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第15話

 淮海路にあるヨーロッパのハイブランドの路面店で、煜瑾は店内奥のソファに腰を掛け、店員が並べた商品を見比べていた。 「煜瑾さまが、当店へ足を運んで下さるのは、本当にお久しぶりですね」  物腰の柔らかい、いかにも洗練されたハイブランドの店長らしい男性がそう言うと、煜瑾は出された香りのよいピーチティーを味わいながら、鷹揚に頷いた。 「本日は、煜瓔お兄さまへのプレゼントとか」 「そうなのです。お兄さまに喜んでいただけるようなものが欲しいのですけれど…。お兄さまは何でもお持ちだから…」  そう言って苦笑いをしながら、煜瑾は紅茶の入ったカップとソーサーを、すぐ傍にある洒落たコーヒーテーブル上に置いた。 「なので、こうやって茅執事について来てもらったのです」  いくら煜瑾が勧めてもソファに座ろうとはせず、執事の本分を守るように煜瑾の背後に立っている茅執事が静かに頭を下げた。 「煜瑾坊ちゃま、こちらのパシュミナのマフラーはいかがですか?軽くて、暖かで、チャコールグレーなので、旦那さまのお召し物のどれにでも合うかと」 「ん~、品物は悪く無いけれど…。お兄さまは、マフラーはたくさんお持ちだったのではありませんか?」  煜瑾の言う通りだと静かに頷き、茅執事は他の商品の品定めを始める。 「申し訳ありませんが、あの婦人用のオーバーを、そちらの女性店員さんに着てもらってもいいですか」  そう言って煜瑾はショップで一番小柄な店員に、試着を頼んだ。 「婦人服でございますか?」  怪訝そうな茅執事に、煜瑾は黙って笑った。  そんな煜瑾に、茅執事はマヌカンの背丈を観察した。包家の夫人の身代わりにしては、少し背が低い。他に煜瑾がこれほど高価なプレゼントを贈る女性が、茅執事には思いつかなかった。 「ん…。では、そこのカシミアのセーターを見せて下さい」  次に煜瑾が指定した物もまた、婦人用の物だった。パステルカラーのピンクのセーターには白いファーのボールが、パステルブルーのセーターにはブラウンのファーボールが、それぞれ胸元に5玉並んだ可愛らしくも上品で上質なものだ。  それを手に取り、煜瑾は満足そうに笑った。 「後は…。あちらに並んでいる手袋を見せて下さい」  今度は紳士物の厚手の手袋を、煜瑾は指定した。暖かく柔らかなアルパカのニットとレザーを使った、機能性とデザイン性を合わせ持った、冬の贈り物としてはありきたりだが、趣味の良いプレゼントに見える。色も、ブラック、ブラウン、グレーと3色の展開があり、年齢を選ばない商品だった。 「暖かくて、軽くて、肌触りも良くて…。良いお品ですね。これを3色混ぜて1ダース揃えてもらえますか?」  大口(おおぐち)の買物に、店長の顔も思わず綻ぶ。  思うような買い物をした煜瑾だったが、ここからが本番だった。 「さあ、問題なのは煜瓔お兄さまへのプレゼントですね」  そう言って気を引き締めるように、煜瑾は改めて背を伸ばし、真面目な顔でそう言った。

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