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第24話

(よう)シェフ…。メニューは確定しましたか?」 「はい、茅執事。今朝のマーケットで七面鳥、鶏、鴨、アヒルなど最上級の材料が手に入りました。これをそれぞれ、中華風、イギリス風、フランス風などに調理をして…」  どこ国の料理も市井(しせい)のレストランには負けないと自負する楊シェフの態度を、頼もしく思いながらも謹厳な茅執事は甘い顔は見せない。  澄ました顔で楊シェフの報告を確認していた茅執事だったが、出入り業者が使う通用門の方が騒がしいことに気付いた。 「茅執事!」  ウキウキと楽しそうに、若いメイドの安安(あんあん)が厨房に駆け込んできた。 「何ですか、騒々しい」  まるで厳格な校長先生のような態度で、茅執事は安安に注意する。 「お荷物です!茅執事宛てにお荷物が届きました!」 「たかが荷物くらいで…」  落ち着くようにと茅執事は戒めようとしたが、安安は気にも留めずに言葉を続ける。 「クリスマスプレゼントです!茅執事宛てのクリスマスプレゼントが届いたんですよ!」  自分のことのようにはしゃぐ安安に、茅執事もほんの少し表情が揺らいだ。 「煜瑾さまですよ、きっと」  何もかも分かったように、楊シェフが口添えすると、安安もその通りだというように目を輝かせた。 「とにかく、私宛の荷物なら受け取りに行かねばなりませんね」  冷静なふりをしながら、茅執事は楊シェフに見送られるようにして厨房を後にした。 *** 「騒がしいですよ」  通用口の辺りの人だかりに不満そうに茅執事が言うと、大きな荷物を受け取った下男の小周(しょうしゅう)や、覗き込んでいたメイドの玲玲(れいれい)が、冷やかすような笑いを浮かべて茅執事に振り返った。 「茅執事に、クリスマスプレゼントですよ」  玲玲が言うと、茅執事の後ろから付いてきていた安安が嬉しそうに口を出した。 「それはもう、私が言ったわよ。きっと煜瑾さまからだわ」 「そうなの?煜瑾さまが?」  キャーキャーと嬌声を上げた玲玲と安安に、苦言を口にしようとした茅執事の前に、厳しい叱責が飛んだ。 「唐家の使用人として恥ずかしい真似はしないで!」  若いメイドたちに忠告したのは、彼女たちよりも年齢も階級も上の家政婦にあたる、ベテランの胡娘(こじょう)だった。  自分の言いたいことを先に言ってくれた胡娘に軽く会釈して、茅執事は自分宛ての大きな荷物に近付いた。 「これは…」  思いの外に大きな荷物に、さすがの茅執事も目を見張る。しかし、そのサイズゆえに開封するまでもなくプレゼントの正体が分かった。 「お部屋に運んでから開封しますか、それとも、ここで開封してからお部屋に運びましょうか」  下男の小周が浮かんでくる笑顔を押し殺しながら、茅執事に訊ねた。 「ステキですね~。最高級のマットレスですよ」 「このマットレスで寝ると、すっかり疲れが取れるんですって!」  通販番組をよく観ている玲玲と安安は、自分たちには手が出せないような高級なベッド用のマットレスに大興奮だった。

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