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:Day3(1)
中一でゲイだと自覚して、どうしても彼氏が欲しくてもぐりこんだそういう場所で、初めて彼氏をゲットしたのは十六のときだった。
年上の人で、タイプというわけではなかったけどイケメンだった。
ちょっと優しくされて、すぐに夢中になった。初めての彼氏がそんなかっこいい人なんて、すごいラッキーだと浮かれていた。
たぶん、すっかり舞い上がってたのだ。
彼の言うことならなんでもきいた。
外泊だってしょっちゅうしたし、呼ばれたら学校もサボって会いにいった。
誰かとつき合う、なんてことが初めてだったから、普通がわからなかった。
酔っぱらった彼に公園のトイレに連れこまれたときはさすがに抵抗したけれど、それでも嫌われるのが怖くて、結局そこで最後までした。
かわいいな、と抱きしめられると、ほっとするのだった。
でも、幸せな時間は短かった。
三か月足らずであっさりと捨てられた。別れる理由さえ教えてもらえなかった。
彼にとってはきっと、ただの遊びだったんだろうと思う。
自由に使える、のぼせ上った子ども。
見ないように考えないようにしていたけれど、きっと他にも恋人がいた。案外、浮気相手は自分のほうだったのかもしれない。
免疫がまるでなかったおかげで、衝撃は体のほうにやってきた。
フラれてしばらくは、だるくて辛くて起き上がれず、学校にも行けなかった。
何がいけなかったんだろうとか、遊ばれてただけだったんだとか、後悔とか恨みとかわけのわからない感情で頭のなかがいっぱいになって、急に涙が止まらなくなったりしていた。
ひと月くらいでなんとか復活することができたけれど、以来おれは、イケメンを避けるようになったのだった。
もちろん、みんながみんな定型みたいに同じだと思っているわけじゃない。
でもやっぱり、イケメンって絶対自分で自覚していて、そして自信があるに決まってる。
その自信がどういう方向へ作用しているか、つき合ってみないとわからないっていうならそれが怖かった。同じ失敗を繰り返したくない。
つき合うなら、イケメンじゃない人。おれだけを見てくれる人。
そして、けして本気にならない。本気になったら負けだ。
舞い上がってしまったら終わり。あのときの二の舞はもうごめんだから。
ずっと、そうやってやり過ごしてきたはずなのに。
「柴さん、チョコバナナのやつちょうだい」
「晃一くん、一人?」
「うん」
おれはカウンタの前を素通りして、奥へ向かった。
週末だからか混雑している。ボックス席はカップルばっかりだ。
今年のイブは平日だから、一足早いクリスマスを過ごしている人も多いんだろう。
おれは一番奥の壁ぎわの、立ち飲み用丸テーブルに見知った顔を見つけて歩み寄った。おれと同じネコで、よく一緒にナンパされるのを待ったりする仲だ。
「あ、晃一じゃん。久しぶり。今、彼氏いないんだって?」
「そうなんだよ。クリスマス前なのにさあ」
「さっびしいの。それであわてて相手探しに来てるってわけか」
「まあね。そういうそっちはどうなんだよ。一人じゃん」
「一人なわけないでしょ。もうすぐ彼氏来るもん。あ、そうだ。ちょうどよかった。彼氏がさあ、友だち連れてくるってさっき連絡あったの。その人も相手探してるんだよ。予定ないならさ、このあと一緒に飲もうよ」
「いいよ」
どうせ、適当な誰かを見つけるつもりだったから手間がはぶけてよかった。クリスマスイブを一人で過ごすのはつまらない。
本気の恋、なんて、やっぱりおれにはむいてない。たいして好きじゃない相手と、利害関係でいたほうが気楽でいい。
つきあって、別れて、つきあって、別れて。ドキドキしたり嫉妬したり、自分でも制御できない感情を持て余すのはひどく疲れる。
柴さんがノンアルカクテルを運んできてくれたのと同時に、待っていた二人連れがやってきた。おれのお相手になるかもしれないやつは、がっちりした体格で顔は濃いけど話してみると爽やか系。はきはきした口ぶりで、うぶな感じは悪くなかった。これが豹変しなければ、だけど。
二杯くらい飲んで、四人で次の店に移動することになった。会計を済ませて出ようとすると、柴さんに呼び止められた。
「晃一くん、ちょっと待って」
「え?」
つられて、他の三人も足を止める。
「何?」
柴さんが困ったように口をつぐむ。めずらしい表情だった。どうしたっていうんだろう。
そのとき、出入口のドアが荒々しい音をたてた。反射的に振り返ると、真っ青なコートが目に入る。
もう、見慣れた色だ。
見ただけで、胸が苦しくなる色。
青が、肩を上下させるほど息を切らせて立っていた。おれを見つけて眉根を寄せる。
一緒にいた三人を一通り眺めると、大股でおれに近寄ってきた。
「会計終わった?」
険しい顔で唐突に訊かれ、ぽかんとしてしまう。
「終わった、けど……」
「行くぞ」
言うや否や、腕をつかまれて引っ張られた。
「柴さん、また」
冷静にそんな挨拶までしている。
「ちょっと待ってよ、青」
呆然としている三人に説明するヒマもなく、おれは店外に連れ出された。
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