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第4話

ロランが涙目になったり、ぐすんと泣きそうになると目を伏せたくなる。 もしかしたらそれが自分の弱点なのかも?って思うくらい、オーウェンはオロオロとしてしまう。 「ご、ごめん!あ、あのな、ロラン…俺は責めてないぞ?色々と事情があるのはわかる。テレパシーの相手を言いたくないんだったら別にいい。だけど、何となくわかってるんだなぁ〜っていう事は、知っておいてくれ」 手当てをした足に、靴下を履かせてあげた。そしてそのまま下から覗き込むようにして、ロランの様子を伺う。うつむいたまま、涙なんか溢されたらたまんない。 「わかってる…んですか?相手のこと」 「うん…まぁ、そりゃぁ」 ロランの態度を見ていたらわかると言いかけて口をつぐむ。俺だけじゃなくマリカやコウだって薄々勘付いてるんだと、オーウェンは言いたかった。 「誰だか分かるんですか?本当に?」 「本当にって…テレパシーの相手はウルキだろ?」 しまった…!めちゃくちゃストレートに聞いてしまった。だけど、ロランはびっくりした顔をしている。なんで知っているんだという顔だ。あれだけ周りにわかりやすい態度なのに…こっちが、なんでこんなに驚くんだ!と思うほど、びっくりしている。 そして少し間があったが、ロランはコクンと頷き認めた。ああ、やっぱりそうだったかと、オーウェンは思った。 ロランのテレパシーの相手、ヘーゼル国第二王子のウルキはまだ赤ちゃんである。 その赤ちゃんであるウルキとロランの間では、会話がなくても意思の疎通が出来ていると感じていた。 「うふふ、ウルちゃん。わかったよぉ〜」とか「ん?これじゃない?」とか、ロランはウルキ相手に頻繁に喋っている。 その姿を見て、オーウェンたち周りは、ウルキとロランはテレパシーで繋がってるんだな、そしてロランはそれを言葉に出しがちなんだなと思っていた。 今日だってそうだ。 「ウルちゃんが泣いてるかも」って、ロランはドーナツショップで突然呟き、マリカにウルキが泣いている理由を説明していた。 あの時も、多分ウルキからのテレパシーを受けているんだなと、オーウェンとマリカは感じたから目配せをしたんだ。 「やっぱりそうか…近くにいると、わかるもんなんだな」 「えっ!どうして?わかるの?」 「いや〜、何となく…?二人は繋がってるんだなって思ってたよ?俺はテレパシー持ちじゃないから何ともいえないけど…マリカとかコウは気がつくっていうか」 「コウ様も!…わかってるんでしょうか…」 またロランは下を向き顔を曇らせた。ロランが慕っており、ロランの主でもあるヘーゼル国第一王子のコウにも知られているのは、更に落ち込む理由になるようだ。  「ロ、ロラン?そんな顔しないでくれ。別にわかったっていいじゃん?ダメ?」 ロランは、またぐすんと泣きそうな顔をしている。こんなに驚き、こんなに落ち込んでいると、何だか悪いことをしてしまったようである。こんな時はどうしたらいいんだ。 「コウ様も知ってるって…どうしよう…私は、きちんとお伝え出来ていません。オーウェンさん!どうしよう。コウ様、怒っちゃう」 「怒らないよ、コウだってマリカだって。薄々気がついてるんだから」 オーウェンがどうしたらいいんだと、オロオロしているうちに、ロランは涙を目に溜めて鼻を赤くしている。それを見て胸がぎゅっと痛くなった。 自分がデリカシーなくズカズカと気にせず言ったことで、ロランを傷つけてしまった。理由はわからないけど、ロランにとってテレパシー持ちだということは知られたくなかったことだと思われる。 「気がついていらっしゃるなら、私の口からお伝えするべきですね」 「だ、大丈夫か?無理すんなよ?」 「いつかお伝えしなくてはと思ってましたから…だから大丈夫です。コウ様とマリカさんにお伝えしたいと思います」 咄嗟に聞いたことから話が進んでしまった。もしかしたら人生最大の告白になるかもしれない。こんなことになるなんて思わず、つい軽く聞いてしまったことを悔やむ。 「ロラン、なんかごめんな、俺が禁断の領域に踏み込んでしまったみたいで」 「禁断の領域…っていうか、私が踏ん切りがつかなかったっていうか…でも、やっぱり、このままはよくないです」 「で、でもさ、言いたくない理由あるんだろ?知られたくなかったというか…」 こんなこと聞くとまた戸惑うと思ったが、オーウェンはロランに理由を尋ねた。 「そうですね…隠してたわけじゃないんですけど…言い出すタイミングっていうか」 ロランはコウとウルキの護衛となった時、ウルキからのテレパシーを感じたという。ウルキは本能で無意識にロランを呼んでいたらしい。もしかしたらと思い、ロランもテレパシーで話しかけると、ウルキは嬉しそうに答えてくれたという。 「ウルちゃんがテレパシーの相手だって、はっきりわかったんですけど…私が相手だなんて、いいのかなって思って…恐れ多いというか、不釣り合いなんじゃないかって思って。変えられない事実ですけど、ちょっと戸惑って…」 「ロラン、戸惑うことないって!コウもマリカも、相手がロランだって知ったら喜ぶと思うぜ?」 ロランが言い出せなかった理由は、相手が王子であること。自分が相手なんて恐れ多し、面目を失わせてしまうかもしれない、なんてことを考えていたらしい。 「いいんでしょうか…って思います。いつか言わなくっちゃって思ってましたけど」 ヘーゼル国の王子がテレパシーの相手だなんて、確かに政治的なことも含めて考えてしまうこともあるだろう。その気持ちもわからなくはない。しかし、こんなに落ち込むとは、ひとりでずっと考えいたのだろう。相談できる相手もいないしと、考えれば考えるほど可哀想でたまらない。 「タイミングを逃すとよくないか…ウルキが大きくなったら確実にわかることだし」 「そうですよね。でも、言い出せずにいたから、もう既にコウ様にはご迷惑をおかけしてます。早く言わなくちゃと…今はそう思ってます」 スンと鼻を鳴らしているが、涙は引っ込んだみたいだ。気まずいことはあるだろうけど、ロランなりに踏ん切りをつけているように見える。それでもまだオーウェンは責任を感じていた。 「じゃあさ、俺も同席しようか?マリカとコウに伝えるんだったらさ」 「本当ですか?そうしてくれると嬉しい…オーウェンさんが居てくれると、私は心強いです」 「いいよ、もちろんだよ。だって俺のせいだろ?それにアイツらは絶対怒ったりしないって。だから大丈夫だよ」 よかった。顔を上げたロランはもう泣いていなかった。 ロランの困った顔は心臓に悪い。なんでかわからないが、どうにかしなくっちゃと思ってしまう。 「じゃあ…オーウェンさん、今日は帰ります。色々とありがとうございました。おやすみなさい」 ロランはさっさと帰り支度をして、くるりと背を向けドアに向かい歩き出した。気持ちを切り替えたようだが、まだ不安が身体を纏っているのがわかる。 「お、おい!ちょっと待って!送っていくから」 コートを掴みオーウェンはロランの後ろ姿を追った。こんな時、ひとりにはさせられない。ひとりで帰るなんてとんでもない。夜道で泣かれたなんて知ったら、もっと胸が痛くなるってもんだ。 ロランに追いつき「明日は何時にする?」と、明るく話かけた。二人の共通点である食べ物の話で、気持ちを盛り上げようと頑張ってみる。 「明日は…何時でもいいですよ」と返事をもらう。チャイナタウンに行く約束をしながら、王宮の中庭を通り、ロランが暮らす反対側の宿舎まで送って行った。

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