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第13話

先週末のアチュウのイベントは楽しかった。ウルキとの距離がまたぐんと近くになった気がして、ホテルの部屋では、ウルキは寝るまでご機嫌に遊んでいた。 結局、オーウェンもロランもコウたちの宿泊予定であるスイートルームに一緒に泊まった。大人数での宿泊なんて、学生時代の合宿のようで楽しかった。 ルームサービスもたくさん食べ、翌日にはまたみんなで帰ってきた。次のイベントもあれば一緒に行こう!と約束もしていた。 だけど、あの日以来、ロランに会えなくなっていた。 今週は、まだ一度も会えずに金曜日を迎えている。このまま会えず、明日の休みに突入するのだろうか。 チームのミーティングやら、他国からの来賓があったりと、護衛チーム全体が忙しくなっていた。仕事が終わるのが夜遅くになることもあるが、それでも時間が空けば必ずロランをご飯に誘っていた。 だけど「ちょっと難しいです」「すいません!今日はダメなんです」と、立て続けに断られていた。 来週なんて、主要国首脳会議が開催されるから、今よりもっとオーウェンは忙しくなるはず。この状態が続き、昼も夜もロランに会えないなんてことになるのだろうか。 毎日会えていたのに、パッタリ会えなくなった。連絡も以前よりは頻繁に取れていない。やっぱりこれって避けられてるのかと、考える。 知らないうちに、何かロランに失礼なことをやってしまったんだろうか。 「失礼します」 「…あ、マリカ。久しぶり」 「あれ〜なに?どうしたんですか?ノックしろよって言わないんですか?」 「あー…ノック?いいよ、そんなの」 マリカの揶揄いに返す気力もない。今は何の気力も起きないでいる。 「セブンティーン先輩、どうしたの?ランチ行こうぜ」 「コウ…セブンティーン先輩って揶揄うなよ。はは…」 「なんか…やつれてる!やべぇな、こりゃ」 コウとマリカに引きずられるように、王宮近くのキッチンに連れて行かれた。 ヘーゼル国では、昼のランチを『キッチン』と呼ばれるところで取るのが一般的である。国民は皆、このキッチンでのランチが楽しみだ。子供も大人もみんな昼時になるとソワソワし始めるのが、国民あるあるだった。 そんなキッチンで大食漢のオーウェンは毎日2人分の食事を取っていた。ロランが一緒の時は、更にランチをシェアしてトータルでそれぞれ2.5人分ずつ食べる時もあった。 それが今週は、食欲がなく毎日1人分。通常の成人男性の食事量になっている。 「うわっ!マジかよっ!ランチでサンドイッチだけなんて!セブンティーン先輩どうかしてるぜ。病気?」 「一人分って…いつから?どうしたんですか!マジでしっかりしてくださいよ!」 二人からヤンノヤンノと言われてうるさく感じる。静かにして欲しい。自分でも、なんでだかよくわかんないんだから。 「病気じゃねぇよ。わかんないけど食欲がない。何を食べても砂みたいな感じ」 「砂!!あはははは、ウケる!砂だってよ、マリカ!いや、でも…マジでヤバいんじゃね?」 「なに、オーウェンさん大丈夫?胃袋セブンティーンはどうした!らしくないよ。何があったんだって」 今週は何を食べても美味しく感じない。昼のキッチンではなんとか一人前を食べているが、夜、ひとりになるとどうでもよくなり、昨日は何も食べなかった。 ちょっと前まではロランと二人で、あれもこれもとたくさん食べていた。夜になるとキッチンの作業台には、二人分たーくさんの食事が乗っていたのに。 ロランに会えないとなると、以前のようにひとりに戻ってしまう。急にひとりなってしまうと、何をしていいかわからないし、何を食べようかとも考えられない。つまんないし、何を食べても美味しくないから、食べなくてもいいか…となっている。 「おまえらさ、そういうのテレパシーでやってくんない?ヤイヤイうるせぇって」 しかし、久しぶりに気心知れた奴らと一緒で少しだけ気分が浮上した。砂からオートミールくらいに味覚が上がった感じだ。 「なんですか、テレパシーって。俺らのテレパシーってこと?」 「そうだよ。どうせおまえらのテレパシーなんてそんな感じだろ?ふざけ倒したことしか言ってないんだろ?」 「そんなことないよ?真面目なことだって伝え合うことあるよ?」 「ふん、どうだかな。ふざけてなければ、好きだとか、愛してるとか、どうせそんなことばっかり言い合ってんだろ。うふふ、あははってさ」 「ええっ!」 コウが口を押えて驚き固まっている。顔を赤くしているから図星なんだろう。チョロいなコウ… 「コウ、お前わかりやすいな。ほらな?そんなんでしょーよ!どうせ」 サンドイッチをガブッと齧った。今日のサンドイッチはアボカドとトマトでヘルシーサンドである。以前だったら、サイドメニューとして登場していたものだが、今は完全オーウェンのメインの食事で登場している。 「本当にどうしたんですか?食事の量が少なくなるなんて。夜は?夜ご飯もこんな感じ?あ、ロラン、ロランとご飯食べてるんでしょ?だったら、いっぱい食べてるか」 「……会ってない」 「は?なに?なにが、」 「だから…ロランには会ってない。この前のアチュウのイベントから会えていない」 「えっ!どういうこと?会えてないって。何があった!なにやっちゃったの?」 二人に掻いつまんで説明をした。 この前のイベント以降、確かにオーウェンの仕事は忙しくなっていた。だけど空いてる時間は必ずある。だから忙しい合間を縫って「今日はご飯食べれる?時間ある?」「会えなくても電話は?」って、毎日連絡をして聞いていた。 少しの時間だっていいから会いたい。ご飯を食べる時間がないなら、会ってちょっとだけ話が出来ればいいのになぁ、電話でもいいよってオーウェンは思っていた。 だけど、ことごとく断られている。それが今週ずっと続いてる。会えなくなると、避けられてるのかも?というネガティブな考えが、ぐるぐると頭の中で回ってくる。ロランを嫌な気分にさせたのかもしれないと、考え始める。 「えー...でもさ、ロランは毎日出かけてるよ?夜になると出かけてるから、セブンティーン先輩のところに行ってるんだとばっかり思ってた。違うの?」 コウの言葉は衝撃だった。 毎日誘ってもロランは忙しいと言い、会うのを断り、電話も出来ないと言っていた。だけどそのロランは毎晩どこかへ出かけているとコウは言う。 やはり…避けられてる。いや、毎晩出かけるなんて、避けるどころか、他に楽しい事がロランにはあるんだ。 だからオーウェンの誘いを断り毎晩出かけてきるのだろう。理由がわかり、オーウェンは落ち込んだ。 「俺とは会ってない。毎日出かけてるのか...忙しいんだな、ロラン」 同じ場所で暮らしているコウは不思議がっている。毎日、夜になると出かけているらしいが、どこに行っているんだろうと。 毎日「ダメです」「会えないんです」って断られたけど、忙しく通うところはあるようだ。今まで知らなかった。ロランの知らないことって、たくさんあるのかと、想像すると更に落ち込む。 この前、偶然会った幼馴染みの男のことだってそうだ。オーウェンの知らないロランである。あの男のことを思い出すだけでイライラ、ムカムカとしてくる。 それも食事が美味しくない理由のひとつだった。ロランに会えない日は必ずあの日のあの男を思い出してイライラとしてしまう。 ロランは幼馴染といっていたが、どんな関係でどこまで仲がいいのか気になる。 あの時、今度ご飯に行こうと男はロランを誘っていた。その約束は果たしているのか。ロランはどこであの男に会い、どんな風に笑っているのかと考えると眠れなくなるほどイライラ、ムカムカとしてくる。 「じゃあさ、今日は?今日はずっと王宮にいるはずだよ?ウルキと一緒だし。ロランは、どこにも行かないって言ってたはず」 コウとマリカが心配そうな顔をしてオーウェンを見ている。 「今日はなぁ…俺がダメだったんだよ。一昨日かな…金曜日は会えますって、ロランからせっかく連絡もらったんだけど、どうしても今日は別の約束入れちゃっててさ。俺から断っちゃったんだ」 「あ~、すれ違い。完全にすれ違いだね」 いつの間にか、コウもマリカも食事の手を止めて話を聞いている。すれ違いって言われたが、本当にそうなのだろうかと、またネガティブがぐるりと出てきてしまう。 「たいした用もないくせに、なんで今日はダメなんですか。約束なんて変更できないの?ロランに会いたいんなら、会いに行けばいいのに」 「そうだよ!それがいいよ。セブンティーン先輩!今日の約束ってなに?仕事?」 二人に言われて一瞬、言い戸惑う。今日の予定をロランに伝えた時から、連絡がパタッと途絶えてしまっていたからだ。 「今日は...ほら、毎日届くプロフィールあるだろ?あの中からさ、ひとり会うことになったんだ。この前のさ...コクモツ夫妻仲介の見合いみたいなやつ」 「うそ!えー...引く...セブンティーン先輩、お見合いするの?」 コウにめちゃくちゃ嫌な顔をされる。セブンティーン先輩って勝手なあだ名をつけてイジられているが、それどころではない。 「仕方ないよ、断り切れなかったんだろ。コクモツ夫妻凄いから。で?今日会うことになってんの?行くのやめれば?」 冷静なマリカは、今日の約束を取り止めにしろという。見合いは勝手に決められてしまった事だけど、一度会う約束はしてしまっている。約束したってことは、そう簡単に変えたらダメじゃね?って思う自分がいる。だから行くことにしている。 それに何を言ってもロランは会ってくれない気もするし。 「それがさ、ロランに今日は見合いがあるから会えないんだって伝えたら、もういいですって返事がきて…それから何を送っても返事は来なくなった。明日の土曜日は?会える?って送っても、既読にすらならなくなった」 せっかくロランから「金曜日は会えます」と連絡をもらったのに、見合いがあると断った。それ以来、電話もメッセージもロランは返してくれなかった。 「バカ!ロランにお見合いって言ったの?バカセブンティーン!」 オーウェンの話を聞いたコウは、突然大声で怒鳴った。さっきまでは揶揄ってふざけてたけど、今は完全に怒っている。 「バッカだな...どうしてそうデリカシーないんですか!馬鹿正直っていうか」 「なんだよ、二人そろって、バカバカって...女性に会うから会えないんだって言っただけだろ」 あああーーーもうーーーー、と大きな声を二人が同時に上げたから、キッチンにいる人たちが驚いてこっちを振り向いている。 ロランに会えないってことで、なぜか酷いダメージを受けている。それに会えないだけじゃなく、既読にならないメッセージや電話をかけても出てくれないことにズシーンと落ち込んでいる。なのに、追加で、二人からバカだとも言われ、今日は最悪の日になってしまいそうだ。 「で?オーウェンさん、その人と相性が合ったら結婚するの?好きでもないのにするんですか。俺さ、何度も言ったよね。好きな人いるんでしょって、好きなものとか感動する事とか一緒に分かち合いたい人いるよねって。自分の事なんかより、優先したいって思う人いるんでしょって。俺、聞いただろ?」 いつも冷静なマリカも腕組みをし、怒りをぶつけてくる。結構レアなマリカを見る。真剣な顔で淡々と怒りを口にしている。 「もう!ロランのことが好きなんだろ?会えなくなって、ご飯が食べられなくなったのってそういうことだろ!よく考えろ!それって、好きだってことなんだよ!会いたいってそういことだろ?このまますれ違ってたら、取り返しのつかないことになる!好きって生きてるんだから!ねえっ!わかる?」 コウは立ち上がり、マリカ同様、怒りをぶつけてくる。懸命に喋ってるうちに、コウは泣きそうな顔になっていた。 「今日中に何とかしろ、バカオーウェン!」 と、半泣きのコウに叫ばれた。マリカがなだめて連れ帰って行く後ろ姿を、ずっと見ていた。

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