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第12話

オーウェンが上の空から何とか抜け出し、気持ちを立て直したところにまた、新たな問題が勃発していた。 「ごめん!ほんっとに急なお願いで、ごめん!」 「いいよ...コウ。本当に大丈夫だって」 「そうですよ!コウ様。私も大丈夫ですから」 コウがオーウェンとロランに頭を下げていた。大丈夫だよと言っても、すまなそうにしている。 アチュウのイベントが終了となり、王室御用達のホテルに、本日は王子二人とマリカの三人で泊まる予定であった。 オーウェンとロランは宿泊せず、そのまま帰宅するはずだったが、ウルキのギャン泣きが入り予定変更となった。 「ルームサービスは、いっくらでも頼んでくれていいからな?も~今日はいっぱい食べて、飲んでくれて構わない!」 ウルキが別れ際に大泣きをして、どうにもこうにも収まらなくなった。今日は常にご機嫌で、アチュウの歌を歌って踊っていたのに、ロランとオーウェンが「バイバイ~」って手を振り、離れようとした途端泣き始め、最終的に手が付けなくなるくらい全身で大暴れしギャン泣きをしていた。 今まで楽しく遊んでくれていたロランとオーウェンがバイバイするってわかったら、ウルキは寂しくなってしまったんだろう。 困った大人たちは、全員であたふたとご機嫌を取ったり、なだめたりとしてみたが、 ウルキはガンとして泣き止まず「いやぁぁああ」と叫び、ロランの服を掴んで離さないでいた。 そんな困りに困った状態の中、一番冷静なマリカが「じゃあさ、二人もホテルに泊まればいいじゃん。ウルキが寝るまでみんな一緒にいようぜ」と、言い出した。 第二王子のウルキは泣き止まない。ウルキは二人とバイバイしたくないんだ!だったら、あんたらも泊まってくれよ?なっ!よろしく~!と……いった具合に、軽くマリカに誘われた。 ウルキはずっと泣き続けており、それを見ているロランもぐずんと泣き出しそうである。ロランのぐすん攻撃には弱いし、明日は休みだし、宿泊代はコウが支払うっていうし、それにルームサービスはいくら食べてもいいと言っている。 「だったら泊まる?」と、ロランに相談し二人も宿泊することを決めた。 「コウ、大丈夫だって。オーウェンさんは暇なんだぜ?だから、急な宿泊だって別に、何にも問題ないって。あ、ロランは?本当に大丈夫か?悪いな」 「おおいっ!マリカ!俺、暇?暇なの?」 マリカはオーウェンを定期的にイジる。それを見たロランは、あははと爆笑していた。さっきはウルキに泣かれて自分もぐすんとしていたが、今は笑っている。やっぱりロランが笑ってくれてるのが一番嬉しいと感じる。よかった。 「ウルちゃん、大丈夫だよ?もう泣かないでね」 ロランがウルキを抱き上げると、ジッとロランを見つめ話を聞いている。大きな目には涙がいっぱい溜まっているが、泣くのを堪えているようだ。そんなウルキの姿がいじらしく、ロランとウルキの関係も微笑ましい思っていた。 「オーッ!ん!んっ!アチュの!」 ウルキがオーウェンに向かって何かを訴えている。 「あ~、あははは。わかった!あれでしょ?アチュウの風船」 「おっ!ウルキ~あれが欲しいのか。よし、買ってやるよ。どれがいい?」 スタジアムの出口付近にキャラクターの風船が浮かんでいる。以前も帰り際、ウルキに買ってあげたことがあるやつだ。 「前に来た時も、オーウェンさんに買ってもらってたんです。ウルちゃん覚えてたんだね!帰る時に買ってくれるものって思ってるのかな。どれ?これがいい?」 ロランがウルキを抱っこしながら風船を選ばせている。ウルキは黄色にアチュウの顔が大きく描いている風船を選んでいた。頬に涙の跡がまだ残っているが、風船を見上げているウルキは真剣な顔をしている。 「へえ...そんなことあったんだ。色なことちゃんと覚えてるんだな」 「楽しかったってことを覚えてるんだろ」 コウとマリカが感傷深く呟いている。親バカぽいところがある二人だけど、ウルキがさみしくないようにって、いつも気にかけているのをオーウェンは知っていた。 ウルキは国王の息子であるが、いつもは乳母が育てている。休日になるとコウやマリカが構い、時にはオーウェンやロランと遊んだりしている。王宮で育つ王子相手に、誰もが親のような役割をしていた。なので少なからず、オーウェンもウルキに対してそんな気持ちも芽生えてきている。 今日は大人四人でウルキを構い倒したから、終始ご機嫌で過ごせているようだった。その中でも、やっぱりテレパシーの相手であるロランにウルキは甘え、心を許していると感じる。眠くなったりお腹空いたりと、何か欲求がある時は必ずロランの出番であった。ウルキが両手を広げて抱っこと全身で訴えれば、ロランはすぐに笑顔で応えていた。 「この後、車に乗ったらすぐコロンって寝ちゃうぞ?あはは、可愛いよなウルキ」 コウが風船を腕にくるくると結んであげている。フワフワと浮いている風船が身体にくっついたり離れたりするのが楽しいようだ。嬉々とした目で風船を追っている。 「ウルちゃん、よかったね~。黄色のアチュウだよ。うふふ、嬉しいね~。またオーウェンさんが買ってくれたね〜」 ロランは常にウルキに話かけている。ロランが話をするとウルキは安心するのかよく笑い、よくお喋りをするようだ。 兄弟でもなく、親子でもない二人は、テレパシーというもので繋がっている。だけどこう見ていると、テレパシーで会話をしているのかなんて、どうでもいいことのような気もしてくるから不思議だ。 さっきは何だか知らないけどモッヤァとした気持ちになったが、今は目の前にいる二人が笑っててくれればいいなとしか思わなくなっていた。 帰り際に「バイバイ~」って言ったら寂しくなって泣き出したり、風船が欲しいって訴えたり、どの風船が欲しいか真剣に選んだり、テレパシーがなくても真っ直ぐなウルキの気持ちはビシッと伝わってくる。 そのウルキを見ているロランの気持ちも同じだ。ウルキに楽しい?嬉しい?って聞いてる時のロランは、同じように楽しそうで嬉しそうにしている。アチュウに夢中になるウルキに感動して、泣きそうになっているロランの気持ちも、オーウェンには、よーく伝わってきている。 だから、二人を見ているとオーウェンは自然に笑ってしまうことが多い。ギャン泣きしても、ぐすんと泣いても、必死に何か言いたいことがあるんだとわかると、胸がぎゅっとして熱くなり、自然に嬉しくなるもんだ。 さっきモヤァっとした感情があったけど、あれって、なんだろ?もしかしたら、三人でいる時、仲間はずれにしないでくれって拗ねてたからかもな。 実際に二人の気持ちがわかると、そんなちっせぇ感情なんてどこかに行ってしまっていた。テレパシーよりも二人の顔を見ていれば何をしたいかがよくわかる。それっていうのが大切なことなんだろうなと、オーウェンは思った。 駐車場に到着して、マリカの車にウルキを乗せようとした時、またぐずり出した。 「イヤイヤ!いやあああ~」と大きな声で言っている。 「風船買ってもらったら、オーウェンさんの車に乗るって思ってるのかもな。すいません、このまま乗せて行ってもらえますか?ホテルはこの前のあそこなんで」 マリカは焦ってそう言ってるけど、オーウェンは笑って見ていた。ウルキの気持ちが今もまたよくわかる。 「了解!ロラン、ウルキと一緒に後ろ乗ってくれる?」 「わっかりました!ウルちゃん、一緒に乗ろうね?」 ロランに話しかけられるとウルキはケロッとした顔をしていた。腕についている風船をロランに一生懸命見せている。 「ウルキ~、楽しかったか?また遊ぼうぜ」 オーウェンがチャイルドシートのベルトを締めてあげ、ウルキのお腹をくすぐると「きゃあっ」と笑い声をあげていた。

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