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:Day1(2)

「ひどいな」  池田さんが、またグラスを回して氷が涼やかな音をたてる。 「ひどいよね」 「いや、おまえが」  優しく、遠慮のない声が落ちてくる。池田さんのそういう遠慮のないところも、おれの好きなところだ。 「それはわかってるけど」 「わかってるのか」 「だって、あたってるし」 「あたってるのか」  まあね、と大きくため息をついて、突っ伏すように、伸ばした腕の上に頭を乗せた。その目前に、す、とシャンパングラスが差しだされる。  湾曲したガラス越しに溶けかけの真っ赤なシャーベット。短いストローが二本ささって、カットされたイチゴが乗っている。 「おまたせしました。フローズンストロベリーダイキリ。の、アルコール抜き」 「……ふぁーい」  横向きの視界のまま、グラスの足元を指先でつーっと撫でる。ご丁寧に、グラスはキンキンに冷えていた。  最初のときこそ、年上の彼氏が一緒だったから見逃してもらえたけれど、次に彼氏と別れた後で来店したときは未成年なのをあっさり指摘され、以来アルコールは飲ませてもらえないのだった。  もとより、日頃から実年齢より若く見られる。若くというより、幼くといったほうが正しい。二十歳なんてじきになるのだからとやかく言わなくてもいいじゃないかと思うんだけど、出入りを許されているだけましか、と渋々がまんしている。  それで、と池田さんがイチゴを一つつまんで口に放りこんだ。 「あ、ちょっとっ、食べないでよ。おれイチゴ大好きなんだからっ」 「いいじゃないか。あと二つある」 「あと二つしかないっ」 「それで、あたってるって、何おまえ、彼氏のこと興味なくなってたのか」  池田さんに食べられる前に、起き上がって残りのイチゴを一つずつつまみ、丁寧に味わって食べる。さすが、というくらい、うちふるえるほど甘い。それから、ストローで軽く吸う。シャリシャリとした触感で、口内がさっき触れたグラスみたいにキンとなる。  今回の彼氏とは、四か月ほどもった。今までで一番長いんじゃないだろうか。たいてい、三か月と続かない。それもそのはずで、おれはつき合う相手を好きだと思ったことがあまりない。胸の高鳴りもなければ、手のひらに汗をかくほどの緊張もない。  彼氏の言うとおりだった。  最初から、さほど興味がなかった。つき合っていたのは都合がいいからだ。わがままを聞いてくれるし、お金を出してくれるし。  これまでもなるべく、年上の、あまりモテそうもない、人あたりのいい、優しそうな人ばかりを選んでつき合っていた。幸いおれの見た目はそういうタイプから好かれやすいようで、そういう場所にさえ行けば相手には事欠かなかった。  一人でいるのはちょっと寂しい。一緒にいてくれるなら誰だっていい。でも、相手のほうはそうじゃない。  一緒にいる時間が長くなって気安く言い合えるようになるとそのうち、要望や不満があらわれてくる。おれのわがままや気ままさを正そうとし始める。行動を制限しようとする。そうなるともう、面倒くさくなって、おれから別れを切り出す。それが常だった。  でも、今回は違った。

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