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第11話

「心霊写真?」 「うん、貴一が動画撮ってたらしいんだけど、あの時さあの人が椅子からずり落ちる前にギイィ〜って音がしたんだよ。そん時にそこに無意識にカメラ向けたらしくてそれにちゃんと手が映ってんの!」  スマホに画像を出して時臣に渡す。  唯希も立ち上がって後ろからそれを覗くと、確かにドアのヘリを掴んでいるかのような手があった。ちなみにこれはPCをスマホで写しなおしたものだ。逆にガザガザになっているが手は確認できる。 「本当だ〜…これってこれから覗こうとしてるの?左手だよね」  確かに手は写っているが、時臣はまた違ったことを考えていた。  金井が言ったー犯人がまだ中にいたかもしれないーという言葉を思い出したのだ。 「その音っていうのは、ドアが開いた音なのか?」  スマホを返しながら聞くと 「わからないよ。そっち見てなかったから。俺はあの人が座ってたロッキングチェアが揺れたんだと思ってたからね…あ…」  そう言えば…と悠馬は何か思いついたように声を出した。 「なんだ?」 「あの人がさ椅子から滑り落ちてくる直前に…忘れてたけどバタンって言うドアが閉まる音が…聞こえたんだ…俺らは実際その音にびっくりしたんだけど、直後に人間が椅子からずり落ちたからもう怖くて家を飛び出したんだった」  時臣はなんでもないように話す悠馬を、心から心配した様な顔で見つめてしまう。ーこいつは厄災を惹きつけるんだか回避するんだかわからない星の元の人間か?ー危ない目に遭っても割となんとか助かってしまう人間はいるものだ。 「もうお前は、人を信用したり、危ない場所には絶対に行くな」  心配が怒りの様な形で出てしまい、悠馬が驚いて時臣をみる。 「あのな…金井さん…お前たちを最初に調べたおっさんだけどな、あの人が言ってたんだ。遺体は殺されて間もなかったんだと。だからまだあそこに犯人が居たかもしれないってな…」 「うわぁぁ…」  声を出したのは唯希だ。典孝はまだ落ち込んではいたが、話を聞きながら小さな口で食事を続けていた。 「こっわいねえ…悠馬。心霊より怖いじゃん〜〜」  それを聞いた悠馬の顔は真っ青になり、ええ〜〜とこちらも酷く落ち込んでしまう。 「いや、まあな…楽しく若い頃を過ごすのもいいんだけど…」  流石に言いすぎたと時臣が言葉を継ぐ。 「無謀な事はするなよ。もう少し危機管理能力を高めておけな」  去年の夏にヤク中の春樹に拉致されかけ、貞操の危機寸前になったことがあった。悠馬が悪いわけではないが、もう少し危険を感じていたら拉致までは至らなかったかもと言う気持ちはある。 「はひ…」  サツジンハントオナジトコロニイタ と言う感情は、心を凍らせた。 「でも、ドアが閉まる音を聞いたって言うんなら、その手はドアを閉めたってことにならない?だとしたらその手は…」  唯希が箸の先を唇に当てながら推察を言うと 「多分犯人の手だろうな…幽霊の方がマシだな」  時臣がダメ出しをした。  悠馬自身は、幽霊は見たことないから興味があるけど怖いと言うのは本物を見ないとわからないなと思っていたが…これは洒落にならん…と放心してしまう。 「まあ、その場で何もしてこなかったんだからお前らのことは、向こうも気にしちゃいないんだろ 」  時臣は、半分自分に言い聞かせるためにもそう言ってー早く食えーと餃子を悠馬のご飯に乗せた。  悠馬はそれはそうだけど…と思いながら、ちみちみと食事を続け、角を挟んだ2人がチミチミと食事をするという辛気臭い食事の場となってしまった。  悠馬が無事だったのは時臣にも救いで、預かっている以上もう少し自分も目をかけなければだなと気を引き締めた。  それから数日も近藤智史の情報は集まらず、飲み屋にもそうそう通ってはいなかった様だし、ギャンブルの線から競馬場や競艇場競輪場までにも赴き、結構広く写真を見せて回ったが、ああ言った場所はあまり他人に興味はないのか、そして色々聞かれるのも鬱陶しいのか真面目に答えてくれもしない人も多く、難航気味だ。 「近藤さんはどこにいるんだろうねええ」  ダイニングテーブルに両手を伸ばして伸びる唯希が、疲れた〜と音を上げる。  今日は大井競馬場の売店と交換所を中心に回ったが、忙しくてあまり聞いてもくれない。メンタルも結構やられるのだ。 「ボス〜飛田さんからバカラ賭博に行ってるって言う情報はあったんでしょ〜。頼りましょうよ、飛田さん」  リビングの片隅に設置した自分のデスクの椅子で、寄りかかってゆらゆらしている時臣は、嫌な顔をして唯希を見る。 「唯希(お前)と飛田が一緒にいるのは嫌なんだよ」  唯希は冗談半分本気半分で、時臣を狙ってます〜と公言しているが、飛田は行動で示してくるから時臣はどうして良いかわからなくなるのだ。〔『おじさんとの夏休み』より〕気の合う友人ではあるから、頼りたいし仲良くもしたいのは山々なのではあるが… 「毎回毎回のらくらと逃げる俺の身にもなれ」 「でも、仕事ですよ。このまま2人でローラーなんて無理に決まってますよ。ローラーの本数が少なすぎますって。警察は人数割いてローラーしてるんですからね」  それはわかっちゃいるんだが…確かに飛田に聞けば有益な情報が得られそうな気もする。私情で仕事に支障をきたしてたらしょうがねえなと思いつつも…だ。  そんな折、マンションのエントランスのチャイムがなった。 「誰だろ。今日依頼予定はないはず…はい?」  パネルを確認して返事をする唯希が、ぷっと吹き出した。 「飛田さんです。噂すると本当に人って来るんですね」  笑いながらどうします?と聞いてくる唯希に 「そこで追い返すのもおかしいだろ、入れてやれ」  ゲーミングチェアから立ち上がり、ダイニングに移動して飛田を待つ。結局唯希と飛田の揃い踏みだ…気をしっかりもっとこう…。 「なんかいい情報持ってきたんだろうなあいつ」  唯希はキッチンでコーヒーの用意を始め、スイッチを押すと良い香りが漂ってきた。

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