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第23話
翌朝、スマホの通知音で目が覚めた。隣では、まだロランがぐっすり寝ている。
朝早くから誰だよ…と、スマホを手繰り寄せて時間を確認すると、昼前であることがわかる。結構寝てたんだなと思いながら、ブーブーとうるさいバイブ音のメッセージを開くと、マリカからであった。
『ロランが帰ってきてないのは、セブンティーン先輩のところにいるからだろうと、コウが言ってます』
『今日の昼ごはんはステーキとハンバーグプレートのキッチンが王宮に来ます。一緒にどうですか?ロランも一緒に』
『まだ寝てるんですか?ロランのこと潰すなよってコウが言ってますけど?どうします?』
『起きた?起きたらメッセージくれって言ってます。あんまり遅いと電話するよ?』
『邪魔したくないけどさ、いい加減返信くれません?』
最後のメッセージの音で起きたが、随分前から何度もマリカはメッセージを送ってきていたようだった。
「はぁぁぁ…」と、大きなため息が出てしまう。隣にいるロランが「んん…」と、その声で起きてしまった。
「……おはようございます」
「おはよう、ロラン。寝れた?」
チュッとロランのおでこと唇にキスをした。ちょっと眠そうにしているロランはオーウェンに抱きついてくる。昨日あれだけやったのに、また懲りない下半身に力が入りそうである。
「…どうしました?ため息?」
「あー…ごめんな、朝から。マリカがメッセージ送ってきてさ」
ほら、とスマホをロランに渡した。ロランはマリカからのメッセージを読み、飛び起きていた。
「え!え!!これって!コウ様、知ってるんでしょうか。私がここに泊まったこと」
「うーん、何故か知ってるみたいだな。とにかく電話してみるか、めんどくせぇけど」
スマホを操作し、プルプルと発信音が聞こえて「もしもし!」とすぐ電話口に出た。マリカの携帯に電話しているが、出たのはコウである。
「あー…コウ?俺、うん…今?うーん…まぁそうだけど…うん、えーっ、うーん」
電話口でめちゃくちゃ捲し立てられた。
隣にロランがいるのはわかっている。とにかく昼ごはんを食べにこっち側の王宮まで来てくれ!話はそれからだ!と、言っている。
「ちょっと待って…」と、オーウェンはスマホの通話口を手で塞ぎ、ロランに尋ねた。
「コウがランチ一緒に食べようって言ってるけど、どうする?」
「はいっ!コウ様!今すぐ帰りますから!」
手で塞ぐ必要はなかったようだ。めちゃくちゃ小声で伝えたのに、ロランは大きな声で、スマホの先にいるコウに返事をしている。
「あ〜…もしもし?…うん、わかった」
ロランの大きな返事はコウにまで届いていたようで、電話に出たら「早く来てよ!」と、笑って言っていた。
「もうちょっと、ベッドの中にいたかったのにな…」
スマホをポイっと投げ捨てて、ロランに向き直りぎゅーっと抱きしめ、キスの嵐を投げつけた。おでこから頬、唇に首筋、鎖骨に肩とオーウェンは至る所にキスをした。
ロランの身体が小刻みに震えて笑っているようだ。キスの嵐がくすぐったいのか、オーウェンがベッドから出るのを渋っているのが可笑しいのか。なかなか収まらない嵐に、ロランの笑い声も大きくなっていく。
「あははは、もうダメです。さあ!行きましょう!」
「……まだ、もうちょっと」
「コウ様、待ってるんですもん。行かないと!ねっ?」
「ロラン?コウとマリカに俺たちのことなんて言う?付き合いました〜って言っていいのか?」
身体を捻りベッドから出ようとするロランを捕まえて、ベッドの中に連れ戻す。きゃあっと、はしゃぎ声を上げたロランに覆い被さり、肩や首にまたキスをした。
「そうですね、コウ様はわかってるみたいなので…そのまま言っちゃいましょう!」
もっとベッドの中でイチャイチャしていたかったが、仕方がない。ロランの意見を尊重してあげなくちゃ。
「せーのっ」と、かけ声をかけ、二人はベッドから出て服に着替え始めた。
「いつか言うことになるもんな。早い方がいいか。だけどなんで知ってるんだろう。ロランがここに居るってこと」
「不思議ですね。ウルちゃんにテレパシーは使ってませんよ?」
「盗聴でもしてんのかな、アイツら」
早々に支度をして反対側の王宮まで向かった。広い王宮だけど、同じ敷地だし、ものの数分で反対側には到着する。二人で敷地内の道を歩く。
いつもロランを送って行く夜とはまた違い、今のこの道は何だか清々しく感じる。二人で手を繋いで歩くから余計にそう感じるのかもしれない。
「この道、好きなんです」と言うロランに、「俺も〜っ」と、デレっとした言葉を返す。とても誰にも聞かせられないような言い方ではないと、自分でも気づいている。
しかし、デレても、ロランは振り向き笑ってくれている。「ここでも大きな声で、好きだと叫びたい」と言うと、またロランは
「あははは」と楽しそうに笑っていた。
幸せってのは、今この時なんだとはっきりわかる。幸せだ…好きな人と手を繋いで歩くだけで幸せだとしっかり感じる。
王宮に到着すると、ロランは自室に戻り、一度着替えてくるという。なので「先に行ってるよ」と言い、オーウェンはダイニングに向かった。
ダイニングのドアをバーンと開くと、マリカとコウ、ウルキが食事をしていた。ハンバーグのいい匂いがする。
「おっ!ウルキ〜、元気か?ウルキは何を食べてるんだ?ちゅるちゅるか?」
ウルキはオーウェンを見ると、うきゃあっと声を上げていた。今日も大好きなヌードルを、ちゅるちゅるって食べているようだった。そこにオーウェンが急に現れたから、椅子の上に立ち上がり、足をグングンと動かし全身で喜んでいる。遊んでくれる仲間が来たと思っているんだろう。
「セブンティーン先輩!ロランは?」
「一旦部屋に戻って着替えてくるって言ってた。それよりさ、」
コウに急かされらるように聞かれる。おはようなども挨拶も無しだ。
「オーウェンさん、ちゃんと伝えました?誤解とかないですか?基本、他人はどうでもいい俺が珍しく心配してます」
「だから!それって、なんで、」
マリカからも同じく急かされる。「なんでお前らは知ってるんだ」と言おうとするも二人共、聞いてもくれない。
「昨日は、ロランをちゃんと寝かせたのかよ。セブンティーン先輩、デリカシーないからさ。その辺も俺は心配なんだって」
「コウ、それが出来てたらこんな時間まで寝てないって。ですよね?」
こっちが答える隙を与えてくれず、二人に左右からヤイヤイ言われ続けている。そこに着替え終わったロランが到着した。息を切らしているので走ってきたのだろう。
「コウ様!申し訳ございません!昨日は外泊してしまいました」
「ロラン〜!いいんだって…今日も明日も休みだろ?それに外泊はしていいんだよ。なんなら毎日外泊してもいいよ?オーウェンの舎宅は反対側で近いんだし、ここには、仕事の時間にいればいいんだから。それよりさ、ちゃんとオーウェンと気持ちを伝え合った?」
「はいっ!コウ様!オーウェンさんと私はお付き合いすることになりました」
「ロラン、オーウェンさんに好きだって言われたか?何となくとか、ふんわり付き合いが始まるのはダメだぞ?」
「マリカさん、大丈夫です!私たちはお互いの気持ちを伝え合っています。その上でお付き合いをすることになりました。ね?オーウェンさん、そうですよね?」
「はい!」と素直に答えるロランに笑ってしまう。ロランのこう素直なところは、最も好きなところかもしれない。
「そうだ。ロランに好きだって言って、付き合うことになった。な?ロラン、好きだぞ。大好きだ」
「えっ…うん…あ、はい…」
はっきりと、ロランに好きだと伝えると恥ずかしそうに小さな声で「はい」と答え、顔を赤くして下を向いている。
可愛らしい…不意打ちに好きだと言われると恥ずかしいようである。なんでこんなにロランは可愛らしいのか。ロランを想う気持ちを自覚してから、可愛らしいが目に余る。
結局、好きって気持ちがわからなく残念だったのは自分だけだ。改めてオーウェンはそう感じていた。
遠回りしてロランを悲しませてしまった。これからはもう、取り繕ったり、隠したりせず、いつどんな時も堂々とロランに愛を伝えようと思っている。誰の前でもだ。
「うわ…一晩でガラッと変わって堂々としてやがる。今まで自分の気持ちに気がつかなったくせに…」
「いや、コウよく見ろよ。堂々としてるっていうかデレデレっとしてるじゃないか…鼻の下伸ばしてさ。きっとロラン可愛いなとか、思ってるんだよ」
「お、お、おまえらなっ!」
「びびびえーーーん!!」
揶揄う二人に物申す寸前のところで、ウルキの泣き声に遮られてしまった。
「ウルちゃん、どうしたの?」
ウルキはロランに抱きつき大泣きしている。ご機嫌でニコニコと笑って、ロランを見つけ抱きついていたのに。今は急に火がついたように泣きだしている。
「たいたいよぉ~。ロー、たい?たいたいの?びえーん!ロー、びえーーん!」
泣きながらウルキはロランの首をぺちぺちと撫でて、何かを必死で訴えている。ロランはウルキを抱っこしながら立ち上がり、背中をトントンと撫でてあげても泣き止まず。突然のことに皆慌ててしまった。
「どうしたウルキ〜?なに泣いて…ん…?」
大声で泣くウルキに驚いたコウも、駆け寄りなだめようとしていたが、急にオーウェンの方をぶんっと振り返った。
「わぁぁかったぁ!セブンティーン先輩!ウルキはびっくりしてんだ!ロー、痛い?ってロランのこと心配してんだよ。ったくさぁ」
「なに?な、何が心配なんだって」
コウが何を言っているのかよくわからない。ロランが痛いとは…なんだ?と、オーウェンも立ち上がった。
「これ!こんなとこにキスマーク付けやがって!ウルキから見たら怪我だと思うだろ。だからびっくりして泣いてんだよ!」
ロランに向かい、コウが指をさした場所には、うっ血した痣のようなものがくっきり、はっきり、鮮やかに付いていた。出来立てホヤホヤ感があるそれは、コウの言う通り紛れもないキスマークである。ロランのシャツから丁度見える位置に付いていた。
「ええーっ!うそっ!」
指をさされたロランは首筋を抑えて声を上げていたが、オーウェンと目が合い、その顔はみるみるうちに赤くなっていった。それを見ているコウもつられて、何故か顔を赤くしている。
「あーあ...翌日のこととか気にせずに暴走したんだろうな。オーウェンさん、責任問題ですよ」
冷静なマリカの呟きに、昨日のことが鮮明によみがえってきた。オーウェンはロランの首や肩、鎖骨にキスをしまくっていた。
そのキスは軽いものではなく、嚙みつくような激しいキスであった。確かにうっ血した痕が付いてもおかしくないほどの激しさだったと、思い出しても心当たりがあり過ぎる。
「ご、ごめん!ロラン!ああ、あれ~?ウルキ~?ローは痛くないぞ~?ほ、ほら、俺が抱っこしてやるから。遊ぶか?な?」
ロランに抱かれても、ぐすんと泣いているウルキを引き取った。
「わ、わ、私は着替えてきますっ!」
タタタっと、またロランは駆け出してダイニングを出て行った。
「...セブンティーン先輩、ロラン恥ずかしがってたじゃん。自制してくれっ」
「オーウェンさん、配慮するって大事ですよ」
「わかってるって!ほ、ほ~ら、ウルキ、泣き止んだか~?」
ぐすんと泣いていたウルキはオーウェンに抱っこされて落ち着いてきていた。よかった。大好きなロランに知らない痣があったってウルキはびっくりしたようだった。
「でもさ~、二人がわかりあえてよかった~!お互い好き合ってるのにって、もどかしかった〜」
「オーウェンさんが無自覚過ぎたんだよ。でも...俺もかなりホッとしたけどな」
マリカとコウは、そう言い合い笑っていた。
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