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第10話
時間は少し前。
悠馬は時臣のマンションの自室で、夏休みの追い上げレポートをやっていた。
夏休み終わり頃に色々やりだすのは、もう小学生の頃から毎年反省することなのにまだ治らないのか俺!とか自分に怒りながら取り組んでいると、スマホが鳴るのに目を向けた。
見れば貴一からで画像が添付されている。
「ん?画像?」
貴一は鼻にとんがりコーンを刺した画像とかそういうのをよく送ってくるので、どうせまたそんなもんだろうと放置しようとしたが、『心霊』の文字が目に入り、なんの気も無しに開いてみた。
薄暗い画像が添付されており、それをなんだろうとじっと見つめると、先日行った洋館のキッチンカウンター辺りの画像だとわかった。
「あいつなんでこんなもん…」
画像についてきたメッセージは
『心霊写真撮っちゃった…俺呪われるかも…』
と言うもの。
「は?」
そう言われて再びじっと画像を見るが、顔とか髪の毛を想像している悠馬には全くわからない。
画像が荒く、暗闇はひどくガビガビに写っている。
「どれ…」
じっと見る事数分、集中していたらいきなり手に持ったスマホが電話を告げ、一瞬取り落としそうになった。
「なんだよ貴一〜びっくりすんだろ」
「見た?みた?」
「いや、今見てたけどなわかんねえよ。何が心霊写真なん?てか今PCに取り込むから待ってて」
言いながら作業をし、パソコンでその画像を開いてみた、途端
「手…?」
と悠馬は電話口でつぶやいた。
「そうそうそうそうそうそう!手があるだろ!カウンターの向こうにさ!」
明らかに多分ドアなのだろう、手がドアをの縁 を掴んでいるように見える。
今からこっちへ入ってくるかのような手付きだ。
「う…わあぁ…初めて見た心霊写真…」
悠馬はそれを見つめて感心する。
「感心してる場合じゃねえよ。俺呪われるかも!見たお前も呪われるぞ」
「お〜い〜!なすりつけてくんなよ!てかお前なんで画像持ってんの」
「俺家入った時に動画撮ってたんだよ。真っ暗でどうせ取れないだろうと思ってたし、怖かったから適当になってたんだけど、あの時ギィ〜って音したじゃん、あれの時咄嗟にそこに向けたんだと思う。そしたらそれが…送ったのはだいぶ補正したんだけど見にくいな。パソコンなら見やすいだろ。でもどうしよう…呪われたら…」
「ああ、それのスクショなんだな。しかし…すごいな…」
画面右寄りの少し上の方に、きちんと指まで確認できる手のようなものがある。
「これYouTuberの人とかにも送れるよな」
「そんなことしたら確実に呪われるぞ」
さっきからもう、貴一は呪われることに恐れすぎだ
「大丈夫。悪夢と一緒で、人に拡散すれば本当に呪われてたとしても薄まるらしいから」
「本当か?じゃあ広めるわ!夏にはもう送ったから、あとはぁ…」
でまかせなんだけど、落ち着けるにはこれしかない。やっぱチョロい。悠馬は笑いながら、
「じゃおれ、これおじさんにも見せてくる…また後でな」
「わかった。俺はこれ言いふらしとく。じゃまたー」
電話は切れたが、時臣は依頼者と一緒に出かけると言っていた。
帰ったら見せてみよう、そう思ってスマホを机に置き、レポートの続きを開始した。
時臣と唯希が戻ってきたのは、午後5時半ちょっと過ぎくらい。
「悠馬〜、夕食テイクアウトしてきたよ食べる〜?」
ダイニングテーブルに置きながら、唯希が少し大きめな声で悠馬を呼ぶ。
昼食に焼きそばを作ってもらい一緒に食べてから、何も食べていなかった悠馬は、食事と聞いてーたべる〜ーと部屋から出てきた。
「お留守番ありがと。何か変わったことあった?電話きたとか誰か来たとか」
中華屋さんのテイクアウトなのだろう。チャーハンやエビチリ、青椒肉絲、回鍋肉全部で6品くらいをテーブルに並べて、それぞれの皿も用意しながら唯希はそう聞いて来る。
悠馬もそれを手伝いながら
「ううん、何もなかったよ。典孝さんも事務所にいたし」
そう言うと、典孝いるの?と唯希は慌てて事務所へも声をかける。
「わかりました」
そう声が聞こえて、事務所のドアが開閉する音のあとにこのリビングダイニングへとつながるドアが開いた。
相変わらず細く、中学生の少し伸びた頭をしたマッチ棒典孝(悠馬だけが思ってる)は
「聞こえてはいたんですが、食事だからと言って呼ばれないのにこちらに来るのもと思って考えてました」
めんどくさいやつだけど礼儀正しいには変わりない。悠馬が教えてくれなかったら可哀想なことをするところだった。
「でも典孝、今日くる日じゃなかったでしょ?」
もう一枚お皿を出してあげて、麦茶も用意する。
「お?典孝来てたんだな。いいところにいたな、今日は中華食い放題だぞ」
車をしまってからやってきた時臣も、そう言って手を洗いに洗面所へ向かった。
「食べ放題ってほどはないけどね」
唯希が苦笑。
「今日は仕事が早く片付いたので、こちらで途中のことをやってしまおうと思ってきたんです。中華は好きなので嬉しいですよ」
悠馬は席について、蓋のされた各品々を開封し始めた。
「結構本格中華っぽい〜。便利になりましたね〜こんなのもテイクアウトできるなんて」
蓋についたものをぺろっと舐めて旨っ!と喜ぶ悠馬を唯希が嗜めて、全員が席について食事が始まる。
「典孝にも共有しておくが、近藤智史さんの件な、あれ終わらなかったわ」
「え、行方不明者死亡で、後は依頼者へ連絡するだけだったですよね」
麻婆豆腐をご飯にかけながら、時臣に目を向けた。
「そうだった筈なんだけど、警察から送ってこられた画像の本当の姉という人が現れてな」
「え?どう言うことです?」
「あの画像見て、俺ら言ってただろ?この人近藤さんかなって。本当に違ったらしくてな、あの画像に映った人物の姉という人が今日偶然にも依頼に来たんだよ。ちゃんとした写真見たけど、どう考えてもあの遺体画像の本人で、今日そのお姉さんと一緒に国上 市へ遺体確認にも行ってきたんだ」
麻婆豆腐丼を頬張って、なるほど、と典孝は呟く。
「では、そのお姉さんと言う方の依頼はなくなったと」
「まあ、調査前から亡くなってたしな。でも、事実を伝えたことと、一緒に警察まで行って話をつけたことの料金は払うと向こうから言ってくれて、着手金程度の料金は請求できそうだ」
「わかりました。そうしたら近藤さんの方はまだ続行ということで、依頼者への連絡はしなくていいんですね」
さっきからなんか典孝の様子がおかしい。普通を装っているが、食べ方や挙動がどうもいつもと違うと唯希が怪しむ。
「ねえ典孝…?そのやり残した仕事って…」
冷静を装って、流れる冷や汗を辛い麻婆豆腐を食べたからと言い訳に使っていた典孝が、急に茶碗を置き、
「すみませんでした…近藤さんの依頼者さんへ、お探しの方は亡くなっていました、と連絡を入れて…しまいました…」
時臣と唯希は箸を取り落とし、『飯食ってる場合じゃねえ』と慌てて事務所へ向かい、悠馬はもぐもぐと食べながらやはり箸を置いて俯いている典孝に
「言わなかったおじさんたちも悪いから、気にしなくてもいいんじゃない?」
とか言いながら、餃子をお皿に取って前に置いてあげた。
が、やはり事務所へ向かうよね〜と悠馬が思った通り、典孝も事務所へと向かい、天井付近が20cmほど開いたパーテーションの向こうでは、はっきりは聞こえないが時臣がなんか話している声が聞こえてきて、大変だなあと、今度は回鍋肉をお皿にとった。
「大丈夫よ、ー実は亡くなっていましたーって言うんじゃないんだからさ」
唯希が典孝を慰めながら戻ってきて、時臣も
「ちゃんと話しておけばよかったな。今日来ると思ってなかったんで悪かったよ」
と、マッチ棒の燐にあたる頭を撫で撫でしながら席へ戻って来る。
「大丈夫だったんですか?」
悠馬もちょっと気になって聞いてみた。
「ああ、唯希 の言うように、生きてましたを亡くなってたって言うよりはマシだったよ。向こうも良かったと胸を撫で下ろしてたしな」
まあ実際はもう…とは時臣も思ってはいたが流石にそれは言えない。
「良かったじゃん」
典孝を見て悠馬が慰めると、
「うん…」
と、初めて見る落ち込み様。まあ、KO大学医学部を出て、大学院からそのままKO大学病院の研究室へと行った様な人なので、小さなミスも許せないタチなんだろうな、と思いながら、自分は普通で良かった、と的外れな安心感を感じる悠馬だ。
「あ、そう言えばおじさん。この間の洋館でね、心霊写真撮れてたんだよ」
は?みたいな顔で口に入れた餃子を噛むのをやめて時臣は悠馬を見た。
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