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◉2◉思惑_3(⚠️強⚪︎有り、SM・暴力系です)
男は苛立ちを治めるために俺を殴り、その勢いで俺を抱く。怒りが昂りに直結しているのか、腹を立てれば立てるほど興奮するらしい。
毎日続く地獄の中で俺は探していた。男も気づいていない俺の望みを叶えるために、この生活の中に潜むチャンスを。最初に殴られた日から、ずっとだ。
そして、ようやく見つけた。今のパワーバランスを狂わせるために必要なもの。それは、男が暴力を振るう回数——つまり、抱く頻度に現れた。
ただ殴られ、蹴られていた頃は、拘束されたり時折噛まれたりもしたが、その程度は軽く、噛み痕に血が滲むことがあるくらいで済んでいた。俺は被虐嗜好など持ち合わせていないため、それでも十分に嫌な思い出だが、とにかくここから逃れることばかりを考えていた。
ただ、人間はよく出来た生き物で、ある程度のものであれば、痛みも苦しみも次第に慣れてしまう。段々と俺は以前ほどの痛みを感じないようになっていった。痛みも苦しみも感じなくなった頃、飲まされていた薬の効きも悪くなっていた。
そうなると、俺は何の反応も示さない人形のようになる。それでは面白くないのだろう。次第に男が俺を抱く回数が増え始めたのだ。
俺を抱いても満たされなくなってしまったのか、必死の形相で俺を揺らし、泣きながら俺を殴りつけ、どうにか果てるという事を繰り返していた。
その事が男にさらなる苛立ちを与えてしまい、消化しきれなくなったそれが、暴力の傾向をも変えていった。
縄で下手くそな縛りを施されて手足の自由を奪い、秘部を晒されてそのままうつ伏せに押し倒される。身動きの取れない俺の背中に男は覆い被さると強引に俺を穿ち、食いちぎられそうなほどの力で俺の肩に歯を立てた。
「ぎっ……いっ……!」
堪えては見ても漏れ出る微かな悲鳴を聞くと、男は悍ましい顔でニタリと笑う。その引き攣ったような顔で唇を貪られると、自分の血の味が口内に広がるのを感じた。
その不味さに顔を顰めると、相手は楽しそうに笑い始める。
痩せていた俺の体は、男の与える栄養のおかげでやや肉付きが良くなったのだが、その尻が派手な音を立てるくらいに激しい律動で責められた。
「あっ、あ……っ、ぐぅっ……!」
信じられないことに、暴力の痛みを除けば男との体の相性は恐ろしいほどに良かった。 でも、もちろん不快なことをされているのだから、どこか冷めた気持ちがあることに変わりはない。ただ、気を失う寸前くらいまで快楽に囚われるくらいには溺れかけていた。薬の効きが悪くなっていることになかなか気がつけなかったのは、自分が薬なしでも男との行為に溺れていると気が付きたくなかったからなのかもしれない。
挿れられたまま背中を殴りつけられた時は、射精るタイミングと同時になってしまい、息が詰まって死ぬかもしれないと思ったくらいだ。
その強い快楽の中でも、男は怒っていた。怒りながら、俺の悲鳴を聞いて薄く喜び、そしてまた怒っていた。
怒りの感情は、何かしらの願望を持つ物にだけ与えられる。男には、何かうまく運びたいことがあるのだろう。それが上手く出来ずにいて苦しんでいる。その鬱憤を誰かにぶつけたかったのだろう。そのために、誰かを閉じ込めて嬲るということを思いついたのだろう。そしてあの日、俺ならそれに答えてくれそうだと思ったのだろう。
——かわいそうに。
そう思いながら、俺はその時が近づくのを確信していた。
あの日、俺は選ばれた。
男の怒気を宥めるための道具に選ばれた。
俺との会話の中で、俺が被虐嗜好者だと思った男は、最初に俺を抱いた時、こうすればお前は喜ぶんだもんなと言って満足そうに笑っていた。
それは正直見当違いもいいところだったのだが、ただ、俺は優しい。だから、正直本意ではないのだが、それに応えてあげることにしている。
殴られればうっとりと見つめ返し、蹴られれば快楽を得たような顔をして震えてやる。時にはその痛みに昂ったように見せかけて、兆したモノを見せてやるというサービス精神を見せたりもする。
でも、男は知らない。今の俺は、奴を愛しているということを。
あの、勘違いした時の顔は最高に愛おしかった。自分も相手も見抜けないような愚かな男……俺はそれが何よりも好きだ。
だからこの男は、いまだに俺にあるのは絶対的な加虐嗜好だということに気づけていない。そんな阿呆を見ると、勃って仕方がない。
——逃すものか。
そう思ううちに、愛が芽生えた。
愛したのだから、痛めつけたい。
その想いを、男は知らない。
分かるだろうか。今すでに俺たちの形成は逆転し始めている。
男は俺を愛する時、殴りつけながら穿つ。俺を翻弄したい時、抉りながら追い詰める。
肌に歯を立て、肉に食い込むほどに縄を巡らせ、持ち上げられた足は何も隠せず、秘部を晒して辱められる間、俺はずっと蕩けた顔をしてやっている。
でも、それは痛めつけられることを喜んでいるからじゃない。
もっと苦しめろ、もっと甚振れ、そうやってどんどん俺を追い込め。
俺への当たりが酷ければ酷いほど、その先の男がどうなるのかが楽しみで仕方がない。そう考えるだけで喜びに体が震える。
そして、溜め込んだフラストレーションは、いつの日か俺があいつを悲惨な目に遭わせるための原動力だ。
男は知っているのだろうか。
快楽は毒と同じだ。
俺を痛ぶるうちに、快楽は底をつくだろう。
次第にそれに慣れてしまい、それ以降は手に入れたとしてもまるで空気のようなモノになってしまう。
俺を痛めつけても痛めつけても、男は刺激が得られないようになる。
その時男はどうなるのだろう。
解消されない思いに苛立って狂いそうになり、最低な気分に陥っていく男を俺は見たい。
それが俺の望みなのだ。そのためになら、どんな痛みでも耐えられる。そのために堪えることは、ただの楽しみでしかない。
いつの日か、必ず俺は男を絶望の底へと突き落とす。だからそれまでは、この幼稚な支配に付き合ってやろう。
「俺なしで、あんたは生きていけるんだろうか」
「——はあ?」
血だらけの口を歪めながら俺がそう呟くと、男は驚いたように目を瞠った。
——ほら、来いよ
殴ればいい
噛めばいい
縛ればいい
必死になって、あったはずの刺激を探せよ。
もう止めることも叶わないくらいだ。思わず笑いがこぼれていく。
残念だが、もう二度とそれは手に入らないだろう。安易な欲に走った自分を恨め。
代わりに俺が楽しませてもらうよ。
何をしても気が晴れなくなったその時、無様な姿を晒す男を見たい。見たくて見たくて……。
「——イきそうだ」
ほら、今だってこの言葉を勘違いして喜んでしまって、可哀想だな。
「じゃあ、イけよっ!」
必死に叫んじまって、可愛らしい。
怯える俺にも、嫌がる俺にも、もう何も感じなくなって焦ってるんだろう?
——かわいそうだな。
ほら、もっと俺を興奮させてくれよ。そう思っているとどうやら俺の狂気が漏れてしまったらしい。一瞬男が怯んだ。その顔の情けなさと言ったら……。
「あーあ、何やってんだよ。残念だけど、ゲームオーバーだ」
あまりにいい顔をするから、中心が爆発しそうだ。拍動に倣うような痛みが、解放しろと叫んでいる。
「こっからは俺が食う側ね」
縛られている足をするりと縄抜けさせ、男の体を蹴り飛ばしてベッドへ叩きつけた。そのまま上に飛び乗り、男を組み伏せる。
「なっ、えっ……。わ、ぁあああ!」
細身で色白の俺が屈強な体つきの男の背中にのしかかると、男は何が起きたのかを理解出来ずにいるようで、首をひねって俺の顔を呆然と眺めた。だから、俺は気を利かせて分かりやすいようにと、男の目の前で手枷を引きちぎる。バキンと金属が断裂する音に、男は驚いて体を跳ねさせた。
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