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第251話 ロックバー

 夜になってみんなロックバーに集まってくる。 今夜はバンドのライブ、か。  五月雨がドラムの後ろに座った。ソロを叩いている。いつにも増して激しい。  長い髪をかきあげて、汗が飛び散る。 「今日は汗拭く人はいないのか?」 鉄平に聞かれて五月雨は寂しそうに、笑った。 ドキッとするそのイケメン。腕にリストバンドを付けて汗を拭いている。 (ああ,これは、琥珀とお揃いのリストバンドだった。)  切なさが込み上げて来る。たぶん琥珀は来ないだろう。しばらく口も聞いていない。  眠る時も一人だ。琥珀の寂しさを思う。寂しさを受け止めてやれなかった。 (僕は本当に,やれなかったのか。) 「なんか激しいの、演る?」  粟生が来て言った。ナナオが見守っている。 すっかりカップルになったようだ。 (僕も琥珀に愛された事があったなぁ。 遠い昔のようだ。) 「先生、元気ないね。 こんな時は無理に激しいのやらないで、 しっとりとバラードでもいいな。」  みんなは薄々感じていた。琥珀と五月雨がもう終わりだ,と言う事を。  詳しい事は知らなくても、噂は流れる。 「俺たち、メイ先生と琥珀の事、応援してたんだぜ。」  鉄平たちが話している。あの涅槃寂静のボスと花園飛鳥が原因だろう、と。  美しすぎる花園飛鳥が,諸悪の根源だ、と言う噂。 「ボスも酷いよな。嫁がメイ先生に一目惚れしたんだって。」 そういう事になっている。 「でも、メイ先生は絶対に不倫なんかしないよな。」  鉄平もナナオも信じている。 ジョーが聞いていた。サブもジョーを突っついている。 「ジョーも花園飛鳥に見惚れてたよね。 僕より彼女がいいんでしょ。」 「そんなわけないだろ!」  ジョーはサブが可愛くてならない。 そんな事を言いながらも肩を抱いて頬にキスしている。愛おしそうに。  ライブが始まる頃になって、琥珀がDJタイジと入って来た。  DJタイジは先ほどから、セッティングをしていたと思ったら、外に出ていたのか、琥珀の肩を抱いて入って来た。  ソファに座らせて手を握ると何か囁いた。 頬を染めて頷く琥珀。まるで恋人同士のようだ。  今日の琥珀は妖精のようなドレスで、少年か,少女かわからない、不思議な、いでたちだった。

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