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第16話
いつもロランを送る道を二人で歩く。いつもと違うのは逆方向に歩いていることだ。
「夜に歩くこの道好きなんです。だけど反対方向に歩くのは初めて!」
夜道を歩くロランの手を繋ぎ、こっそり横顔を盗み見した。その顔はニコニコと笑っていて一番好きな顔だった。
「俺はいつもロランを送ってから、ひとりでこの道を歩いてる。次はロランとどこに行こうかって考えて歩くからあっという間に家に着くんだ」
今度はハッキリ隣を向くと、うふふと笑うロランと目が合った。手を繋いで歩くなんて考えたことがなかったから、今はかなり浮ついている。
ちょっと遠回りして歩きたいというロランの希望を叶えるため、いつもの道から脇道に逸れてみた。歩きながら今日のこと、今までのことを話している。
「そうですか…コウ様がそんなことを…」
昼間、コウとマリカに言われたことを伝えた。取り返しのつかないことになる。好きって生きてるんだと言われたことだ。
「うん、コウにすっげぇ怒られたよ。最後はバカオーウェン!って怒鳴ってた」
マリカにも同じようなことを言われている。一緒に気持ちを分かち合いたい人、自分の事より優先したい人いるんだろ?って何度も言われていたのは、わかっている。
「マリカさんもコウ様も、わかってたんですね。私はまた、お二人にご迷惑をおかけしてしまいました…」
「アイツらに言われても、自分の気持ちに気がつかずなんて…情けねぇよな」
見合いをした人に、ガツンと言われた。ロランを好きだと気がつかせてくれたが、考えれば考えるほど、自分が自覚無し過ぎて情けない。
「お見合い…でしたよね?私はお見合いに行くって聞いてからずっと泣いてました。何で行くの?何で私に言うの?って」
「ええっ!マジか…ごめん。泣いてた時そばにいてやれなかったな…つうか、俺の言葉に泣いてたのか。マジか!最悪だな俺」
「ふふふ、もう…今は大丈夫ですから」
そうか。泣いていたのか。いつも明るく笑っているロランを泣かせる奴なんて最低だ!それが自分だと知ると、自分をぶん殴りたくなる。
「お見合いの人…本当にお断りした?」
「した!っていうか、俺がずっと上の空だったから、相手の人に心ここに在らずですねって言われて、その場で断られた。それで…ずっとロランの相談っていうか…」
「相談?なんの相談?その人に?」
「あ…うん、好きってどういうことかなって。それで、俺がロランのことを勝手に語り始めちゃって」
好きって目に見えないけど、会えば嬉しくなり、会えない時は会える時までジリジリとした気持ちになる。
あれをしようか、これもいいな。一緒に行った場所を思い出して、また次のことも考える。笑ってたな、怒ってた、泣き笑いもあったっけ。ロランの表情はいつも忙しいなって思い出すと、勝手に笑い出してしまうんだ。どんな顔も思い出すだけで嬉しくなるんだ。
それが見れている俺ってなんてラッキーなんだろうって思って、だから出来れば…俺と一緒にこのまま笑って過ごしてくれればいいなぁって。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ロランは突然道端にしゃがみ込んでしまった。オーウェンは驚き、跪ついてロランの顔を覗き込んだ。
「どうした!お腹痛くなった?大丈夫か!」
「違いますよ…もう…そんなこと初対面の人に言ったの?」
「え?あ、うっ…ごめん、言った。俺さ、一度話し出したら止まんなくなっちゃって。そしたらその人に、それって好きを通り越して、愛ですよって言われたんだ」
「愛…?」
「そう。ロランに、ただ笑ってそばにいてくれればいいって思う気持ちは、愛なんだってさ。そう言われたら、ガゴーンって殴られた感じだったよ」
「…今まで何も言わなかったくせに」
下を向いてプーっとロランは膨れている。膨れている顔を両手で包み込んでみた。ずっとやってみたかったことだ。
「プーってなってる顔、ずっと触ってみたかったんだ」
「あははは、オーウェンさんもプーってなってるよ?なんで?」
ロランの膨れてる頬を触っていたら、つられて自分も膨れた顔をしていたらしい。それが面白かったようで、ロランはオーウェンを見て笑っている。
「よっし!じゃあ、負ぶっていくか?ほら、背中乗って。寒いから早足で帰ろう」
恥ずかしがるロランを背中に負ぶって歩き出す。夜だし、誰も歩いていないし、恥ずかしがることなんて、これっぽっちもないのに。
それでも歩き始めたら諦めてくれたようで、ロランは耳元で話し始めている。
「オーウェンさんと一緒にいると、楽しくて嬉しくてウキウキしてたのに、この前からは驚いたり、悲しんだり…よくわかんなくなっちゃって、忙しかったなぁ」
「ごめんな、見合いに行くとか言って。バカオーウェン!ってコウに言われたのは、本当のことだよな」
「ふふふ、マリカさんはお見合いに行かなくていいって言ったのに行ったし?」
「うん、そう。だけどそれはさぁ…約束しちゃったからさ…約束したのにドタキャンとかよくないだろ?」
「そうです!それはよくないです!ドタキャンはダメです。約束したなら守るべきです。ふふ、オーウェンさんのそんなとこ好きですよ」
「好き?そんなとこ好きって?マジ!」
好きって言われるだけでこんなに舞い上がる気持ちになるなんて、誰か教えてくれたことがあったか?ふんむっと、オーウェンは歩く速度がまた速くなった。
「約束は大切ですよ。守らないと、ウルちゃんの模範にならないですもん。約束は守る、それにありがとう、ごめんなさいは、ちゃんと言うってことですよね」
「はいっ!わかりました!これからも気をつけます!」
「あははは、いい返事!」
背中が暖かい。
耳元で聞くロランの声が気持ちいい。
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