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:Day2(5)
着信音で目が覚めた。
達した後、まどろんでいたらしい。心地よい余韻がまだ身体中に残っている。
頬にあたるシーツに青の残り香がして、夢じゃなかったと安心する。
「……おう、どした」
背中の向こう側で、起き上がった青のかすれ気味の声がした。
「え? 今から? ムリムリ。今日はだめ。明日ならいいよ」
ぴく、と反射的に身じろぎしてしまった。青に気づかれていないといいのだけれど。
電話の相手は誰だろう。
誰、なんて。青の周りにいる誰かなんて、おれは池田さんくらいしか知らないのに。
そう、青のことは、他に何も知らない。
――今日はだめ。
なのは、青が今はおれといるからだ。
――明日ならいい。
と、いうのは。
明日はおれじゃない誰かと、一緒に過ごすんだろうか。
「二十四日? イブかよ。え? へえ。いいじゃん。行く行く」
クリスマスイブ。
そうだ。そういえばおれは最初、クリスマスを一緒に過ごせる人を探していたのだった。
それまで彼氏になってくれる人を。
「おう。じゃまたな。は? バカじゃねえの。そんなこと言うわけねえだろ」
そんな遠慮のない言いようを青は、おれにはしない。おれよりよっぽど近しい人なんだろう。
あたり前だ。おれが青に会うのはまだ、二回目なのだ。
たった二回、一緒に飲んで肌を重ねただけ。
青のまわりにはおれ以外のたくさんの人がいて、その中にはおれみたいに、気軽にセックスする相手も含まれてるんだろう。
これ以上望まない。
ついさっきそう決めたばかりなのに、覚悟は簡単に崩れ去ってしまう。
やっぱり、全部じゃなきゃ嫌だ。
青の、全部が欲しい。
自分はわがままだから、そうじゃなきゃきっと、耐えられない。
通話が終了したのか、隣に青の寝転がる気配がした。入れ違うようにおれは体を起こす。
「あ、起きたか?」
「帰る」
「泊まってけばいいのに」
ベッドを降りて、散らばった衣服を一つずつ身に着ける。
「明日、一限目から授業なんだ」
「あ、そうなのか。悪い。送るよ」
「別にいいよ、もったいないから青は泊まっていきなよ」
「そうだけどさ……、あ、おまえさ、二十四日の夜、空いてるか? イブの日。よく行くバーでクリスマスイベントがあるんだよ。一緒に行こうぜ」
「……行かない」
「どうして。おまえクリスマスを一緒に過ごす相手探してたじゃん」
「探してたよ。でもそれは、一緒に過ごす彼氏を探してたんだ」
「いいじゃん、おれで」
軽い口調だった。
軽すぎて、本気かそうでないのかがわからない。
「おれが彼氏でいいじゃん。だめ?」
本当だったらどんなにいいだろう。でもおれはまだ、わからない。
まだたった二回で、ほんのわずかな時間で、青のことなど全然わからない。だから判断ができない。
「だめ」
小悪魔みたいに、笑って見せた。
かわいく、思わせぶりに。いつもみたいに。
本気になっちゃ、いけない。
「あ、おい」
追いかけてくる青の声を振り切るように、急ぎ足で部屋を出た。扉を閉めて、走り出したら足がもつれた。
まだ頭に残っている酔いを振りきるように、大股で青のいる部屋を後にする。
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