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:Day2(4) ※
ホールに出る直前に、かなえさんに赤ワインのグラスを手渡される。
イタリアでは飲酒年齢が十八歳かららしい。そのせいか、かなえさんはおれの年齢を知っているはずなのにとても寛容だ。
それを持って、青のところへ向かう。
「あれ、どした」
「バイト終わった」
「一緒に飲んでくれんの? やった。来たかいあったな」
そんなふうに嬉しそうな顔をされると、誤解する。いや、勘違いというのだろうか。
「さっきまでの制服もよかったけどな。白シャツにベスト、黒パンツ。おまえ細いから似合ってたな」
「まあね」
青の隣に座り、ワインを置くと青の前にあった皿からチーズをひとつつまんだ。
「でも意外だったな。おまえバイトとかできるんだな」
「どういう意味だよ。できるに決まってんじゃん」
「こういうの、真面目にやらないタイプかと思ってた」
「ちゃんとしなくちゃいけないところはおれ、ちゃんとするし」
「かっこいいじゃん」
カウンタに頬杖をつき、青はまっすぐにおれを見てさらりとそんなことを言う。
ほめられるのも、もてはやされるのにも慣れている。今までつき合った人はみんなそうだった。かわいいね。すごいね。上手だね。おれの欲しいときに欲しい言葉をくれた。言われて当然、なんて思ってた。
でも、青に言われるのはなんだか違う。
ホントかな。おだててるだけなんじゃないのかな。口ばっかじゃないのかな。
ちょっと疑いながらも、でもちょっとこそばゆい。むずむずする。赤ワインを少し飲んだだけなのに、頬が火照ってくる。青が、あんな顔で見つめてくるからだ。
かなえさんがまかないに、ボロネーゼを出してくれた。普段はもっとシンプルなパスタやリゾットで、おれがボロネーゼを食べるのはずいぶん久しぶりだった。きっと青がいるからに違いなかった。取り皿もフォークも二人分ある。
「ここのボロネーゼ、マジでおいしいんだよ」
思わず興奮して、おれは青を振り返った。
「ほんと、うまそうじゃん」
「食べる?」
「食べるに決まってんじゃん」
「でもこれ、おれのまかないなんだよね」
「うっせえよ。早く取り分けろって」
「自分でしなよ」
「取り分けて。晃一くん」
ボロネーゼもアンティパストも、取り分けながら二人で食べた。おれの二杯目は、青がおごってくれた。
こんなに出してもらってばっかでいいのかな。そんなことを思った自分にちょっと驚く。おごってもらうのには慣れている、はず。そういう相手を選んでいつも一緒にいた。
なのにどうして、青には平気じゃないんだろう。今までの人と青と、何がそんなに違うんだろう。
店を出て、もう一軒バーで飲んで、ホテルに行った。
今度はキスをする前に、青は確認したりしなかった。おれも、一回目のときほど緊張しなかった。
青の手のひらや指や、くちびるの感触を全身のあちこちに焼きつけながら、おれは自分をごまかすことをあきらめた。
好きになっちゃいけない、と思ってる時点でもうきっと、好きなのだ。
本当はそんなこと、とっくにわかってる。認めて、今このときだけ溺れる。それでいいことにすればいい。
青はセックスがとても上手だ。経験値の違いなんだろう。きっとこれまでもたくさんの肌の上を、この指がたどっていったに違いない。そしてこれからも、きっと。
よけいなことが頭をよぎって、火照った内部に青の熱く猛ったものが入ってくるのを感じながら少し、泣きそうになる。
「晃一? 大丈夫か?」
わずかな表情の変化を、青は見逃さない。こういう敏感さもモテ男の条件の一つなのだ。
「平気。気持ちいいだけ。もう、動いて」
ふ、と口角を緩め、青はおれの好きな笑い方をする。それから、要望どおりにちゃんと、おれの欲しいところに欲しい快感をくれた。
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