3 / 4
第3話
腕の中の温もりに、身体だけでなく、心の奥からも暖かさを感じる哲臣だった。これはまるで、雪と共に舞い降りた天使の存在……。
「叔父様。今夜は、サンタクロースが来るんですよね」
束の間の至福の時間を味わっていた哲臣に、唐突に裕章が問いかける。
「そうだね。君が来ると信じていれば、きっとね」
その真意を探るように、哲臣は少年の純真な瞳を凝視し続けた。
「じゃあ、きっと来ますね。絶対だ!」
裕章を見つめる哲臣の眼差しは、充分に暖められたこの部屋以上に、暖かく穏やかだった。
叔父の肩に体を預けていた裕章は、そのままゆっくりと倒れ込んだ。長い足を持て余したように座る哲臣の膝に、少年はその形の良い頭を乗せる。子供っぽい邪心の無い動作のはずだが、やけに艶めかしい。そう思った哲臣の神経が、思わず尖る。組んだ足から、少年の体温が伝わってくる。
日頃大人びている少年ではあっても、やはり心細さから人恋しさを感じているのだろう。だから、知らず知らずの内に、叔父の温もりに甘えたくもなっているに違いない。
「サンタクロースって、北極に住んでるって、本当かな」
何を思ってか、裕章はそう言った。
「どうかな。……でも、北極とはまた遠い所だね」
哲臣は、愛しむように心弱い甥の頭に手を置いた。
「サンタクロースは……、僕のことを知っているのかな」
「ああ、必ず知っているよ。君の欲しい物だって、知っているはずだよ」
裕章の、欲しいもの。
裕章の、望むもの。
それを与えることは、今は誰にも出来ないだろう。けれど、それが人外の不思議な力であるなら……。
決して単なるファンタジーとしてでは無く、切なる願いとして、裕章はサンタクロースを信じたかった。
哲臣の長い指先が、裕章の柔らかで素直な髪を絡め取る。
「君も、もうすっかり大人になってしまったと思っていたけれど……。君は、君のままだ。いつまでも、これからも……」
裕章は、ふっと顔を上げ、哲臣の端整な面差しを見つめた。
異国の血を感じさせるほど、目鼻だちのはっきりとした、華やかな美貌を持つ哲臣だった。それだけではない。学生時代に水泳部で鍛えたという、日本人には珍しい、イタリアンモードのスーツも見事に着こなす恵まれた肢体。絵画を中心とした芸術や文化を学ぶためにヨーロッパに留学していた時も、その圧倒的なルックスと、知性と、社交性をもってしてコンプレックスを跳ね除け、あらゆる日本人から羨望を受けていた。
裕章にとって、この素晴らしく優れた叔父は、自慢であり、自身の憧れでもあった。
「僕が、大人?」
誰よりも自分を認めて欲しいはずの叔父ではあったが、今はその言葉に不安な翳りが付きまとう。
「でも……、大人になってしまったら、サンタクロースは来なくなるでしょう?」
そう言って裕章は、窓の外の雪景色に目をやって、その表情を曇らせた。
「……もう、今夜は、来ないかもしれない」
「裕章……」
いたいけな少年の不安を、哲臣は笑い飛ばすことが出来なかった。
「裕章……。君は、どんなプレゼントが欲しいんだい?」
ともだちにシェアしよう!

