25 / 31
第25話
「アチュッ!アチュ!アチュー!みーんなーのともーだーちー!」
連れられて来られた王宮で、ウルキとコウがアチュウの音楽に合わせてダンスするのを見てくれと言われた。
「息ぴったりです〜ぅ!ウルちゃん上手!」
パチパチと隣でロランが手を叩いている。久しぶりに会うロランも可愛い。気をつけていないと、ずーっとロランだけを見つめてしまう。会えなかった分、好きが走り出しているんだ。
「…コホン、で?俺は何を見せられてる」
気を取り直して話を聞く。今日突然マリカが来た理由も、話があるといった理由も、ウルキとコウがアチュウでダンスしている理由も全くわからない。
「明日、このダンスを披露する予定なんだ」
さっきまで、アチュウ!アチュ!と笑顔で踊っていたコウが、神妙な顔をして語り始めた。
アチュウのイベントでダンス大会が開催されるという。その大会にウルキが参加することになった。
2〜3人ひとチームになり、ダンスを競う大会とはいうものの、親子や兄弟みんなで楽しもうというイベントだ。恐らく参加者みーんなが優勝!みたいになるんだろう。
「ウルちゃんは運動神経がいいみたいなんです。だからダンスも一番上手だと思うんです!それに可愛くてビジュアルもいいので、審査員の目に留まると思うし…コウ様との息ぴったりのダンスも文句なしなので、優勝すると思います」
と、ロランは頬を高揚させ絶賛中である。
優勝って…多分、参加者全員だよなと、チラッとマリカの方を見ると大きく頷いている。どっちの頷きかわからないが、ま、そんなことどうでもいい。なーんだ、ダンスを見てくれって話だったのかと、オーウェンは早速帰り支度をする。
「そうか、じゃあ明日は頑張れよ!ロラン、行こうか」
「いやいやいや!セブンティーン先輩!」
ロランの手を引き立ちあがろうとすると、コウに「ちょっと待ったー!」と邪魔をされた。
「オーウェンさん、ダンスだけ見てくれなんてことないでしょ。ここからが相談なんですよ。ちょっと座って聞いてください」
丁寧にマリカがソファに誘導する。普段はふざけ倒してくるのに今日はバカ丁寧である。
「ダンス大会に出るのが王宮にバレちゃって…さっき父さんに呼ばれたんだよ」
「バレちゃってって…出ちゃダメなのか?」
「うん…やっぱりさ王子二人がふら〜っと民間のイベントに出るのはダメっていうんだよ。で、出るのはウルキだけで、更に護衛があれば許すってさ。この条件がのめれば出てもいいって言われたんだ」
一般人と違うので、王子たちにはそれなりの規制がある。休みの日なので、いくら自由にしててもいいとはいえ、目立つところに出て、誘拐や何らかの事件に巻き込まれてはならない。コウは以前、王子として事件に巻き込まれたこともあるので、その辺は王族も敏感になっている。
「なるほど。で、俺とマリカで護衛をしろということか」
オーウェンは二人からの相談というものをすぐに理解した。最高司令官という立場であるが、元々は叩き上げの護衛隊出身である。なので、オーウェンとマリカの二人もいれば、イベントくらいの護衛は何とかなる。
「そうなんだよ。セブンティーン先輩、さすが!すぐ理解してくれるぅ!ウルキがさ、知らない護衛がいると、上手く踊れなくなっちゃうからさ」
「それに、民間のイベントなので物々しくしたくないんです。オーウェンさんと俺の二人で護衛をするって言えば、陛下も許してくれると思うんで」
明日から三連休であり、ロランとイチャイチャして過ごそうとしていた。マリカとコウにはそのオーウェンの行動がわかっていたから、引き留め相談をしたのだろう。
「だから俺を引き留めたってことだろ?護衛を頼みたいからって」
「そう!だってさ〜、二人も明日から休みだろ?あなた達、イチャイチャし始めたら連絡が取れなくなるからさ」
「えっ!そ、そんなことないですよコウ様」
コウに面と向かって言われたロランは動揺して顔を赤くしている。可愛らしい。
「イチャイチャって…まあ、そうだけど、お家デートって言ってもらいたいよな?」
ロランをフォローするつもりで言った言葉に「うっわぁ…」と、マリカとコウが声を揃えて嫌な顔をする。失礼な奴らだ。家でまったりするのをお家デートっていうんだろうが。
「あっ!でもよ、出るのはウルキだけって条件なんだろ?コウが出られないってなったら、代わりはどうするんだよ」
そうだ。ウルキがたった一人でダンスをすることは不可能である。誰かがコウの代わりにウルキの隣でダンスをしなければならない。
「そこなんだよ〜。それもあってさ…だから、ロラン!お願いっ、出てくれ!」
「ええ〜っ!私ですかっ!」
「ロランしかいないじゃん。ウルキはロランと一緒なら喜ぶし、それにロランもいつも一緒に踊ってるから完璧にアチュウダンスをマスターしてるだろ?なっ?」
コウが必死にロランに拝み倒している。「お願いでっすっ!」「頼みます」と何度も頭を下げている。
「せっかくコウ様とウルちゃんのダンスなのに…それに私、踊れるかな、どうだろ」
「と、とにかくさ、今、一回踊ってみて?な?セブンティーン先輩もさ、見たいだろ?ロランとウルキのダンス。なっ?」
「はい、見たいです」
即答した。隣でマリカが笑いを堪えているのがわかったけど、仕方ない。可愛いロランがダンスをするなんて聞いたら、そう即答するだろう。それに初めて見ることだから尚更興味がある。
ジャジャーンとイントロが流れ、アチュウの曲が始まった。初めて見るロランのダンスにオーウェンは釘付けとなる。
ウルキはロランと一緒だから楽しそうに踊っている。途中隣にいるロランをチラチラ見るウルキも可愛らしい。二人の間に信頼関係があるのがわかる。
それにロランも楽しそうだ。腰に手を当てたり、両手を大きく振ったりと、ロランの最も可愛らしい部分が大いに強調されるダンスであった。完璧に踊れてるし、ウルキとの息もあっている。いいペアだと思う。
しかし…しかしだ。
「やっぱり〜!ロラン完璧じゃん!よかった〜、ロランが出てくれればさ」
ダンスが終わり、パチパチとコウが拍手をしながらべた褒めしているところに、水を刺した。
「…ダメ。却下」
我ながら恐ろしく低い声を出してしまい、ハッとする。ウルキをビビらせていないかと確認するが、ロランとのダンスに興奮したのか、キャッキャと笑っている。それを見てオーウェンはホッとした。
「は?なに、却下って。何でセブンティーン先輩がダメって言うんだよ」
「いや、ダメだろ。ロランが出ると注目されてしまう。確かにダンスは上手かった。ウルキも楽しそうだったし、それにロランがすこぶる可愛かった。だけどダメ。俺の複雑な気持ちも理解して欲しい」
アチュウ!アチュ!と、途中お尻を左右にフリフリするダンスがあった。それがどうもこうも他の人に見せてはいけない。俺の気持ちが許さないとオーウェンは感じた。
好きな人がお尻を振る仕草なんて、他の男に見せることはない!と、考える。見せるって思っただけでもイライラとしてくるじゃないか。
ダンス中、ただでさえロランは可愛くて注目されがちなのに、人を惑わすダンスをされたら、どうなる。可愛いロランのお尻をみんなが集中して見るじゃないか!と。それがオーウェンが却下する理由であった。
「何がいけないの〜?もう、セブンティーン先輩、なんなんだよ!」
「途中のフリフリするところ!おい、マリカ!お前さ〜、よく許したな。平気なのか?コウがあんなダンスしてさ〜」
お尻をフリフリするところが気に入らないと伝えると、コウは呆れた顔をし、ロランは顔を真っ赤にしている。隣にいるマリカはダンマリだった。
心が狭いって言われても構わない。飛躍し過ぎだ、自意識過剰って言われてもいい。お尻フリフリだけは他の人に見せたくない。だってロランのお尻フリフリだぞ!と、オーウェンは腕を組み、断固として反対していた。
「……たしかに」
「は?」
「確かにそうだ。オーウェンさんの言う通りかもしれない。コウもダメ!誰だ!あんなダンスを考えたのはっ!俺はオーウェンさんの気持ちがわかる」
黙っていたマリカは急にスイッチが入ったように怒り始めた。オーウェンが思っていることをどんどん口走り、ダメ出しをしている。やっと気がついたって感じだ。
「あのなぁ…ダンスだぜ?幼児の。ウルキみたいな子供達があのダンスをしたら可愛いだろ?俺ら大人のことなんて、誰も見てないよ。子供が主役のイベントなんだから。まったくさぁ〜」
「い、い、え。それでも俺は許せません」
「わかる。今回は、俺もオーウェンさんに一票だな」
コウが何と言っても、オーウェンとマリカは腕を組み頑なに許さなかった。お尻フリフリは俺の前だけにしておいてくれ。
「ロラン、どうする?」
「私はどっちでもいいんですけど…でも…オーウェンさんが嫌っていうならぁ、仕方ないなぁって。うふふ、ヤキモチですかね。もうっ…うふふ、あはは」
「ダメだこりゃ…どいつもこいつも」
コウがソファにドサっと音を立てて座った。ウルキはロランに抱っこされていてご機嫌だった。
「あっ!じゃあさ、途中のフリフリだけ棒立ちで突っ立ってれば?それならいい?」
閃いた!とばかりにコウがガバッと起き上がり、妥協案を考えた。お尻フリフリが許せないとなれば、そのパートだけダンスしないで突っ立ってればいいじゃんと言う。フリフリが無ければ、ロランを出してもいいかと聞かれた。
「う…まぁ、それなら」
断る理由が今度は見つからない。本当はロランが注目されるとまた恋敵が出てきそうで心配だが、まぁ、断る理由を潰されたし、仕方なくオーウェンは良しとした。ロランはアチュウダンス上手だったし、楽しそうに踊ってたしなぁと、オーウェンは考え直した。
「じゃあ、ロラン、もう一回踊ってみて。フリフリだけ無し。そこは棒立ちな?」
「は〜い!ウルちゃんもう一回だよ〜」
ジャジャーンとアチュウのイントロが流れ、ダンスがまた始まった。
問題のお尻フリフリのところは棒立ちとするが、今度は別の問題が出てきてしまった。
お尻フリフリのところでロランの動きが止まると、ウルキもつられて止まってしまうという問題だ。
何度やり直しても同じである。ロランが棒立ちになると、ウルキも真似をするようにニコニコと笑いながら、同じく棒立ちになってしまっていた。
だからその間は「アチュウ!アチュ!」と、軽快な音楽だけ流れ、ウルキが、ニコニコとしながらロランを見上げている時間だけが過ぎていく…
「ああーっ、ダメ。やっぱりちゃんと踊らないとウルキも踊ってくれないんだ」
「どうしましょうか…難しいですね」
コウとロランは頭を抱え、悩み始めている。ダンスは完璧だが、オーウェンが却下しているフリフリのところだけが、乗り越えられない問題だった。
「えっ?そんな悩む?だったらさ、マリカが出ればいいじゃん。マリカならお尻フリフリしても問題ないぜ?」
我ながらいい案だった。王子二人が一緒に出るのはダメだと国王陛下は言っている。ロランが出るのはお尻フリフリが無ければいいが、あったらダメとオーウェンは譲らない。だったら、マリカは?そうだ!マリカなら丁度いいだろう!と思った。
「はぁ?俺?俺は踊れないから、無理!」
「いや、マリカ。お前はこのダンス知ってるはずだ。やってみろよ。頼むから」
「そうだよ、お前がやらなくてどうする」
コウの必死にオーウェンも後押ししてやった。ここはマリカが踊れば丸くおさまるってもんだ。笑いたいけど笑いを堪える。
渋々マリカがウルキの隣に並びダンスする準備をした。
そして、ジャジャーンとアチュウの曲が流れ、何とか必死にダンスをするマリカであった。
だが、あまりダンスの素質がないようで途中何度もマリカは間違えてしまう。単純なダンスなのに何故、理解出来ないのかとオーウェンは不思議だった。
「マリカ、もう!お前さ〜、何で同じとこ間違えるんだよ!右足と左手だって。右足と右手じゃないんだよ」
こっちから見てると、マリカの間違いが丸わかりなのでイライラしてくる。ついオーウェンがマリカに口出しをしてしまった。
「じゃあ、オーウェンさんも一緒に踊って。それだったら、俺はやる。そうする」
「はああ?俺?俺こそ出来ないって。踊れないしさ〜」
「いや、セブンティーン先輩!それいいじゃん、そうしよう。お願い!一緒に踊ってくれ。チームは3人でもいいんだよ。それに、ウルキの両隣に護衛がいれば文句なしだろ。頼む!」
「ええーっ!無理…無理無理無理!」
無理だ、出来ないって言っても聞いてくれず、ウルキのためだからとコウは譲らない。なので、渋々オーウェンもウルキの隣に立ち、アチュウダンスをし始めた。
もう何度目かわからないジャジャーンというアチュウの曲に合わせて、さっき見たダンスを踊ってみる。
「あはははは、く、くるし〜、あははは」
コウがバカ笑いし、床に倒れ込んでいる。ガタイのデカい男二人がウルキの両隣で可愛くお尻をフリフリするダンスにウケているようだ。笑い過ぎて、立ち上がれないと言っている、失礼な奴だ。
ウルキはコウが爆笑しているのが嬉しいらしく、マリカとオーウェンに挟まれてダンスするのが楽しいようで大興奮している。
「オーウェンさん!カッコいいです!」
そんな中で、ロランだけは目をキラキラとさせ、カッコいいと大絶賛だった。
「ええ〜、それはないだろ…コウを見てくれよ、バカ笑いしてるじゃん」
さすがにそんなフォローは無理があるってと、オーウェンは伝えるも、ロランは真面目にそう言っているようだった。
「ううん、本当!カッコいい。なんかぁ〜私と違って力強いしぃ〜、釘付けでした。でもなぁ、ファンが増えちゃうかも…オーウェンさんを見てカッコいいっていう人が出てくるでしょ?それが心配です。ヤキモチ妬いたらごめんね?」
「そ、そんなことないよっ!ファンなんか出来るわけないって。ヤキモチなんか妬かせないよ?俺はロランだけが好きなんだから。誓うよ、神に誓う!」
ロランにヤキモチ妬いちゃうなんて言われたオーウェンは焦り、ロランの手を取り跪いて説得した。不安にさせたくない、好きなのは君だけなんだ!と。それを見てコウはまた爆笑し、マリカは嫌な顔をしていた。
「や、や、やめてくれ〜。腹がよじれる〜何でこんなに可笑しいんだろう!あははは。いや、ご、ごめん!と、とにかくさ頼む!二人でウルキの隣で踊ってくれ。な?明日のイベントまでダンスの特訓な」
ウルキは眠くなり、途中でロランが寝かしつけに行っていたが、ウルキが寝た後も、夜遅くまでアチュウダンスの特訓が始まってしまった。
明日のアチュウダンス大会…不安である。
ともだちにシェアしよう!

