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:Day3(2)

 青は長身だから、歩幅も大きい。  腕をつかまれたままだからおれは思うように歩けず、ほとんど走るような状態でついてゆく。 「青、待ってよ、転んじゃうよ」  幾度かの抗議のあと、通りから逸れた人けのない公園で青はようやく足を止めた。  公園といっても遊具があるような子ども向けの場所ではなく、池や遊歩道をめぐる緑豊かな施設だ。昼間なら犬の散歩やジョギングをする人でにぎわっているだろうけど、今はしんと静まり返っている。 「おまえさあ」  おれの腕を離した青は、ちょっとだけイラついた声を出した。 「なんであんなやつらといんだよ」 「……別に、おれの勝手じゃん。そっちこそ、なんでおれがあの店にいるのわかったんだよ」 「柴さんに頼んでた」  なんで、という顔を、たぶんおれはした。青が、大きく息をつく。 「おまえ、電話しても全然出やがらねえし。バイト先にもいねえし」  確かに、おれは最近ずっと、青からの着信は無視し続けていた。バイトに入っていなかったのはたまたまだけど。 「だから、もしおまえが来たら連絡くれって柴さんに言っといたんだよ。なのにおまえ、やっと連絡来たと思ったら奥で他の男とつるんでるとか言うしさ」 「……それで、走ってきたってわけ」 「おまえさ、なんで今さら男探してんだよ」 「別に、青には関係ない」 「……ねえのかよ」  おれはうつむいてて、そう言った青の表情はわからなかった。実際、青の顔はおれよりずっと高いところにあるから、意識的に見上げないと見られない。ただ、怒っているわけではなさそうだった。 「なんでおれじゃだめなんだよ」  おれは青の、コートのポケットにつっこまれた手の辺りをじっと見つめていた。  本当はその手に、強く抱きしめてほしかった。  有無を言わさず抱きしめられたらもしかして、おれの覚悟も決まったかもしれない。  でも、そんなわがままが通用するわけないこともわかっている。 「理由教えてくれよ」  イケメンだから。  おれ、簡単に騙されちゃうから。  怖いから。  どれも、青は納得しないだろう。 「……わかんない」  そう答えるのが精いっぱいだった。  だって、本当にもう、わからない。どうしていいか。 「……わかったよ」  青の足がくるりと反転するのが視界に入り、思わず顔を上げた。  かたちのよい背中が遠ざかってゆく。  待ってよ。  言葉は音にならなかった。喉の奥がきゅっと閉まって、声が出なかった。  あのときから、おれはずっと臆病になっている。  ちゃんと恋愛をするのが怖い。  判断力を失ってしまう自分自身を、信用できなくて怖いのだ。

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