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◉2◉思惑_1 (⚠️強⚪︎有り、SM・暴力系です)

「もう夕方か……」  時計のない部屋に響く、規則正しい乾いた音。それが唯一、俺が外の様子を知るための手掛かりとなる。もうどれくらい時間が経ったのかも分からない。 俺はカゴの中の鳥のように、ある男に飼われている。  珍しく一人で飲みに出かけた日のことだった。  隣に座った男に声をかけられ、話が弾んだ。飲み直そうかと言われて浮かれた俺は、二つ返事で了承し、その男の家へとやって来た。  少しだけ二人で飲み直した後、ちょっといい雰囲気になったのは覚えている。そこで記憶が途切れてしまっていた。起きたら下着姿に浴衣なのかローブなのか、とにかく引っ掛けるだけのような服を着せられていた。 「お前は俺のものだから」  短く告げられて、その言葉に耳を疑う。  何を言っているのかと訝しんでいると、男は俺を押し倒した。 「わっ……、ちょっと何してんの?」  そう訊ねた俺の頬を、鋭い痛みが走る。何が起きたか分からずに呆けていると、そこがジンジンと熱を持ち始めた。 「え、もしかして殴っ……た?」  俺の問いに、男は無表情のまま答える。 「ああ、殴った。俺、これからお前をここで管理するから」 「はあ? 管理って、——どういうこと? 俺は殴るような奴は嫌いなんだよ、だって……」  反論しようとする俺を制するように、男は肩を揺らす。 「何言ってんだよ、殴られるの好きなんだろう。だって、勃ってるじゃないか」  そう言って指差した先には、確かに兆した熱の塊があった。 「あ、いや、これはそういうんじゃ……」  不格好に盛り上がった場所を隠しながらそう言い訳をしようとしていると、男は俺の口を塞ぐ。 「んっ、あ……、ふ」  そうしながら、胸の先端を思い切りつねられた。唐突で遠慮の無い刺激に、背中の奥まで響きそうな嫌な痛みが走る。それから逃れたくて、思わず腰を引いた。 「ぃっ……つ! や、やめっ……!」 「——ええ? いや、痛いの好きだろう? 黙ってやられてろよ。ホラ、こんなに気持ちよさそうじゃないか。お前Mなんだろう? 言わなくても俺には分かるんだよ」  嫌だと言ってもやめようとしない男に、俺は焦った。その上、自信満々で人の話を聞かず、自分の思ったことだけを言い放つ。その顔が嬉しそうに緩むたびに腹が立つのに、それを見て見ぬふりをしながら俺の頬を殴っていた。 「がっ……!」  肉のぶつかる衝撃と共に、また痛みと熱が俺を襲う。反論する言葉も出せず、ただぐらぐらする体を倒さないようにすることで精一杯だ。  鼻を殴ったのだろうか、シーツにぼたりと血の花が咲いたようなシミが出来る。ジンジンと響くような痛みがこびりついて取れず、もうどこを中心にそれが起きているのかも分からなくなるほどに翻弄されていた。 「——やめろ……」  俺は痛いのは嫌いだ。早くここから逃げ出したい。そう思い、出口を探すために室内を見渡す。しかし、隙を見て脱走するにしてももう殴られ続けてそう俊敏には動けない。結局はただ痛い思いをするしかないのか……そう思うと、絶望しかなかった。  どうしてこんな事になったのだろう。そう嘆こうとしても、もう遅い。 「うぅっ……! う、ぁっ、ぐっ……!」  男は、俺に悩む暇も与えないほどに、立て続けに殴る蹴るを繰り返す。どすっと肉が打たれる音と衝撃が体に満ちていく。痛みが広がり、それを全く嬉しいとも気持ちがいいとも思えない俺は、間違いなくMでは無いと言い切れるだろう。そんなことを思いながら、ただ殴られ、そして怒っていた。  やめて欲しいと懇願しても、それは全く聞き入れられそうにない。それどころか、一発ごとに躊躇いがなくなるのか、相手の力はどんどん増していた。  それから何発殴られただろう。だんだん不明瞭になる思考を守ろうと、とにかく頭を守らねばと思い、腕で頭部を覆い丸くなった。すると、男はそれを狙ったかのように俺の手に枷を嵌める。ガシャッと響いた音に驚いて手元を確認しても、もう遅い。両手は手錠で繋がれていた。 「えっ、ちょっと! 何だよこれ。外せ!」  あまりの事に、俺は驚き怒鳴り声を上げる。すると、男はニヤリと悍ましい笑みを見せた。 「ええー? やめてほしいの? いやいや、好きでしょ、こういうの。自由を奪って上げると気持ちよさそうにするじゃないか。いじめられるの、好きなくせに」 「そ、そんなワケねえだろ! 俺被虐嗜好なんかねえんだから……。あっ、ちょっと……んっ!」  必死に抗議する俺の意思とは裏腹に、なぜか体は好意的な反応を示している。触られるたびに胸や中心は反応し、腕に噛みつかれると鈴口から透明な蜜がこぼれた。 「ホラ、な? 間違いなく喜んでるだろ?」 「ちょっと、なんでこんな……。お前、もしかして何か飲ませただろう?」 「さあな」という男の後ろに、何かの空き瓶が見える。 「やっぱり……。同意もなしにやめろよな。このサイテー野郎」 「サイテー野郎って酷くない? せっかく探してきてあげたのにさあ」  また意味の分からないことをほざいている。俺は呆れて口を噤んだ。  あの店に来るくらいだ、少しは危ないやつもいるだろうとは思っていたけれど、まさか薬を盛られるようなことがあろうとは思いもしなかった。  ただ、俺もこれまで清いお付き合いだけをして来たわけじゃない。多少強引なのは刺激があっていいとは思っている。けれど、これほど一方的だと萎えてしまうのだ。 「でも結局気持ちよくなれてんならさあ。別にいーじゃん」  そう言って男は俺の服を剥ぎ取る。そして、無遠慮に両腿に手をかけると、思い切り足を割り開いた。そして、勢いに怯んだ俺の隙をつくと、一気に俺の中へと入って来ようとする。先端をあてがわれた瞬間にそこがひくりと蠢いた。 「んあっ……! あっ!」  それまで遠慮なく勢いで押そうとしていた男が、なぜか挿入だけはやたらに気遣ってくれてからか、薬が効いているからなのだろうか、思った以上に気持ち良くて困ってしまった。快楽に体が震えてしまい、抵抗出来なくなってしまったのだ。  それを見て、男はほとんど表情を動かさずに、でも確実に表情を変えた。うっすらと温度の上がる、匂い立つような笑顔を見せている。それも、せせら笑うのではなく、繋がれたことを心底喜んでいるかのような、幸せそうな笑顔を見せているのだ。 「ああ、やべえ。気持ちいい……。ホラ、お前ももっと喜んでよ」  そういうと、抱えていた足をさらに高く上げ、腰を思い切り押し出した。そして、顔近くまで来た内腿の肉に思い切り歯を立てる。がぶりと音が聞こえそうなほどに食らいつかれ、俺は悶絶した。 「あ、が、ぁっ……!」 「えー? 痛いの? それとも気持ちいいの? 気持ちいいよね。だって噛んだ瞬間後ろぎゅーってなったもん。俺のが千切れるかと思った」  そう言って笑う男には悪いが、俺は噛まれて喜ぶタチではない。肌に食い込む歯を見ていると、一本残らず折ってやりたくなってしまった。でも、枷をつけられているからそれは出来ない。痛いのが嫌いな人間にとっては、これはただの拷問だ。相変わらず幸せそうにニコニコと笑いながら、さらに深く入ろうとするその力を緩めさせなくては、俺は気が狂ってしまうだろう。 「口、はなせ! いてぇのなんか好きじゃねえってば」  嫌だと言えばいうほど、その歯はめり込む。肉がつぶれていくのが分かって、俺は悲鳴をあげた。 「……うあああ!」  どうにかして逃れようと繋がれた両手を振り上げ、男の背中目掛けて思い切り振り下ろす。鈍くて重い音が、男の体を通して俺にまで鳴り響いた。お互いの体が揺れるほどに強く殴っているのに、男はそれを至近距離でニヤニヤしながら眺めている。その様子を見ていると、俺は言いようの無いドス黒い感情でいっぱいになっていった。 「はな……はなせって……ば!」  突き飛ばそうとして手を振り上げると、何を思ったのか、男は急に律動を速めた。水音と共に、快楽の元が押しつぶされる。 「ひぃあっ……!」  刺激が走るたびに、腰が反応して止められない。思い通りにならない体に、感情が壊れて心がぐちゃぐちゃになりそうだ。 「あっ、ああっ……ぃやだっ……」 「そんなこと言って、めちゃくちゃ良さそうじゃん。——俺もすっげえいいんだけど。ずっとこうしてたいなあ」  そんな殊勝なことを言いながら、男は俺の顔を殴る。気持ちよさと痺れるような痛みに、俺の意識はだんだん遠ざかり始めていた。 ——嘘だろ、こんなやつの前で落ちたりしたら……。  落ちちゃいけないと思いながらも、それを止めることは出来ない。俺は白濁を撒き散らしながら、意識を手放していた。

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