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第3話
__左手に皮をのせ、中央にギョーザの具をのせましょう。軽くはさむようにもち、皮の端に水をつけてグッとつまみます。_
「ふんふん、なるほど。粘土遊びみたいな感じで出来そうですね」
ネット検索したギョーザの作り方を見て、ロランは独り言をいい頷いている。
「ギョーザの皮っていうんだな、コレ」
オーウェンもロランの検索した画面を横から覗き見し、ロランの独り言に答えていた。
二人で200個の冷凍ギョーザを食べ終え、自分たちでも作れるのか?とネット検索してみた。すると、ギョーザの作り方がいくつもアップされていて、どれを見ても簡単そうに見えるから、次は作ってみようかという話になっている。
「ギョーザって、フライパンでパンケーキみたいに焼くんですね。難しかった…」
「引っ付くのがな…油と?水?が重要って書いてあるよな。確かに最初は難しかったけど、最後は上手く出来たぞ?」
「私は最後まで上手く出来ませんでした…」
しょぼんと肩を落としてるのを見て笑ってしまった。ロランは器用になんでも出来そうなタイプであるが、料理のセンスは皆無であった。
「私もギョーザを焼きます!」と張り切ったところまではよかったが、ギョーザの皮がフライパンにくっ付き、具が全部出てしまっていた。
それにフライパンを持つ手もぎこちなく、オーウェンはそれを見てハラハラしっぱなしである。
見るにみかねて途中からはオーウェンが焼く係となり、ロランは隣で皿を持って待っている役割としていた。
「あははは、そんなに落ち込むなって。いいか?次も俺が焼くからお前はギョーザを包む方をやればいいじゃないか。な?」
「わかりました!包むのは出来そうです。それに、自分で作るのなら、気兼ねなくいくつでも作れそうです。そしたらまたいっぱい食べられますね!」
うふふっと、嬉しそうに笑っているが、ギョーザを包む方も怪しいなとオーウェンは思っている。料理はちょっと出来ると言っていたが、恐らくかなり苦手分野だと思われる。
「具がはみ出ててもさ、食べられればいいんだから、大丈夫だよ」
「あっ!信用してないですね?私は包むのは出来ると思います。きっと上手に出来ますから。だからリベンジです」
「あははは、じゃあ見せてもらうか。本当に上手く出来んのかって」
「出来ますよっ!包むのはオーウェンさんの方がきっと下手っぴだと思うもん」
ロランと一緒にいると、どうでもいい事を言って笑い合っていることが多い。仕事が終わりホッとしているからなのかもしれないけど、何となく一緒にいるのが心地よく感じていた。
「じゃあリベンジはいつにする?つうかさ、材料って何?ギョーザって何なの?」
「えーっとですね。ギョーザはお肉とキャベツと…これって全部チャイナタウンに売ってます!見たことあるかも!」
「おお〜チャイナタウン!おっきなパンみたいなやつあるよな。具がギョーザみたいなやつ。俺、あれ好きだよ。あ〜食べたい!後さ、チョコチップのでっかいスポンジケーキあるだろ、あれも好きだなぁ」
「おっきなパンは肉まんっていうんですよ。私も好きです〜。あ〜食べたいなぁ。あっ!エッグタルトって知ってますか?カスタードのパイなんですけど、すっごく美味しいの」
あれもっ!これもっ!と、また嬉しそうにロランが教えてくれている。ギョーザを200個食べてもまだ食べ物の話ができる相手はなかなかいない。そういった意味ではロランは貴重な人である。
「よし!じゃあ、明日チャイナタウン行くか?ロランも休みだろ?」
「うわぁ〜!行く!行く!そしたらエッグタルトを紹介しますから、是非食べてみてください!いくつ食べられるかな、エッグタルトなら、軽く10個はいけると思うんですよね」
「おおっ!楽しみだな、俺のとこの冷蔵庫でっかいだろ?だからいっぱい入るから、明日は車で行って買いだめしよっかな〜。そしたら、またここで一緒に色々と食べようぜ」
「やったぁ〜!そうしますっ!嬉しい」
大食漢同士で話は盛り上がり、早速明日、チャイナタウンへ行くことが決まった。
食後にコーヒーでも飲むかと、キッチンで湯を沸かしている最中も、火にかけたポットを見つめ、二人は話を続けていた。
キッチンのコンロ前で横並びになり、明日は、ここ行ってあっち行ってと、チャイナタウンの道順をロランが身振り手振りで教えてくれている。
「じゃあ、コーヒーは私が入れます」
「えっ…いいよ、俺がやるから」
ロランが自ら引き受けようとしてくれるけど、さっきのギョーザのこともあるし…とオーウェンは躊躇した。
「また〜!信用してないですね。コーヒー入れることくらい出来ますよ。カップはこれでしょ?で、ここにコーヒーを…ね、」
躊躇していることに気づいたように言われたから、じゃあお願い…と言ったけど、カップに注ぐだけの行為だが、ロランのぎこちない手つきにオーウェンはハラハラしてしまう。
「いっ!こっわ…やっぱり俺がやるよ。ロランは座ってろって。うーわ…見てられない。ほら、かしてみ?」
「あはは!なにをそんなにハラハラするんですか〜。大丈夫ですよ!はい、でーきた。どうぞ」
「ひ〜っ、よかった。心配したぜ。息止めちゃったよ」
「あははは、もう!なんで息止めるの!コーヒーくらいいつも入れてるよ?オーウェンさん可笑しい!」
気にしすぎだったようだ。コーヒーくらい入れれると思うが、ロランの料理の苦手っぷりを見たばっかりなので、オーウェンは手が出そうになっていた。
ロランがコロコロと笑い機嫌良くコーヒーカップを持ってキッチンのテーブルに座ろうとした時、ツルッと手元からカップが落ちてしまった。
「わっ!あ、あっつい!」
カッシャーンと音を立ててカップが床に落ち、熱いコーヒーがビシャっとロランの足にかかってしまった。
「ロラン!大丈夫か!」
オーウェンは咄嗟にロランを抱き上げ、バスルームまで運んだ。熱いコーヒーを引っかけたから、火傷になってしまう。
「とりあえず冷やそうぜ。大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫です。すいません…」
ズボンを膝まで捲り、靴下を脱がせて冷たいシャワーを足に当てた。
「寒いか?ちょっとだけ我慢しろよ。タオル持ってくるから、もうちょいシャワーを当てといてくれ」
急いでタオルを取りに行き、戻ると半泣きのロランがバスタブに腰掛けていた。オーウェンに言われた通り、冷たいシャワーを足に当てている。
「何、泣きそうな顔してんだよ〜。大丈夫か?火傷の薬あるからあっちで塗ろうな」
「す、すいません…今日はずっとヘマばっかりしてます。せっかくオーウェンさんとご飯だったのに」
「ご飯は美味かったろ?だったらヘマばっかりじゃないぜ。よし、もういいだろう。じゃあっち行こう。歩ける?」
「歩けます!大丈夫です!」
半泣きだが、元気はあるようだ。ロランをリビングのソファまで連れて行った。
普段から傷や怪我が多いオーウェンは、火傷や皮膚の炎症を抑える薬はもちろん常備品として持っている。黄色い塗り薬のそれは、ちょっとヒリっとするがよく効く薬である。
「足出して。あ〜、ちょっと赤くなっちゃったか…痛くない?酷くなったら医者に行くんだぞ。この薬、ちょっとだけヒリっとするけど、効くからな」
コーヒーは、右足にかかったようで赤くなっていた。自分より遥かに小さいロランの足に塗り薬をすり込んでいく。
くるぶしのところまで塗ると、そこに黒いアザのようなものが見える。うーん?と目を凝らして見ると、そのアザらしきものはキャンドルの形をしていた。
薬を塗るふりをして、ロランに気づかれないようそれを指で擦ってみた。擦っても消えないそれは、オーウェンが「やっぱりな」と思うもの。
これはなに?と聞く前に、つい口から言い出していた。
「ロランはテレパシー持ち?」
「えっ…」
サッと足を引っ込めて、ロランは顔を曇らせた。オーウェンが擦って消えなかったロランのくるぶしのアザは、テレパシーマークと呼ばれるものだ。
テレパシーの持ち主は身体のどこかにテレパシーマークと呼ばれるものを必ず持つという。ロランの場合はくるぶしにそれが出ているようだった。
「ロランのテレパシーマークは、キャンドルの形をしてるんだな」
テレパシー持ちと決めつける聞き方は、デリカシーがなく、ロランを傷つけたかもしれない。そう後悔したが遅かったようだ。ロランは少し怯えている。
「大丈夫だよ、ロラン。俺はびっくりしたり、驚いたりしないから。というか、そうなんだろうなって思ってたからさ」
「そう…って…知ってたんですか?テレパシーあるって」
ロランは青ざめているけど、テレパシーを持っていることを認めた。
「うーん、確信はなかったけど、多分そうなんだろうなって。にしても、なんでそうビクつくんだ?テレパシー持ちなんて、みんなオープンにしてるだろ?」
テレパシーとは誇りであり、持ってない人からは羨ましがられることだ。なので多くの人は、持っていることをオープンにしている。ロランのように隠すようなことはしない。
「ち、違う…違うんです。怯えるとか、じゃなくって…その…」
「ロランのテレパシーの相手が誰かって、知られたくないから?」
ああ…またしてもデリカシーがない聞き方をしてしまう。
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