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第28話

 深く愛する初恋の人に愛され、それを家族に好意的に受け入れられ、煜瑾は幸せだった。  誠実で温柔な、包み込まれるような眼差しに見つめられ、煜瑾はこの上なく満ち足りた思いでいた。 「大好きです、文維。お父さまも、お母さまも、小敏も、みんな大好きです」  煜瑾は感極まり、大きな瞳を潤ませて煜瑾は言った。  去年のクリスマスイブから、1年でこれほど変わってしまった。文維が一緒にいれば、必ず自分は幸せになれるのだと、煜瑾は確信を持ったのだった。 「私も、煜瑾だけを愛しています」  文維はそう言って、震えそうな煜瑾を抱き締めた。 「私たちも、煜瑾ちゃんが大好きよ」「ボクも大好きだよ、煜瑾」  恭安楽や羽小敏と違い何も言わないが、包伯言の、文維によく似た眼差しが全てを物語っている。 「お義父さま、お義母さま、次はぜひ我が家で春節のお食事会をさせて下さい」 「楽しみにしているわ」「ありがとう」  この場に居る全員が癒され、満たされ、穏やかな笑顔を浮かべていた。   ***  夕方になり、文維と煜瑾は包家から帰ることになった。  大好きな義両親に挨拶をし、煜瑾はお土産にと包夫人手作りのお菓子を受け取った。 「今夜は、楽しんでね」  意味ありげな笑顔の親友に、一瞬キョトンとあどけない表情を浮かべた煜瑾だったが、その素直さゆえに、すぐに純真な笑みを浮かべた。 「ありがとう。今夜は小敏のおかげで、文維とステキな夜が迎えられます」  無邪気な煜瑾の答えに、小敏だけでなく、義両親や、文維までもが破顔した。 ***  文維と煜瑾が連れ添って外に出ると、辺りはもう暗くなっていた。 「ねえ、文維…」 「なんですか、煜瑾?」  甘えるように言う煜瑾に、文維はいつもの紳士的な態度で応える。 「あの…、せっかく小敏が、スイートルームを予約してくれたので…。チェックインしてしまいませんか?」  早く、思い出のホテルのスイートルームで2人きりになりたいという、煜瑾の気持ちなど、文維はとっくに察していた。  それでもわざと、文維は素知らぬ振りをした。 「まだ5時ですよ。買い物に行って、浦東のイルミネーションを見て、お食事をしてからでも間に合うでしょう?」  焦らすような文維の答えに、無垢な煜瑾は困ってしまう。早く思い出のホテルに行き、2人きりになりたいという高ぶる気持ちが抑えられない煜瑾だった。 「そう…ですけど…。でも、でもね!私はもうお買い物なんて無いし、イルミネーションだって、ホテルのお部屋から街の灯りが見られるし、お食事だって!えっと、それから…」  必死に訴える煜瑾が稚く、愛しく、文維はとうとう笑ってしまった。 「文維?」  意味が分からずに、煜瑾はその幼気(いたいけ)な瞳で愛する人をジッと見つめた。

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