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第11話
「アチュッ!アチュ!アチュー!みーんなーのともーだーちー!」
アチュウのダンスショーでは『みんな集まれ〜』と、かけ声がかかったのでコウが張り切って、一番前にウルキを連れて行っていた。
子供たちとキャラクターだけでダンスができるスペースがあるようだ。その真ん中でウルキはキャッキャと声を上げて喜んでいる。
以前は、キャラクターの大きさに怖がって泣いていたウルキだが、今日は余裕があるようで全く怖がらずにいる。そしてコウとロランが望んでいるキャラクターと一緒にダンスは出来ていた。
「よかったぁ!ほんっとによかったぁ」と、ロランが頬を赤くさせ、何度も嬉しそうに言っている横顔を見て、オーウェンは笑っていた。
一番前でキャラクターたちと一緒に踊るウルキを、マリカが近くでビデオ撮影していた。サングラス姿で身体の大きいマリカは一際目立っており、周りからは邪魔な存在のようであった。
「アイツ!ウケる〜!嫌がられてやんの。あははは、マリカデカくて邪魔なんだよ」
「あはは、マリカさん目立つから〜」
オーウェンとロランはマリカを見て爆笑していた。周りのお母さん達からすると、場違いなサングラス姿の大きな男が必死にビデオ撮影しているのが邪魔なようだ。無駄にデカいから、人様のビデオに入り込み映ってしまう。
ただ、ダンスショーが終わると、サングラスを取り笑顔で周りのお母さんたちに挨拶をしていた。マリカは自分のビジュアルを知っているから、最大限に利用している。
「マリカ〜!余計なことすんなって!」
「いいんだって、適当に笑って挨拶しておけば丸く収まるんだから」
サングラスを取ったらイケメンだった!と周りのお母さんたちは大喜びでマリカに話しかけていたが、コウはそれが気に入らないらしい。
「へーへーそうですかっ!俺が同じことやったら、めちゃくちゃ怒るくせに」
「お前にはそんなことさせない。あったりまえだろ?話しかけるのもダメ!」
意外とマリカは厳しいが、コウは大人しく従ってるところがある。二人の関係は上手くできてるなと感じる。
「あ〜、ウルちゃんお洋服汚れちゃったね。汗かいたし、お着替えしてこよっか」
ランチを食べ終えて、ウルキの着替えをしてくるとロランが言うから、俺も付き合うとオーウェンも一緒に席を立った。
「オムツも替えてきます。オーウェンさん、ここで待っててください」
「俺も行くよ、ひとりじゃ大変だろ?」
「うふふ、大丈夫ですけど…じゃあ、よろしくお願いします。ウルちゃん、オーウェンさんも一緒だって?よかったねぇ」
ロランのテレパシーの相手であるウルキだが、こうやって一緒にいるとテレパシーってどうしてんだ?と思ってしまう。
そもそも赤ちゃんであるウルキは、テレパシーがまだ使えないという。だけど、感情はテレパシーで送ってくるんだとロランは言っていた。
だけど…二人を見るとそんな感じのテレパシーも、使っていないような気がするが、どうなんだろう。
「なぁ、ウルキからテレパシー送られてきてんの?今とかさぁ…」
オムツを替えているロランに、小声で聞いてみた。ここベビールームと呼ばれる場所には、オムツを替える子供たちがポツポツといるような感じである。声のボリュームは自ずと控えめにしている。
「テレパシーですか?ありませんよ。今は必要ないじゃないですか」
「そ、そう?だよな〜。でも、ウルキがロランの相手だろ?だからさ…」
俺の知らないところで送ったりしてんのかな?って言いそうになってしまった。
別に知らないところで、赤ちゃんからテレパシーを送られてきたって、何にも問題はない。だけど、何となく、なんとなーくロランを独り占めされるような、俺も仲間に入れて欲しいような、そんな思いもあり、ちょっとモヤァっとしてしまった。
「はい!ウルちゃん、バンザイしてくださーい。バンザーイ…上手だね〜」
ウルキはロランの言葉に「きゃっきゃっ」と手を叩いて喜んでいる。裸になったウルキのお腹には、テレパシーマークが見えた。この前見たロランのマークと同じ、キャンドルの形をしている。やっぱり二人はテレパシーで繋がっている同士であると再確認する。
「ウルキのマーク、初めて見た…」
「うふふ、私のと同じですよね?ねぇ、ウルちゃん!おんなじだもんねぇ〜」
へぇ〜と、オーウェンがまじまじとウルキのマークを見ていると、遊んでくれてるのかと思ったウルキは、オーウェンに向かい両手を広げて笑っている。ウルキのこんなところが可愛くてたまらない。オーウェンに心を許し懐いてくる。
だからオーウェンもウルキにちょっかいを出しながら、ロランの指示通り、お着替えヘルプをしていた。
「あれ?ロラン?えーっ!うそ!久しぶり」
ウルキの着替えに四苦八苦しているところに、後ろから声がかかった。声をかけてきた人は、赤ちゃんを抱っこしている男性である。ロランと呼ぶだけあって知り合いなんだろう。オーウェンより少し背が低く、細身の男性だった。
「えっ!イーサン?やだぁ!うそ!」
「おおっ!ロランの子?ん、あれ?テレパシー持ち?」
イーサンとロランに呼ばれた男が、ウルキのお腹にあるマークを覗いている。
「えっと、私の子ではないんだけどね」
「でもさ、お前と同じマークあるじゃん。この子、ロランの相手なのか〜。へぇ、かっわいいな。こんにちは」
男はウルキとオーウェンに軽く挨拶をした。ニコニコしていて愛想のいい男だ。オーウェンもつられて、軽く会釈をした。
手慣れている。子供の扱いに完全に手慣れている男にオーウェンは釘付けである。ふら〜っと現れて、スッとこの関係の中に入れる男に唖然とした。それにウルキはいつも人見知りするのに、この男には人見知りせず、キャッキャと愛想よく笑っている。しかも、ロランのことを男は「お前」と呼んでいる!何者なんだ…とオーウェンは警戒する。
「イーサンの子?こんにちは」
男が抱っこしている子にロランが話しかけた。ウルキより少し大きな子だった。抱っこされてる子も、ニコニコ笑ってご機嫌な様子である。
「そう、俺の子だよ。今はね、シングルでこの子を育ててるんだ」
なにっ!この男はシングルと自分のことを言う。シングルとは独身のことだ。カッコつけた言い方しやがって…と、勝手にオーウェンは話を聞きムカムカとしていた。
「そうだ!今度ご飯でも行こうぜ。ロラン大食いだっけ、懐かしいな。連絡先交換しよう」
「オッケー!いいよ、連絡先ね」
流れるようにスムーズに連絡先を交換していた。その後は「じゃあね!」と言って颯爽と別れていた。そして、オーウェンの唖然とイライラ、ムカムカは続いている。
「よし、できましたよぉ〜。ウルちゃん、えらかったねぇ〜。オーウェンさん、ありがとうございます。終わりました!」
「な、なぁ、さっきの人ロランのマーク知ってたけど…見せたことあるのか?」
「イーサンですか?そりゃ、ありますよ」
「はああっ!なに!見せたことあんの?」
「な、なんですか!大きな声出して。ウルちゃんびっくりするじゃないですか」
「あ、あ、ごめんな〜ウルキ〜。ほら、俺が抱っこしてやるぞ〜」
大きな声を上げたが、ウルキは嫌がることもなく手を広げて抱きついてくれた。オーウェンはヒョイっとそのまま抱き上げると、ウルキは見晴らしが良くなったからご機嫌な声を上げた。そのままオーウェンの頬や頭を触り、はしゃいでいる。
「あのさ…なんでさ、さっきの人にマーク見せたの?いつ見せた?」
「なんでって…イーサンは幼馴染なんです。小さい頃、スイミングスクールで一緒だったから。それでマークを見てるんだと思いますよ」
「スイミングスクール!!」
「もう、なんなんですか…さっきから」
「あ、ごめん。ウルキ〜?」
また大きな声を出してしまったので、抱っこしてるウルキを怖がらせたかもしれない。ウルキの方を向くと目が合いキャッキャと声を上げて笑っていたので、ホッとする。
「だけどスイミングスクールって…」
オーウェンは独り言のように呟いた。
スイミングスクールって裸になる場所だろ?しかも海パンだけじゃないか…ってことは上半身は裸…テレパシーマークどころかロランの全身を見られてるってことじゃないかっ!と、オーウェンはぶつぶつと言いながら、ムカムカと考えていた。
考えながらコウとマリカの所へ戻るも、気持ちは上の空である。スイミングスクール、海パン、裸…とぐるぐる考えていることが回っている。
「遅かったな、大丈夫だった?」
コウに話しかけられたが、何を聞かれたのかもよくわからない。ウルキは背の高いオーウェンに抱っこされたまま、相変わらず楽しそうにしている。「オウ!オー!」と、一生懸命オーウェンの名を呼んでいる。
「ロランがそこで知り合いに会ってな、連絡先交換してた。幼馴染だって」
「は?あ、そう…」
「で、スイミングスクールに通ってたんだって。その幼馴染と一緒に」
コウとマリカがポカンとした顔をして、こっちを見ているのはわかっている。客観的に見てアホヅラをしていると思う。
「オーウェンさん…?どした?」
マリカに怪訝な顔をされ、どうしたのかと聞かれても答える余裕がない。オーウェンの心の中では、どうしたなんてもんじゃないからだ。
衝撃である。
ロランに軽々しく話しかけてきた男がいて、そいつはオーウェンも知らない初めて見る男だった。だけど親しげに二人は会話をし、オーウェンが入る隙間もないほどの仲であった。
そいつがロランを「ご飯でも〜」なんて軽く誘い、ロランもロランで軽々しく連絡先を交換していた。これだけでも衝撃中の衝撃なのに、ロランはそいつにテレパシーマークも見せており、裸も見せたことがあると言うじゃないかっ!
こんなことってあるか…自分が知らないロランを知ってる奴なんてと、ムカムカとした感情が湧いてくる。しかも、そいつは子供を連れていて、シングルという…
「シングルって言ってた、その人」
「はぁ…?そう。セブンティーン先輩、マジでどうした?」
シングルって独身ってことだよな。何故あの男はロランに独身だよ〜なんて、アプローチしたんだろうか。わざわざシングルなんて言うかぁ?言う必要ないだろ。それとも宣言したのだろうか。俺はシングルだぜ!って。そう考えると、そう思えてきて何故かムッカつく。
オーウェンの心の中も知らず、ウルキはキャッキャと声を上げ、無邪気にオーウェンの肩によじ登ろうとしている。
楽しそうだなウルキ...
オーウェンが他人のことでこんなにもムカムカとし、上の空になる程考えるのは、生涯で初めてのことであった。
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