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第48話 訓練前の座学①

 一月六日の仕事始め。  特殊係13課組対室の最初の仕事は、特殊訓練から始まった。  地下八階のフリースペースを訓練場にして、二週間の工程で行われる予定だ。  直桜に護、智颯に円、保輔が参加する。  監督官に重田優士、講師には忍に梛木に清人、意外にも榊黒修吾が入っていた。 「修吾おじさんも講師なんだね。前半組でも講師だったの?」  前半組では、律、瑞悠、清人、紗月に修吾が、忍たちの訓練を受けていたはずだ。 「前半では受講する側だったよ。訓練中に、俺の神力も藤埜君に似てるってわかってね。後半組は趣向を変えたんだ。役に立てそうだからね」  少しだけ納得できた。   速佐須良姫神が根の国底の国の神である以上、修吾が使う神力は闇だ。  流離が惟神の毒や久我山あやめの魂と親和性があったのも、闇の神力の使い手だった事実が大きい。  修吾の目が保輔に向いた。  歩み寄るとその手を取り、包むように握った。 「年末は、色々と大変だったね。改めてお悔やみを申し上げる。新しい年が君にとり穏やかであるよう祈るよ。訓練も一緒に頑張ろう」  きゅっと唇を結んだ保輔が、ぺこりと頭を下げた。 「ろくに話したこともあれへん俺にまで気ぃ使ってもろて、すんまへん。ありがとございます」 「これからは共に戦う同じ部署の仲間だよ。今より仲良くなりたいから、声を掛けたんだ」  保輔は怪異対策室と13課組対室を兼任している。怪異対策・組織犯罪対策担当所属という、少し特殊な立場だ。  所属直後の二ヶ月は13課組対室の仕事に入りっぱなしだったから、修吾とは挨拶くらいしか交わしていないだろう。   「修吾おじさんは13課の中でも唯一まともに優しい人だから、安心していいよ」  直桜の言葉に、保輔が顔を顰めた。 「言いたい意味はわかるけど、今それ言うんは、どうなん?」  微笑む修吾の後ろで清人たち講師の面々がそれぞれに微妙な顔をしている。 「そだね。ちょっと本当の話、しすぎた」 「大丈夫だよ、瀬田君と保輔は特に厳しい訓練希望で承るから。早速始めようか、藤埜」  優士が直桜と保輔の肩を抱いて連行する。 「待ってや、それ、俺もなん?」 「だって、わかっちゃうんだろ? 瀬田君の言葉の真意、わかっちゃうんだろ? 今すぐお父さんて呼ぶかい?」 「そういうトコや!」  じゃれあう優士と保輔を、修吾が笑いながら眺めている。  修吾の目が、今度は護に向いた。 「神結びをしてから、直桜の神力は落ち着いている? 化野くんは、不調はないかな?」 「はい、直桜に変わりはありません。私は、一人では請け負いきれない神力を朱華と保輔君が請け負ってくれているので、平気です」  護が自分の腹に手をあてた。  その手に修吾が自分の手を重ねた。 「どれだけ眷族が増えようと、君が第一の眷族には変わりない。直桜の一番濃い神力を受け止め続けるのは君だ。悲観してはいけないよ。むしろ君は調子に乗るくらいがちょうど良いかもしれないね」  冗談めかした言葉に、護が逆に緊張している。 「化野くんは調子に乗るのは苦手そうだから、せめてもっと自信を持たないとね。直桜の特別だっていう、揺らがない自信をね。それがきっと天磐舟対策になる」 「天磐舟について、御存じなのですか」 「それについてもこれから説明するから、全員座れ」  清人の掛け声で、直桜たちはソファに腰掛けた。  地下八階の部屋は事務所に似て、横に長い大きなソファが置いてある。  直桜たち五人は横並びに腰掛けた。 「智颯と円くんは、俺とちゃんと話すのは初めてだね?」  修吾に声を掛けられて、二人が頷いた。 「え? 智颯君も?」  円が意外そうな声で問う。 「物心ついた時には、修吾おじ様は13課に入っていて集落にいなかったし、戻ってきてからは話せる状況じゃなかったから、実はこんな風に落ち着いてちゃんと話すのは初めてなんだ」 「そっか。俺は、直桜様が、毒で寝込んで、いる時、ちょっと、話したけど」 「大体、同じだよ」  二人を眺めて、修吾は微笑んだ。 「直桜以外はきっと、俺とは初対面に近いと思うんだ。だから、挨拶も兼ねての参加なんだよ」  修吾の目が清人に向いた。  護も修吾とはあまり面識がなく、十年前の儀式の時に倒れているのを見付けたのが初見だと話していた。 (前半は律姉さんとか清人とか紗月とか、修吾おじさんを知ってて一緒に仕事していた人たちばかりだったんだな)  瑞悠も智颯と同じようなものだろうが、怪異対策室で共に仕事している分、慣れているだろう。 「それから直桜、智颯もだけど、おじさんは禁止だよ。ここは職場だからね。修吾さんか榊黒さんで」 「わかった。じゃぁ、修吾……さん。なんか変な感じだ」  呟いた直桜を隣に座る護が苦笑いしている。

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