7 / 17

第7話

胃袋が思春期男子並みにブラックホールで、いくらでも食べれることから「胃袋セブンティーン」と、自称他称含め、呼ばれているオーウェンである。 そんなオーウェンと同じくらいの大食漢である部下のロランと知り合い、大食い仲間だ!と、意気投合してからは、二人で色んなところに食事に行っていた。 フライドチキンやドーナツ、ピザやステーキの食べ放題に行ったりして、どの店でも、二人そろってぺろっと食べ尽くしていった。 店から出て、二人でドライブをしながらの帰り道では「明日はどこに行こうか」と相談をするのも楽しかった。お腹いっぱいになった後、途中カフェが見つかれば、またそこでデザートを食べたりすることもあった。 だけど、外食ばかりだと同じものになるしと少し飽きてくる。この前、ギョーザを自宅で焼いたこともあり「じゃあこれからは自分たちで作ってみる?」と、何となくオーウェンが言った言葉にロランは大喜びし、それからは毎日オーウェンの家で夕食を共にしていた。 自分たちで作ったり、買ってきたものを並べたりと、最近の夕食は自宅キッチンの作業台に、いっぱいのご飯が乗るようになっった。 ロランは「好きなものを好きなだけ食べれるから嬉しい!」って、何度も楽しそうに言っていた。それを聞き、オーウェンも「確かにそうだな」と思っている。 自宅だと時間を気にしなくていいし、好きなものを買い込んだり出来る。ステーキとドーナツ大量なんて、変な組み合わせの食事をすることが出来るのも楽しいもんだ。 まぁ早い話、好き勝手に色んなものを食べれるっていうのが、自宅ならではのことだった。大食漢の二人には、このスタイルが一番合ってると、オーウェンもロランも口を揃えて言っていた。 そんなロランが、今日は小さい身体をさらに小さくして泣いていた。いつもは楽しそうにケラケラと笑っているテーブルで、今日はくすんくすんと泣いている。 大好きなご飯にも手をつけず、ひたすらコウに謝罪している姿に、オーウェンはどうしていいかわからず、オロオロするだけだった。 コウが必死に慰め、オーウェンが背中を摩り続けた頃、少しずつロランの涙はなくなっていった。 コウとマリカが手土産に持ってきてくれたドーナツを、三つ食べ終えたロランは、やっとコウの話に笑えるようになってきていた。いつものロランに戻ってきたようである。ずっと隣で見ていたオーウェンは、少し安心した。 「あははは、コウ様!そんなことテレパシーで言ってるの?」 今はコウのふざけた話に、ケラケラと笑っている。コウとマリカがテレパシーを受け入れてくれたと落ち着いたようだ。 しかし…と、オーウェンは考えていた。今までテレパシーの相手がウルキだってことを言い出せず、ひとりで悩んでいたなんて、本当に可哀想だった。考えただけでも胸が苦しくなってくる。 いつもケラケラと笑っている明るい性格のロランが、テレパシーの相手の話になると落ち込み、青ざめた顔をしていたのを思い出す。 きっかけはデリカシーなく聞いた自分の言葉だ。だと思うと、自分にも落ち度があるし、悪かったと感じる。 ロランに、こんな悲しい思いをこれから先二度とさせてはいけない。悩んだり、考えたりしたら自分が受け止めてやりたい。そうオーウェンは考えていた。 「でさ、ロランのテレパシーマークもキャンドルなんだろ?」 「そうだろ、ウルキもキャンドルだから」 テレパシーの持ち主が身体のどこかに必ず持つという、テレパシーマークの話になっていた。 「はい!そうです。マークはキャンドルの形をしています。ウルちゃんはおへその横にありますよね?オムツを替えた時に気がつきました。私のマークと同じです。あ、見ますか?」 えっとねぇ〜と、ロランは靴下を脱いでテレパシーマークを見せていた。コウとマリカはロランの周りを囲み覗き込んでいる。オーウェンもそれを端からチラッと見た。この前、コーヒーをかけてしまった足の甲は、火傷になっていないようで安心する。 「本当だ!ウルキと同じだ。へぇ、ロランのマークは足首にあるんだな」 「コウ様のは?どこにあるんですか?」 「ええっ…うっ、えっとぉ、俺のは変なとこにあるから」 マークがどこにあるかと聞かれただけなのに、コウは急に口ごもり、顔を真っ赤にしている。 「お〜い、コウ!なんだよ、急にモジモジしやがって。お前のマークだってロランに見せればいいじゃないか。ロランは見せたんだからよ」 「オーウェンさんダメです。コウのマークは見せられない。あのね、マークなんてデリケートなもんですよ?人に見せたり触らせたり、そんなことしなくていいって」 オーウェンが見せろとコウに言うと、横からマリカが口出ししてきた。コウのことになるとやたらとこの男は必死になる。 しかし、オーウェンが実際のマークを見たのは、ロランのが初めてであるから、取り扱いなんてよくわからない。そんなデリケートなもんなのか。 「そうなのか?マークってよくわかんないから…ごめんな?ロラン、この前、俺触っちゃっただろ」 「大丈夫です!なーんにも問題ないです。見せたって触ったって平気だよ?」 うふふと首を傾げて笑うロランに、オーウェンも自然と同じように首が傾き、笑顔になってしまう。 「え…?えーっ!ちょっと待て…」 コウが立ち上がり大声を出した。飲み過ぎ食べ過ぎで、ちょっと酔っているようだ。 「オーウェン、ロランのマーク触った?いつ?どこで?ベッドルームかっ!」 「いつ…って。えーっと、この前あっちの部屋のソファでだけど…なんだよベッドルームって」 「違う違う!ロランのマークは足首にあるだろ?靴下を脱いで、ズボンも脱ぐだろうよ!それを、オーウェンは見て触ってるなんてさ。あれ〜?って思うじゃん!セブンティーン先輩!そうなのか?もう既に?手が早いやっちゃなぁ〜」 立ち上がったコウは、手をパンっと叩きニヤニヤと笑いながら勝手に分析している。やはり酔ってるようで、めんどくさい。 「オーウェンさん、やらしいな〜。なんだ、もうそうだったのか。うんうん。まぁ、落ち着く場所に落ち着いた感じ?だったら、いいでしょう!」 マリカも腕を組み、ニヤニヤとしながらオーウェンとロランを交互に見ている。こっちは便乗系である。マリカのこんな性格はよく知ってる。 コウもマリカも常日頃、やたらとオーウェンを構ってふざけてくる。先輩であり上司でもあるけど、プライベートでは仲がいい友達のような関係だ。まぁ、オーウェンの方もふざけて二人をイジり倒すこともあるからお互い様である。 だけど、今はとんでもない勘違いをしている。二人が勘違いしているのは、オーウェンとロランが、それなりの行為をしていると思っていることだ。それなりとは恋人同士がする行為である。 だから、ベッドルームか?なんて聞いてくるんだろう。もしかしたら、ふざけてるのかもしれないが、そこだけはロランのためにも強く訂正しなくてはならない。 「違うって、勘違いするなよ?なぁ?ロラン。ほら〜ロランだって困ってるじゃねぇかよ。マークを触ったのは、そんなんじゃないって、偶然なんだって」 二人にこの前の火傷の話をした。コーヒーを足にぶっかけてしまった話だ。誤解があってはいけない。ロランが困らないようにとオーウェンは説明をした。 「な〜んだ、つまんねぇの。でもさ、ロラン。また今度機会があったらオーウェンにテレパシーマーク触ってもらいなよ?もしかしたら、ピリッとするかもよ?」 「マークがピリッとですか?それは何故でしょうか。え〜、痛いの…かな?どんな感じなんでしょう」 ロランが不安な顔をさせている。マークに触れられるとピリッとするなんて言うから怖がってしまうのかもしれない。またふざけやがってとオーウェンが口出ししようとする前にマリカが真面目な顔で言った。 「いや、テレパシーの相手じゃないとそれはないだろ。オーウェンさんが触っても、何もならないんじゃないか?俺らはあるけどさ…」 マリカとコウは、お互いのマークを触り合うとピリッとする感覚が起きるという。そんな不思議なことが起きているなんて驚くが、やはりそれは同じマークの持ち主同士だからあるのでは?とマリカは言う。 「いや、わっかんねぇぞ?マークは未知だからな。もしかしたらもしかするかもよ」 「じゃあ、やってみましょう!オーウェンさん、ここ触ってみてくれますか?」 ズボンをたくし上げたロランの足首にキャンドルの形をしたマークが見える。そこを触ってみてくれとロランは言い指をさす。 「え〜っ、この流れで?今?触るの?」 「そうです!ちょっと怖いけど…いいから、ほら!」 躊躇していると「早く!」「ビビらない!」「男だろ!」と、他の二人にも急かされてしまう。ジッとロランの足首を見つめる三人の前で、オーウェンは手を伸ばし、ロランのマークに触れた。 「…何にも起きません。ピリッともしません!」 だろうね…そうだろうとも。この前触った時だって、なーんともなかったはず。しかし、触る方だって、無駄にドキドキとしてしまったではないか。全く。 「ち、つまんねぇな、オーウェン」 「お、俺?なんで俺?違うだろ!」 「オーウェンさん、そういうとこですよ」 「え〜っ、また俺?なに?なんで?」 結局、またコウとマリカにヤイヤイ言われる。テレパシーやテレパシーマークは未知なことも多いため、新しい発見があるかもしれないと思ったが、そう簡単に新しいことが起きるはずはなかった。 ロランは隣でケラケラと笑いが止まらないようである。なんだかわかんないけど、ロランが笑ってくれてるからよかった。オーウェンはそう思っていた。

ともだちにシェアしよう!