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第255話 琥珀
「何か、気配がする。夏の匂い?まだ寒いのに。」
琥珀は夜半に目覚めた。
(おじいちゃんは、寝てるかな。)
琥珀は通販でコスプレの衣装を仕立てている。
難しいコスプレの衣装を上手に、二次元から三次元に起こす技術は評判がいい。
コミケが近づくと、仮縫いのお客さんで忙しい。おじいちゃんの家の一角を借りてアトリエにしている。『無頼庵』ほど広くはないが、使いやすくレイアウトした琥珀の城だ。
遠くに車のエンジン音が聞こえる。
特徴的なDOHCのエキゾーストノート。
「メイ先生の車?」
(そんなわけないよ。
とうとう幻が聞こえるようになったのか?)
外に出てみる。夜明け前の澄んだ空気。海の方はもう明るいのだろう。
(夜明けの海をメイ先生と見てみたい。)
1日だって忘れた事はない。いつも心の中にいる。メイ先生に会いたい。
(バカだな。何があっても手を離さなければ良かった。)
今ならわかる。愛し合う事は少しも醜くないって。
先生に愛されて幸せだった。身体を開かれて、快楽に溺れるのが嬉しかった。あの気持ちを自分で汚したんだ。
もう一度、九十九里の海を二人で歩きたい。
足を濡らして、転びそうになっても、メイ先生がいる。抱きしめてくれる。
覚えている。キスしたらもっと欲しくなる。
その先に進みたくなる。
五月雨を責めたけど、いつも我慢できなくて欲しがったのは琥珀だった。
(まるで、自分だけがきれいなふりをした。
心のままに求める事をメイ先生のせいにして、恥ずかしさから逃げた。)
子供だったと思う。今なら愛で返せる。
五月雨の教えてくれた愛と快楽。
男同士だという事を,琥珀自身が受け入れられなかった。誰よりも愛しい人だと、認めていたのに。こんなにも求めているのに、もう、取り返しがつかない。
「メイ先生。」
声に出して言ってみる。
車が減速して歩いている琥珀の隣に合わせている。
「えっ?」
夢じゃないよね。笑ってるメイ先生が、窓を下ろした。
「姫、お迎えに参りました。」
白馬じゃないけど。スカGだけど。
車を停めて降りて来た。抱きしめてくれる。
「先生,本物?」
両手で顔を挟んで熱いくちづけをした。
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