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第3話 特殊係13課オカルト担当
直桜たちは指示に従い、地下十一階に向かった。エレベーターを降りると、長い廊下が伸びていた。
「エレベーターを降りてから、こんなに歩くフロアって、珍しいね」
「言われてみれば、そうですね。どこのフロアも降りてすぐ部屋の扉がありますから」
直桜の言葉に、護が思い出しながら返事した。
組対室以外で直桜が行ったことがあるフロアは、呪法解析部や解析本部、忍と梛木の部屋くらいだ。
他の階にも行っているであろう護が言うのだから、やっぱり珍しいんだろう。
「しかも、窓から外の景色が見えます。作り物ではなさそうですから、組対室のように外部に繋がっているっぽいですよね」
智颯に言われて、窓の外を眺める。
すぐ近くに砂浜が広がり、海が見えた。
「わぁ! 智颯、海だよ、海!」
直桜は窓に寄って智颯を手招きした。
「本当だ。久しぶりに観ました、海。子供の頃以来です」
隣で一緒に窓の外を眺める智颯も、ワクワクしている。
「そんなに、珍しいの? 海」
二人の様子こそ珍しそうに眺めながら、円が問う。
「桜谷集落は渓谷の合間にあるから、海ってあんまり縁がないというか」
「惟神はあまり集落の外に出してもらえないし、東京に来てからも行ってないから、そういえば海ってこんな感じだったなって思った」
直桜と智颯が同じようなテンションで海に感動した。
「そっか、海がない県だと、珍しい、よね。俺は神奈川の、相模原だから、身近過ぎて、何も、感じない、けど」
「私も、近くはないけど遠くもなかったので、特別感は薄いですね」
円の言葉に護が同意している。
「円て神奈川の人だったんだな。都会の人だ」
「全然そんなことないからね……」
キラキラした目で見詰める智颯に、円が困った顔をしていた。
「あれ? 保輔君は?」
護がキョロキョロしている。
廊下のかなり先の方で、保輔が壁に掛かっている絵画を見上げていた。
皆が近付いてきた気配を感じ取った保輔が護を振り返った。
「化野さん、この絵、何やろか。懐かしい気がすんねんけど、俺はこんな景色知らんねん。化野さんは知っとる?」
護が保輔の隣に立って絵を見上げた。
保輔が護に声を掛けたのは、絵から微量ながら鬼の気配がしたからだろう。
「どこかで見た気がしますね。しかも最近のような気がします」
腕を組んで考える護の後ろで、円が驚いた声を上げた。
「あ! 伊吹山、だ。保輔の、解析をした、時に、見た新聞に、載ってた伊吹山と、アングルが、似てる」
「あぁ、確かに似てるかも」
直桜は、ぽんと手を叩いた。
伊吹山の山頂は特徴的で、頂が二つに分かれていた。まるで一つの山の上から大きな手で削ぎ落して抉ったようだなと思ったから、覚えている。
「伊吹山か。だから懐かしいねんな。俺は覚えとらんでも、俺ん中の遺伝子が懐かしんどるのやろな」
どこか感慨深そうに、保輔は絵を眺めていた。
「しかし、鬼の気配がするのは、どうしてでしょうね。只の絵画ではないのでしょうか」
手を翳して気配を感じ取ろうとした護の手を、誰かが掴んだ。
「この絵は観賞用です。触れたり気配を感じ取ったり、まして正体を暴こうとしてはいけません」
腕を掴んだ男が薄く笑んで護を見下ろす。
「すみません……」
驚いた顔で、護は男を見上げた。
年のころ、四十は有に超えていそうなその男は、スーツを身綺麗に着こなして髪をきっちりセットした執事のような風体だ。
高身長な護より十センチは大きく見えるから、もしかしたら二メートル近くあるかもしれない。
何時の間に現れたのか全然わからなかった。
「どれだけ探っても、今ではまだこの絵の正体はわからないでしょうから。中へお入りください。惟神とそのバディ、鬼の皆様」
男が先を歩き、大きな扉の前に立った。
「この扉が、特殊係13課オカルト担当、通称、怪異の書庫の入り口となります。我が主、椚木 マヤ様のコレクションルームへ、ようこそいらっしゃいました」
男が丁寧に頭を下げる。
「私、執事の黛 と申します。御用の際は、何なりとお申し付けください。お声掛けがなくても御入用であれば、飛んでまいります」
顔を上げたら、片眼鏡 の鎖が揺れて、ちかっと光った。
直桜と護は顔を見合わせて、黛と名乗った男を眺めた。
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