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第15話
ホテルのラウンジを出てすぐにロランに連絡をしたが、やはり電話に出ることはなく、メッセージも既読にならず。歩きながらそれらを繰り返しているうちに、王宮の入り口に到着していた。
連絡が取れなくてもここまで来たのは、ロランが今日は出かけていないと言ったコウの言葉があったからだ。
自分の気持ちに気がついた今、どうしてもロランに会いたかった。会って伝えたいことがあるからだ。
王宮の玄関前、車寄せのところに見慣れない車が停車していた。
見慣れない車は、マリカの車でもなく公用車でもない。赤くて小さくてコロンとした車だった。
大股で早歩きし近づくと、赤い車の横にロランが立っているのがわかった。運転席の人と会話し笑っている声が、ここまで聞こえてきている。
「ロラン...!」
近づいて腕を掴んでしまった。
オーウェンに腕を掴まれたロランは、ハッとし驚いている。
「オーウェンさん、どうしたんですか...」
いつもとは違う、小さい声で名を呼ばれ、問いかけられる。見つめ合って数秒、時間が止まったような気がした。
「あ~、この前会った!こんばんは〜!」
運転席から見知らぬ声が聞こえた。覗き込むと、この前会った男がいる。ロランが幼馴染だというイーサンという男だ。ニコニコと笑いながら、オーウェンに挨拶をしている。
「......どうも」
運転席を覗き込みながら、恐ろしく機嫌の悪い声を出してしまった。
そりゃ仕方がない。今オーウェンが一番会いたくない男が、この男なんだから。この男の存在を思い出し、オーウェンはこの一週間ずっとイライラムカムカとしていたんだ。
「ロラ~ン、話し合った方がいいぞ?じゃあな!」
機嫌の悪い声にも嫌な顔はせず、イーサンはニコニコと笑いながらそうロランに言い残し、車を走らせ去って行った。
赤い車がいなくなると、広い車寄せにはポツンと二人だけとなる。
「...どうしたんですか。なんでここにいるの?今日、お見合いだったんでしょ?」
「見合いは、断られた」
「…そうですか」
そう言うと、くるりと背を向けロランは玄関に向かって歩き始めてしまった。
「ち、ち、違う!断られたけど、俺も断るつもりだったから!待って、ロラン。話をさせてくれ」
ロランは立ち止まって振り向いてくれた。プーっとして膨れている顔をしているが、
いつもと違い悲しそうに見える。そんな顔を見て胸がギュッと痛くなった。
「なんですか。話があってここまで来てるんですか?それは、私に話があるってことですか?」
「そ、そう!ロランに話があって来てる。電話は繋がらないし、メッセージも...見てないよな?」
コクンと頷くが、目を逸らしてちょっとばつが悪そうな顔をしている。オーウェンからのメッセージは、意図的に見ていないようである。
「えっと...あ、そう、話ってのは…取り返しのつかなくなる前に、決めた方がいいって言われて、」
「…え?なにを?誰にそんなこと言われたんですか?」
「今日、お見合いした人に...えっとビンチェさんっていう人で...」
「はあ?」
違う!違う!そんなことが言いたいんじゃない。あ~もう!俺、バカ!見合いした人のことなんて言いだしたら、そりゃ怪訝な顔されるに決まってる。
「いっ!や、違う!えっと、その人は関係なくって...頭を殴られたっていうか、まぁだいぶ、ぶん殴られた感じっていうか、」
「殴られた?頭?だ、大丈夫ですか?誰にそんな…」
「あーっ!違う、違う!殴られてない!例えばみたいな話で…って違うか...」
バカ!俺。急に殴られたなんて言い出すからロランがびっくりしているじゃないか。
なんて言ったらいいのか、言葉が見つからない。どうやって切り出せば...いいんだ?
「コホン、えっとな、好きって生きてるんだって言われて。だからそうかなぁって、」
「好きが生きる?あの...私は、何を聞かされてるんでしょうか」
うわああ!最悪だ...だよな~、いきなりそんなこと言ったらそんな顔するよな。かなり不信感が強くなってしまった。張り切ってここまで来たけど俺ノープランじゃん!う~う、何て言ったらいいんだ。
「ごめん!あ、あのな、目に見えないし…だけど、目に見えないことばっかり考えてるっていうか、」
「はぁ、何だかよくわかりませんので、もう...いいですか?」
うわあああ!俺、最悪!まだ何も始まってないのに終わってる!こんな時はどうしたらいいんだ。誰か教えてくれないだろうか。このままだったら、好きな人に嫌われて終わりだ。ロランに嫌われたら、立ち直れないと思う。
口から出た言葉に後悔し、頭の中はパニックで言いたいが上手く言えず、オーウェンがしどろもどろとしているうちに、くるりと背を向けロランは歩き始めてしまった。
ロランの後ろ姿に、オーウェンは背筋を伸ばして声を張り上げた。
「ロラン!好きだ。俺は相当ロランのことが好きみたいだ。以上!」
よし!言えた。最初からそう言えばよかったんだ。好きなんだから好きって伝える以外何がある。俺の気持ちはロランが好きってこと。そう、単純なことだ。何をごちゃごちゃ俺は言ってたんだ!
想いを伝えたことに満足し、オーウェンもくるりと向きを変えて歩き始めた。
「ちょっと!オーウェンさん!」
歩き始めたら後ろからロランに叫ばれる。
振り向くと、いつものプーっと膨れた顔をしてこっちを向いている。
「へっ、え?なに?」
ロランはタタッと走り近づいてきて、オーウェンの胸ぐらをギュッと掴んできた。
「以上!ってなんですかっ!今の話の内容で、以上って終わらせて!しかも、そのまま帰ろうとして!」
「いや、だってさ...好きだって伝えたかったっていうか...」
小柄で細いのにロランは意外と力が強い。ロランはオーウェンの胸ぐらを更にぐいっと引き上げられた。
「私の気持ちはどうなるんですかっ!何も言わせないで帰ろうとするなんて、そんなのフェアじゃないっ!」
「うっ、、フェアじゃない?気持ち?ロランの?」
「そうですっ!私だってオーウェンさんが好きなんです…!以上!」
プーっと膨れた顔でそう言ったロランは、暗闇でも赤くなっているのがわかる。
「うわわぁ…は?マジ?」
「何ですか、そのマジ?って。嘘つくわけないじゃないですか!もう!」
「だって、、それは、想定してないっつうか、は?え?」
私も好きですとロランが言う。自分の好きしか考えていなかったオーウェンは、答えに困ってしまった。ロランが?俺のことを好きだなんて?と考えが追いつかない。
「うぅぅ…も…う…!お互い好きって言ってるんです!こういう時は黙ってキスをすればいいんです!」
ロランが背伸びをして顔を近づけてくる。ロランの行動に、我に返ったオーウェンは、両手が空いていたことに気づきロランを抱き寄せキスをした。
チュッと一度唇に触れたら堪えきれなくなって、チュゥゥと長いキスをしてしまう。キスをしながらロランの身体をギュウゥッと強く抱きしめた。
細い身体はどこまで抱きしめていいのかなんてわからないけど、戸惑うことさえ忘れて抱きしめてしまう。ぎゅっとすればするほどロランの身体がしなって、のけ反っていく。ぶ厚いコートの中で、ロランの身体が動くのを感じる。
覆い被さり唇を離さず、力加減がわからず抱きしめていると、ロランに腕をバシバシと叩かれ、オーウェンはハッとして唇を離した。
「ご、ごめん。苦しかった?」
「もう…!苦しかったです。それに…ここでは恥ずかしいんです」
「う、うわっ!ヤバっ、、そうだよな、ここ玄関だし。す、すまん!」
身勝手に暴走してしまったようだ。ロランに好きと言われたことが、今更ながら理解し始め、フツフツと嬉しさが込み上げてきている。だから感極まり、キスや抱きしめる力が強くなってしまっていた。
恥ずかしいことをさせてしまったが、それでも腕の中にいるロランは、ふふふと笑っている。もうプーって膨れていない。
「えっと…じゃあ、俺の家に来てくれる?そこで話の続きしてもいい?」
「はい…喜んで。うふふ」
握った手は自分より小さかった。小さな手を取り、ここまで歩ってきた道を、今度は二人で歩き始めた。
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