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第6話

「申し訳ございません!コウ様…うっぅ」 涙目ぐすんどころではない。 ちょっとふざけたことを言ったコウの言葉にロランは動揺して、泣き出してしまった。 そして一心不乱でコウに謝り、自分はテレパシー持ちであり、その通じ合う相手はウルキであると告白している。 突然泣き出し、謝られているコウの方も、オロオロとしていた。こんなにロランが泣くなんてどうしたらいいんだ!と取り乱しているようだ。まぁ、コウも悪気があったわけじゃないから可哀想ではある。 「ロ、ロラン?うーっ、泣かないで…なんか、ごめんな?だけどロランの相手がウルキだってことは薄々わかってたよ?そっかなぁって、なっ?マリカ。おい!マリカ、聞いてんのかよ!」 コウがマリカに助けを求めている。自分がふざけて言ったことがきっかけで、ロランが泣き出してるから必死である。 「え?相手?わかってるよ。そんなん、見てりゃわかるんだから」 「お前…そんな適当な返事しやがって」 マリカはコウ以外のことに、興味がないらしく返事も雑である。マリカにしたらロランの相手なんて、どうでもいいことなんだろう。 「うっ、うう…早く言い出さないで…申し訳ございませんでした。ウルちゃんに迷惑かけないようにしますから…」 「ウルキに何の迷惑がかかるんだよ…ロラン、大丈夫だって。言わなかったこと、俺は気にしてないよ?いつか言ってくれるかなぁくらいでさ。それにウルキの相手はロランでよかったって思ってるし。なっ、マリカ!なっ?」 ギロっとコウがマリカを睨んでいる。お前!助けろよ!と、恐らくテレパシーで言ってるんだろう。聞こえないけど、聞こえてくるようなもんだ。 「えっ?あ、うん。お前さ、泣いてないでギョーザ食べろよ。冷めちゃうだろ?」 コウが何度話を振っても、睨んでも、マリカにとってはやはりどうでもいいらしい。今はギョーザの方が大切なようだ。コウの言うことは聞くのだろうが、マリカって意外とマイペースだから大変そうである。 それでも、うっうう〜とロランは泣き続けているので、椅子に座らせ肩を抱き、背中をさすってあげていた。 オーウェンはロランの気持ちがわかるから、胸が痛い。今日はテレパシーのことを告白するためにコウとマリカを呼び出している。本人からしたら一世一代の告白だろう。毎日明るく振る舞っていたが、コウに告白するのが不安になったり、心配していたりと、心の中には常にそのことがあり、揺れ動く気持ちをオーウェンは聞き、そしてそんなロランの姿をずっと見ているから知っている。 なのに、タイミング悪くジョークから告白につながってしまっていたから、何とも言えず運が悪い。 「ほら、大丈夫だろ?コウもマリカも怒ってないって。マリカなんて興味なさそうだろ?見てみろよ、めっちゃギョーザ食べてるだけじゃん。な、大したことないって感じだろ?気にするな。あ、ほら、ドーナツ食べるか?ロランの好きな期間限定のイチゴあるぞ?この前食べられなかったじゃん、今日は思いっきり食べろって」 頂き物のドーナツ袋をガサゴソ開けて、イチゴのドーナツをロランに手渡してあげたが、ぐすんと鼻を鳴らし、大好きなドーナツも持ったままでいる。 ロランのぐすんに弱いオーウェンも、コウと同じく困ってしまう。このまま隣に座り、肩を抱いてあげているだけだ。 「じゃあさ、教えてくれよ。ウルキとテレパシーで何を話してる?な、食べながらその話しようぜ!パーティーだろ?ほら、食べろよドーナツ。ドーナツパーティーに変更してもいいよ?」 コウが気を使ってロランに話しかけている。他人を気づかうなんて、本当に庶民的な王子で気持ちのいい奴だ。他人に興味がないマリカとは大違いだ。オーウェンはコウの意見に賛成!とばかりに深く頷いた。 「ウルちゃんとは…何も話は出来てません」 「えっ?どういうこと?」 「ウルちゃんはまだ赤ちゃんなので…テレパシーも赤ちゃんっていうか…」 ロランの話にあのマリカも興味を持ったらしく、ギョーザを食べながらも聞き始めていた。 ロラン曰く、ウルキはテレパシーの相手であるのは間違いないが、意思の疎通は出ていないという。それはやっぱりウルキが赤ちゃんだからだそうだ。 眠い、お腹空いたなど、そういった感情は伝わってくる。だけど言葉としてはっきりと伝えられるものはない。 「例えばこの前…おもちゃが見当たらなくてウルちゃんが泣いていたのは伝わってきました。ないよ〜、ないよ〜って感情と…『ババ』って、テレパシーで言ってたから、多分おもちゃなんだなって、わかりました」 「ババって、あれか…ロバのおもちゃのことだろ?おもちゃをそう呼んでるからだよな…つうことは?テレパシーは、ウルキの感情と、ウルキが喋れる赤ちゃん語だけってこと?」 コウが前のめりになり、ロランに確認している。赤ちゃんとのテレパシーなんて聞いたことがないから、興味深いのだろう。 「そうです。ウルちゃんは…多分、まだテレパシーってわかんないと思います。私と離れてる時だけ…それも何かして欲しいって時だけ、感情を送ってくる感じです」 「えっ!えっ!ロラン?そしたら、いつものアレってテレパシーじゃないのか?」 オーウェンは不思議に思って聞いてみた。 いつもロランはウルキを抱っこしながら「うふふ、ウルちゃん。わかったよぉ〜」とか、「あはは、ウルちゃん、これでしょぉ?」とか頻繁に喋っている。それはテレパシーじゃなかったのか?と聞いてみた。 「違います」 キッパリと否定される。 「え?お前さ『ウルちゃんごめんね〜、怖かったねぇ〜』って、この前アチュウのイベントで言ってただろ?あれもテレパシーじゃなかったのかよ」 マリカも同じことを思っていたようで、ロランの真似をしながら聞いている。コウはマリカの真似にウケて爆笑していた。 「違いますよ。そんなのいつも一緒にいればわかることじゃないですか。テレパシーでも何でもありません。ウルちゃんは赤ちゃんなんだから、して欲しいことなんて近くで一緒に過ごしてればわかります」 近くにいれば、オムツを変えるとか、お腹が空いたとか、眠いとかそんなことはテレパシーじゃなくてもわかることだとロランは言う。 ぐすんと泣いていた涙も徐々に収まり始めていた。ロランはちびちびと、ドーナツを齧り始めてくれている。 「なるほどね〜。ま、テレパシーって所詮そんなもんよ。俺らも、くっだらないこと言ってるだけもんな?」 「まあ、使いこなせては無いよな」 カカカッと、コウとマリカは顔を見合わせ笑っている。この二人は自然体であるが、阿吽の呼吸とか、そういう繋がりがあるのを強く感じる。テレパシーで今の関係を築き上げていったと思っている。 それに、好きだとか、愛してるとか多分頻繁にテレパシーで送り合っているんだと思う。二人共、たまーに、ニヤァっと幸せそうな顔をしているから「はいはい、愛を深めてますね」と、周りは察している。 そう思っていたが、二人の間にあるテレパシーでは、どうでもいいことを伝え合ってることが多いらしい。SNSとか電話、メールみたいなもんだとコウは言うが、テレパシー持ちじゃないから、オーウェンにはピンと来ない。 「ふーん、そんな感じなのかねぇ…テレパシーって。もっとこう、なんつうの?言わなくても相手の気持ちがわかって、二人にしか感じないものがあってとか?そんな、運命的なものかと思ってたけどな」 テレパシーを持っていない、世間一般から見ると、テレパシーってそう言われ、思われているところがある。 テレパシーを送り合う同士には固い絆があり、二人だけの世界があるんだと。 だからテレパシーの二人は運命的に結ばれることが多いといわれ、それがロマンティックだなんだと羨ましがられている。 「そんなこと言ったらだよ?それこそっ!さっきのオーウェンとロランだよ。言わなくても相手の気持ちがわかって?二人にしか感じないものがあって?ほら、そうじゃん!なーんにも言わないでも、お皿取ったりしてさ、二人でわかり合ってたじゃ〜ん!」 コウが突然テーブルをバンっと叩いて熱弁し始めた。テレパシー同士ではなくても、テレパシーに近いことが出来ている、近しい者には意思の疎通があるということを言い出した。 「はあ?さっきのって…あんなのテレパシーじゃねぇよ。意思の疎通でもないだろ?だって皿取ってもらうだけし。それに俺はテレパシー持ちじゃないし」 ロマンティックでもなければ、テレパシーでもなんでもない。そうだろ?とロランに同意を求めると、微妙な顔をして見つめられた。 「セブンティーン先輩、デリカシーない…」 「なぁ、本当。言わなくてもいいこと言っちゃうから、この人」 コウとマリカにまたヤイヤイと言われる。デリカシーがないのは自分でもわかっているが、今のはどこにそれを感じたのか、わからない。 「まぁいいや。よ〜し!今日は飲んで食べようぜ!ロラン、ほら食べろよ。そんで、もっと話聞かせてくれよ」 コウの掛け声でやっとパーティーが始まりそうである。

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