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第5話

ロランが意を決して伝えると言うので、オーウェンは自宅にマリカとコウを招き、サポートをした。 ロランが緊張しないようにと二人を自宅に招く理由は『ギョーザを作るから食べよう!』と、いわゆるホームパーティー名目にし誘っている。ロランが伝えやすく、言い出せるような環境作りである。 ギョーザの材料は、チャイナタウンに行き買ってきている。一度リハーサルとして二人で作ってみたので、今日は2回目の手作りギョーザである。2回目とはいえ、悪戦苦闘したが、何とか準備完了していた。 「むーっ…やっぱり難しかったです。ギョーザの皮って思ったより小さいから包むっていうのが…いつも上手く出来ない」 「中の具が多過ぎると、ギョーザの皮が破けるからな〜。でもこの前より今日の方が上手くいったぞ?…ほら、これもういいかも。熱いから気をつけろよ?全部は口に入れるなよ?な、」 ギョーザ100個を二人で作り、今はフライドチキンを揚げている。キッチンで揚げてつまみ食いしてを繰り返しているので、二人共立ったまま、できたてを頬張っていた。あっついフライドチキンにかぶりつくロランを、横目で心配する。 「あ、あつ…うーん!おいひい…フライドチキン揚げ立てなんて最高っ!あっつ…」 「ほら〜、気をつけろって。あ、そうだポテトもやっちゃう?食べれるだろ?」 「やっちゃう!やっちゃう!うわーん、ポテトもたくさんあるぅ。やったぁ!」 冷凍庫からポテトも出して大量に揚げ始める。フル稼働しているので、キッチンは暑い。ロランはフライドチキンをつまみながら、キッチンの作業台をテーブル代わりにセッティングしてくれていた。 「お部屋は寒いって言ってましたけど、そんなことないですよね?キッチンはいつも快適です。ちょっと暑いくらいかも!」 揚げてるポテトから目を離せないオーウェンの額に汗が流れる。ロランは背伸びをしてそれを拭いてくれていた。 ここのところ、毎日ここで一緒に料理をし食事を共にしている。だから二人の役割みたいなもんも、なんとなーく出来てきていた。 「おっ、ありがとう!でもよ、キッチンだって、ひとりだと寒いんだぜ?こんなに暑くなるのは、俺ら二人で料理をし始めてからだよ」 ピロンピロンと来客の知らせが鳴った。コウとマリカが到着したようだ。 「ロラン、悪い…出てくれるか?」 「了解です!いってきます!」 ポテトから目が離せないオーウェンの代わりにロランが二人を出迎えに向かった。 「見てー!オーウェンさん!こんなにたくさんのドーナツ!コウ様が買ってきてくれました」 見て見て!と嬉しそうに声を上げてロランが飛び跳ねなからキッチンに戻ってきた。その後ろにはマリカとコウが見える。 「この前、立てこもり事件に巻き込まれたんだろ?そこのドーナツショップに行って、めちゃくちゃ買ってきたから」 コウが笑いながら指をさしているのは、ロランが手にしている大量の袋だ。どれだけドーナツが入っているんだというくらいの大袋が二つ…いや三つもある。 コウとマリカは、オーウェンとロランの大食漢を知っているため、ドーナツもたくさん手土産として持ってきている。ウケ狙いかっ!って思うほどの量だ。 「うわっ、すっげ…これ全部作ったんですか?オーウェンさん、料理できんの?やっぱり大食いのところの食事量はすげぇ…」 「マリカさん、ここには胃袋セブンティーンが二人いるんです!」 マリカがキッチン作業台の上に並べた料理を見て驚いている。四人での食事だが、一般家庭や王宮に比べると確かに量は多いかもしれないなと、オーウェンは改めてテーブルを見渡した。 だけど、オーウェンとロランが一緒だと、これくらいペロっと完食だ。まぁ四人ならこんくらいかなと作ってみたが、感覚がバグっていたかもしれない。 「どーぞ!こちらに座って下さい!」 ロランが二人を誘導してくれていた。座って下さいと言ってる場所は、キッチンにある作業台だ。作業台に椅子をちょいちょいと置いてある。ちょっと行儀悪いけど気心しれた仲だったら問題ないだろう。 ここ宿舎のキッチンは家族用で大きい。キッチンにある作業台もかなりデカい。ロランと二人分だと量も多くなるから、料理を作りリビングに運ぶのは面倒となる。なので、いつもこの作業台をテーブル代わりにし、食事をしていた。 今日のホームパーティーもこの作業台を囲むように座る。大人の男が4人入るとキュウキュウだけど、適当に雑でなんか心地いい。 それに、みんなとキッチンで一緒に料理を作ったり、食べたりするのは、学生時代に戻ったような感覚があり楽しい。 「美味しい!ギョーザってうまい〜、いくらでも食べれる〜。俺、ギョーザ大好きだよ。しかし…すっごい数、作ったな」 パーティースタートさせてすぐ、コウが美味いと言い食べてくれるのを、ロランは喜んでいた。 「あはは、今日は100個作りましたぁ!これくらいならオーウェンさんと私で食べちゃいますよ。ねっ?そうですよね?」 「余裕だよ。この前二人でギョーザ200個食べたぜ、なっ?」 ロランと顔を見合わせて頷き合った後、 「ほらね!」と、ロランが自慢そうに胸を張って言っていた。それを、マリカとコウはニヤニヤと笑って見ている。 「なに、なんだよコウ。ニヤつきやがって」 ヘーゼル国第一王子であるコウを、以前はコウ様とお呼びしていたが、部下のマリカと結婚したし、本人からも「様ってちょっと…」というので、今は呼び捨てである。 そんなコウがニヤニヤとしているのは何故なんだ?と思っていた。 「いや〜…聞いてたよ?俺はマリカから聞いてた。うんうん、いいよ、いいよぉ!」 コウが冷蔵庫を開け、ビールを2本取りマリカに一本渡している。コウは第一王子だけど、庶民的な感覚がある奴である。マリカと二人でビールを、ガンガン飲んでいた。こうやって飲み物食べ物に、すぐ手が届くのも、キッチン飲み会のいいところである。 「コウ様、ギョーザ好きですよね?ギョーザってほぼ野菜だからいくらでも食べれるし、ヘルシーなんだって!次は私が焼きますから!待っててくださいね」 ロランが今日はギョーザを焼きたいと言い出していた。この前上手くいかなかったからその時のリベンジをしたいらしい。だが、オーウェンは心配で見てられない。なので、やんわりと断っていた。 断ると「大丈夫なのに…」と、ロランはしょんぼりとしてしまう。ロランのぐすん攻撃はオーウェンの弱点である。だから「よ〜し!じゃ、やってみろ」と、つい言ってしまっていた。 「じゃあ、俺が隣にいるから…これとこれ持って…いいか、気をつけろよ?」 ロランは嬉しそうにぴょこんと立ち上がり、オーウェンに近づいた。言われた通りキッチンでフライパンを握りしめ、ギョーザを焼き始める。キリッと真剣な顔つきをしている。 「いつ…水入れますか?今?まだ?」 ギョーザは途中でフライパンに水を入れる必要がある。そのタイミングがいつなのかと、ロランはドキドキしているようだ。 「もう入れていいかな。けど、水を入れると油が跳ねるから、そこだけ俺がやる」 「なんでですかっ!大丈夫だって…」 「ダメ、水を入れるところは俺がやる。油が跳ねたらどうする?危ないだろ…その後ロランにバトンタッチするから、な?」 慕っているコウに自分の手作りしたギョーザを出したい!焼いて出したい!全工程自分でやりたい!というロランの気持ちは痛いほどわかる。 だから料理下手でも苦手でも、ロランにやらせてオーウェンは横にぴったりとくっつき、目を凝らして見ているんだ。 ただ、ギョーザには油の中に水を入れるという極めて危険な行為がある。それだけはやらせられない。跳ねたらどうする!ロランにやらせるなんて…ああ〜っ!考えただけでもヒヤッとする。ここだけは譲れないんだ。 オーウェンがギョーザに水をジャっとかけて、手早くフライパンに蓋をした。横を見ると、ロランが唇を尖らせていたから笑ってしまった。 最近、ロランはいろんな表情をするようになってきている。遠慮がなくなってきたような、思ってることを言ってくれてるような感じで、オーウェンは嬉しく思っていた。 「ははは、そんなプーってなってもダメ。油が跳ねたら火傷するだろ?そんな危険行為をやらせるわけにいかないだろ?」 「もう〜っ、プーってなりますぅ!だって…いっつもそれ、やらせてくれないんだもん!大丈夫だって言ってるのにぃ!」 オーウェンが危ないからダメだと言うと、唇を尖らせたままこっちを向きロランは文句を言ってきた。本人は怒っているようだが、その顔を見るとつい笑ってしまう。 「ははは、ごめんごめん。水を入れるのはまた今度な。ほら、この後は任せたぞ」 隣で膨れてるロランの頭をポンと撫でて謝った。 「おいおいおい…俺らは何を見せられてんだぁ?照れるぜっ!なぁ、マリカ!」 「だよな。コウ、あれが胃袋セブンティーンだってよ。信じらんねぇよ」 後ろを振り向くと、コウとマリカがビール片手にこっちを見てニヤニヤとしている。 なんだかヤイヤイ言いやがると思うが、そんなのは無視してギョーザに向き直る。料理中は目を離してはいけない。 「もういいんじゃないか?」 「うーっ…上手く出来るかな。お皿持っててください。うーん、引っ付かないで…」 「よし…受け取るから。ははは、心配するなって〜大丈夫だからよ」 とは言うものの、内心では心配している。ロランがフライパンを傾けるたびに、心臓がドキッとしてしまう。とにかく、火傷しないようにとジッと手元を見ている。 心配は大いにしたけれど、フライパンにギョーザは引っ付かず、ロランは綺麗にお皿に盛ることが出来た。引っ付かずに上手く出来たのは危険行為、水を入れたおかげであるのだろう。 「やった!お店のやつみたい!上手く出来ました。よかったぁ〜。コウ様!マリカさん!出来ましたよ、追加ギョーザです」 キャッキャとロランが嬉しそうに出しているのを見てオーウェンはホッとする。 ロランが作ったギョーザは丸っこくて、コロンとした形だ。コロンコロンとしているギョーザと、キャッキャと喜ぶロランを見て、マリカとコウは笑っている。 「ロランの作ったやつ美味しいよ!本当すっごい、ギョーザって自分で作れるんだな…さっきまで何を見せられてんだって思ってたけど、いや〜よかったよ」 「ギョーザは不恰好だけど、美味しいぞ!戯れあってるのを見て酒を飲むのかって、ゾッとしたけど、うん、よかったな」 さっきから何を言っているんだコイツらは。ずっとニヤニヤとしやがって。キッチンではまだオーウェンが追加ギョーザを引き続き焼いている。だから、目を離せないギョーザを見つめつつ、言ってやった。 「お前らは、さっきから何をごちゃごちゃ言ってんだ?ギョーザ食えよ?フライドチキンもポテトもあるから…あ、ロラン、」 「あ、は〜い!大きい方でいい?これかな」 また追加のギョーザが焼き上がったので、新しい皿を取ってもらおうと、ロランに声をかけた。するとまたコウがニヤニヤと笑って言った。 「なーに〜ぃ?今の。ねぇ、なあにぃ?何も言わないで分かり合えるのぉ?二人共、テレパシーあるんじゃない?もう、テレパシーの相手でいいんじゃないのぉ?」 コウの言葉にロランは驚き、持っていた皿を落としてしまった。ガッシャーンと音を立て、皿は盛大に割れた。 もう…なんてタイミングでそんなこと言うんだと思いながら、オーウェンは咄嗟にロランの肩を支えた。 「えっ、はっ?あれ〜?なに?俺、なんか変なこと言った〜?」 青ざめているロランの肩を支えた。そのままオーウェンは頭を抱える。 マリカは立ち上がり、何故かコウを抱きしめている。マリカの腕の中で、コウだけはキョロキョロと辺りを見回していた。

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