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第14話
翌日、煜瑾はふとしたひらめきがあり、依頼のあった最後の仕事を片付けることができた。
今夜は、文維と一緒にクリスマスツリーを買いに行くことになっている。その後、外で食事もする約束だ。
(週末でもないのに、ちょっとしたデートみたい…)
嬉しくて、煜瑾は頬が緩むのを止められない。
昼食は何にしようかと冷蔵庫を明けた時、玄関のドアベルが鳴った。
建物に入るセキュリティコードを知っている人間しか、玄関の前まで来られない。煜瑾にはそれが唐家の執事だとすぐに分かった。
待望の物が届いたと、煜瑾は弾むようにして玄関を開けた。
「煜瑾坊ちゃま、楊シェフからの差し入れをお届けに参りました」
素直な煜瑾は、鷹揚に頷き、まるで一流レストランからのデリバリーのような完璧な料理を運んできた唐家の有能な茅執事を招き入れた。
唐家の「深窓の王子」だった煜瑾が、文維と一緒に暮らし始めてもうすぐ1年。生まれてこれまで家事などしたことが無かった煜瑾が心配で、今でも唐家の執事が当主の唐煜瓔の意を汲んで、お抱えの楊シェフが用意した料理を時々運んで来るのだった。
「お昼はお済ませですか?」
「いいえ。ちょうど今、冷蔵庫を開けようとしていたのです」
煜瑾がそういうと、茅執事はまるでそれを知っていたかのように頷いた。
「サーモンのクリームドリアがございます。すぐに温めましょう。煜瑾坊ちゃまの好物ですからね」
「この前の牡蠣のグラタンも美味しかったです」
ニコニコしながら煜瑾は当然のようにダイニングに向かい、テーブルに座った。
そんな煜瑾の前に、てきぱきとランチョンマットを置き、カトラリーを並べ、グラスを置く茅執事だ。
唐家に居た頃と同じく、すっかり茅執事に任せて、煜瑾は美味しいランチが供されるのを待っていた。
「本日の午後からでしたら、旦那様へのプレゼントを買いに行くお供が出来ますが」
高級なハムとキュウリのサンドイッチを出しながら、茅執事は申し出た。
「夕方までなら、私も時間がありますよ」
「夕方?」
茅執事に問い返されて、煜瑾は、はにかみながら答えた。
「今夜は、文維のクリニックが終わったら、一緒にお買い物をして、お食事をして…、デ、デートなのです」
幸せそうな煜瑾に、ちょっと複雑な表情を見せた茅執事だったが、煜瑾には気付かせず、すぐに完璧な執事の顔に戻った。
「それはよろしゅうございました。でしたら、お兄さまへのプレゼントはこの近くでご購入されますか?」
執事の提案に、煜瑾は微笑みながら首を横に振った。
「この辺りのお店は、あとで文維と行くので、淮海 路のブランドショップにしましょう」
「承知いたしました」
午後からの予定も決まり、煜瑾は安心して茅執事が給仕をする唐家の料理をたっぷりと堪能した。
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