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第16話
結局、煜瑾はそのヨーロッパのハイブランドショップで、何点もの買い物をした。
女性用のシルクウールの軽くて暖かなオーバーが1着、カシミアのセーターが2枚、紳士用のパシュミナのマフラーが2枚に、アルパカの厚手の手袋が1ダース、そして、二重の合わせになったシルクの暖かで、品のあるパジャマとお揃いのナイトガウンを1組購入した。
「煜瑾坊ちゃま、これは…」
ズラリと並んだ商品に当惑する茅執事に、煜瑾はクスクスと笑った。茅執事は、てっきり煜瑾は兄である唐煜瓔へのクリスマスプレゼントだけを買いに来たのだと思っていたのだ。
「今日は、お兄さまのプレゼントの他に、唐家のみんなの分も買ってくるように、お兄さまに言われているのです。なので私からお兄さまへのプレゼント以外は、お兄さまからお預かりしたカードで支払いますね」
さすがにこれは茅執事も聞かされていなかったらしく、いつもは端然としている執事の目の奥にも驚きが見て取れる。
「いい?オーバーは、胡娘さんにあげてね」
煜瑾はそう言って、子供の頃から大好きな「ねえや」へのプレゼントを執事に頼んだ。
「セーターはメイドの安安と玲玲に。紳士用のマフラーは王運転手と楊シェフにね。それから手袋は、周さんやキッチンの人たちに渡して下さい」
それだけを指示すると、兄の名代として仕事を果たした煜瑾はホッとした様子で、ショップが淹れ直した熱い紅茶を口に運んだ。
「暖かいパジャマとガウンはお兄さまへのプレゼントなので、特に丁寧に包装して下さいね」
満足げな煜瑾に対し、茅執事はますます戸惑っていた。なぜなら、煜瑾のプレゼントリストに、自分の名が無いからだ。
「煜瑾坊ちゃま、包文維先生へのプレゼントは?」
煜瑾が、誰かを忘れていることを思い出すきっかけになればと、茅執事が声を掛けた。
「文維へのプレゼントはもう決まっていて、注文も済んでいるのです」
サラリと答える煜瑾に、茅執事は恨めしい視線の1つも送ることは出来ない。
文維との関係をよく思っていないことや、煜瑾の親友である羽小敏との相性の悪さを恨みに思われているのかと、茅執事は切なくなる。何もかも、大切な煜瑾のためを思えばこその苦言だというのに、こんな子供じみた仕返しをされるとは思っていなかった。
「それと、茅執事のプレゼントも、もうずっと前に注文してあるので、クリスマスイブの朝に、唐家に配達されるはずなので、受け取って下さいね」
煜瑾の言葉に茅執事はハッとして顔を上げた。その顔があまりに安堵した様子なのに煜瑾は気付いた。
「うふふ。私が茅執事へのプレゼントを忘れるとでも思ったのですか?他の人たちへのプレゼントをお兄さまにお願いされる前に、もう注文を済ませていたのですよ」
茅執事の杞憂を笑い飛ばすような明るく清らかな煜瑾の笑顔に、店内のあらゆる人々が魅了された。
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