げてるだけだ。 この手に抱きしめたい。)  琥珀の腕に残る無数のリストカットの痕。 「琥珀が死んでしまう!」 居ても立っても居られず、ベッドルームに戻る。  バタン!ドアを開ける。 「琥珀、僕にもう一度チャンスをくれないか?」 涙で泣き腫らした愛しい琥珀。 「君は綺麗だ。 決して汚れない、僕の天使。 もう一度、愛させてくれないか。」 この手に抱きしめたい。 この手に抱きしめたら二度と離さない。 そんな思いで手を伸ばした。 「僕は汚いか? 心が離れてしまったか? もうダメなのか?」 見つめる琥珀の瞳から涙が止まらない。 「ごめんよ。 もう一度キスしておくれ。」 一歩前に出て手を伸ばした。

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