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第45話 血魔術の副作用

 腕の中の男が不思議そうな顔で保輔を見上げた。 「どうしたの? って、あれ?」  男が口元を抑えた。  自分の低い声に驚いた顔をしている。 「瑞悠? え? 智颯君みたいに、なっとるけど、え?」 「よく、わかんないけど、保輔の親指から何か流れてて、舐めてたら、こうなった」 「流れたの、舐め……? まさか、俺の血魔術のせい、か?」  自分の右手を眺める。  腕にバングルのように絡まる琥珀色の輪の下から指を伝って確かに酒が流れている。 「お前、未成年やろが! 俺の血魔術は酒や。飲んだらあかんやろ!」 「お酒なんて知らなかったもん。それに、神世ではいつも御神酒、飲んでるよ。同じようなものじゃないの?」  話し方は、間違いなく瑞悠だ。  保輔は、ガックリと肩を落とした。  その肩を男の姿をした瑞悠が抱いた。 「いっぱい調べて、いっぱい考えてくれたんだね、ありがと。嬉しい。保輔が同じ気持ちだって知れて、とっても嬉しい」 「同じて、結婚?」 「結婚は、まだよくわかんない。けど、私ね、保輔とは人生を一緒に生き抜く戦友でいたいの。その為に必要なら、結婚もしたいと思う」  同じ方向を向いて、生きてほしい。  勾玉をくれた時、瑞悠は保輔にそう話した。  あの時から、瑞悠の気持ちは一貫している。 「敵わんなぁ。瑞悠は誰より、男前やわ」  瑞悠の胸に顔を預ける。  平らな胸はちょっと筋肉質で、もしかしたら保輔より引き締まった体をしているかもしれない。  けれど安心する温もりは、変わらない。 「俺と一緒に、生きてくれるか。瑞悠となら最強のパートナーになれるって、思うのや。そういう恋人の形があってもええと思うねん」 「それ、いいね。私も保輔と生きたいよ。保輔じゃなきゃ、きっと私みたいな面倒な女、扱えないもん」 「それ、俺の方やわ。俺みたいな普通やない人間、受け入れてくれる相手、そうおらんで」  瑞悠が強引に保輔の顔を掴んで自分に向けた。 「それって理研で生まれたからってこと? bugとかblunderとか、そういう話? 保輔は私と同じ人間だよ。何も変わらない。恋人になっても自分を卑下するような言い方したら、許さないから」  瑞悠が掴まえた保輔の顔を胸に抱く。  押し付けられた胸から、瑞悠の声が流れ込んでくる。 「保輔は私の恋人でバディで、支え合って生きていける人。みぃにとって大切な人。忘れないでね」  男勝りな彼女は、時々とんでもない包容力を発揮する。  危うく泣きそうになって、保輔は瑞悠の胸に顔を擦り付けた。 「今は胸、胸筋でゴツゴツだから、きっと気持ち良くないよ」 「そういうつもりで、してへんわ。けど、そうやな。瑞悠は今、男やんな」  瑞悠の腕を掴んで起き上がらせる。  智颯に似た顔に見えたが、その顔はよく見ればしっかり瑞悠だ。身長が少し高くなっているように感じる。体付きは筋肉が付いてはいるが、男の体躯と考えたら華奢な方だろうか。 「とりあえず俺の服、着るか?」  今日の瑞悠は私服で、ゆったりめのパンツスタイルだから、窮屈そうには見えないが。パンツの丈が短めに見える。 「そうだね。あ、男の姿だったら、妊娠しないんじゃないの? エッチできるよ」  瑞悠が真顔で小首を傾げる。  思わず頭を叩いた。 「いたーい、なんで殴るの。名案だと思ったのに。保輔の発情対策になるじゃん」 「勾玉もろてから、無駄に発情せんようなったって話したやろ。強化術も巧く使てるから問題ない」  大変不満そうな顔をする瑞悠を、どんよりした目で眺める。  顔も話し方も、慣れれば間違いなく瑞悠だから、男だろうと余裕で抱けるが。そういう問題ではない。 「うわぁ、ちゃんと下も付いてるよ。どういうロジックなのかなぁ」  自分の服を広げて瑞悠が下着の中を覗く。  瑞悠の腕を強く掴んで、やめさせた。 「オカルトにロジック求めんなや! どうしたらええのや。どうすれば戻るのや」  だんだん自分が冷静になってきて、血の気が引いた。  13課に来てから、理研やbugsにいた頃とは違う危機感を多く経験してきたが、この危機感は新しい。  恋人になった途端に彼女が男になった。なんて、そうあるケースじゃない。 「とりあえず、直桜さんたちに相談しようや」 「エッチしてから?」  絶句して瑞悠を眺める。  瑞悠は余裕の、というよりいつもの表情で保輔を眺めている。 「男やろうが女やろうが、瑞悠やったら抱けるけどな。戻るって保証が出来てからや。このままにはできん」 「そっか。保輔って慎重派だもんね。今のままじゃ心配で勃たないか」  納得したように呟かれると、切ない。  言い当てているから余計に辛い。更にいうなら、ちょっと腹が立った。 「戻る保証があるんなら今すぐやって抱くわ。俺がどんだけ我慢しとると思うのや。男でも女でもいいから今すぐにでもお前を抱きたいんは俺の方や!」  腕を引き、キスをする。  唇を食んで、舐めあげて、舌を絡める。  散々口内を犯しながら、手を伸ばした。  そっと触れた瑞悠の股間が熱い。 「……勃つと、こんな感じなんだね。保輔は、ずっとコレを我慢してくれてたんだ」  甘い吐息を吐いた瑞悠の目が色香に染まっている。  瑞悠が覆いかぶさって、保輔の唇を貪った。 「待て! だから、今は!」 「うん、しない。保輔がいっぱい頑張って我慢してくれたんだって、わかったから」  保輔を押し倒した瑞悠が、自分の股間を押し当てた。  半勃ちしている股間にぐりっと熱くて硬いモノが触れて、腰がビクリと震える。 「男の子の姿で、保輔とエッチしてみたい。勿論、女の姿に戻ってもしたいけど。両方できちゃうの、得だね。何回でも男の子になれるといいな」  保輔の上に乗った瑞悠が艶っぽい眼差しで、ぺろりと唇を舐めた。  順応性が高すぎる恋人に、保輔は只々気圧されるばかりだった。

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