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第28話 テレパシーってこう使え!

「ウルちゃーん。どこー?お返事してー。もーうっ!わからないよー!」 テレパシーでウルキに呼びかけているというロランは、頭の中で伝えているだけではなく考えていることを口走りがちである。 オーウェンは、そんなロランの姿を見て笑っていたら「真剣なんです!」と怒られてしまった。 真剣なロランが可愛いから見てたんだなんて言ったら、もっと怒られてしまうだろうから言わないでいる。 今日は昼過ぎにロランと約束をしていた。以前、立てこもり犯人と遭遇してしまった、あのドーナツショップにリベンジすることになっている。 約束通りロランが暮らす王宮まで迎えに来たが、侍女達と一緒に、いなくなったウルキを探しているので、見つかるまで出かけられないと言われた。 「ウルちゃんが見つからないんです。テレパシーで話しかけても、キャッキャって笑いを返すだけで、ぜーんぜん会話にならないし。困っちゃってるんです」 「また?あいつ、かくれんぼだろ?」 「そうだと思うんですけど…」 王宮の中にいるのだろうが、最近かくれんぼが好きなウルキは、こんな感じでいなくなってしまうことが多くある。 本人は遊んでるつもりなんだろう。だけど周りの大人達はウルキがいなくなる度に、王宮中を大慌てで探し回っていた。 まぁ、大抵はすぐ見つかるが、見つかる場所が少しずつ遠くなっているから困ったもんだ。いつか知らない場所にまで行けるようになってしまったら…と、ロランは言う。ロランの心配する気持ちもわからなくない。 「ウールちゃーん、どこー?聞こえないよー!お返事よー!」 テレパシーで通じ合っていても、相手はまだ赤ちゃんなので、どうしようもない。ウルキからのテレパシーは「ぐふふ」「あはは」「ロ〜っどこ!」「こちよっ!」くらいだと言うし。 「じゃあ、俺も探すか」 ロランがパタパタと走って行った反対方向に、オーウェンはゆったり歩き始めた。 ロランの暮らすこっち側の王宮に来る時は、ウルキを連れて「探検ごっこ」という遊びをしている。 これがウルキには大ウケしていた。オーウェンと二人で王宮中を歩き回り、手当たり次第にドアを開けたり、鍵がかかっていない部屋に勝手に入ったりしている。それがウルキには、すっごく楽しいようだ。 王宮は広いので、時には道に迷い、いつの間にか中庭に出ちゃったりする。その度にウルキは大はしゃぎし、楽しそう笑っていた。 だけど、勝手な行動のため、ロランに知られると怒られそうだから内緒にしている。 「多分…あそこだろうな」 ウルキが隠れているところは、何となく見当がついている。オーウェンが、探検ごっこで連れて行く場所に隠れていることが多いからだ。 冬の昼下がり、ポカポカ太陽の日差しが壁や床に当たるところにいるはずだ。あわよくばそこで昼寝をしているんだろう。あそこは今の時間、部屋全体が暖かくなっているはずなんだ。 オーウェンは、王宮の長い廊下を歩き切った先、行き止まりを右に曲がった。 右に曲がり二つ目の部屋は小さな押しドアがある。押しドアを開けた先は書斎になっている。 そこの書斎では挿絵が多い本を選び、広げ、ウルキに勝手な物語を作って読んであげたことがある。その後眠くなり、二人でそのまま昼寝をしたこともある場所だ。多分、今日はそこにいるのだろうと思った。 押しドアから身を屈めて入ると、案の定、窓の縁に捕まり外を眺めているウルキがいた。 「こ〜ら、ウルキ。ここにいたな〜」 オーウェンが声をかけるとウルキは「きゃあっ」と、笑い声を上げながらトトトっと走ってきて抱きついた。 やっぱりウルキが隠れているのは、オーウェンと遊んだ場所のようだ。二人で遊んだことをウルキは覚えているんだなと思うと、それはそれで嬉しいって思う。 「ウルキ〜、ロランが心配してるぞ」 「オウ!あちょぼ!あちっ!あちいくの〜」 ウルキはオーウェンの手をグイグイ引っ張り、窓の外を指さしている。窓の外は中庭が広がっている。外で遊びたいとウルキは訴えていた。 中庭では先週ウルキと追いかけっこをした。またその遊びの続きがしたいんだろうと思う。 「ん?外で遊びたいのか。いいぞ、だけどなロランと会えてからだ。いいか?ウルキ、ローは心配してる。お前が黙っていなくなったからな。だからここまで来るようにテレパシーで言ってみろ。俺が言う通りにやってみるんだぞ?わかるか?」 「きゃあっ。オウ!あちょぶ?おちょと!」 「わかった。ここまでローを連れて来たら、外で遊ぼうぜ」 わかってるのかなと半信半疑だが、日当たりのいい場所に、ウルキを抱きかかえ座り込んだ。 「よし、じゃあ…ローのこと考えろよ?それでこう言うんだ。窓から外が見えるだろ?お外見える!って言ってみろ」 ウルキの目を見つめてそう伝えると、ウルキは「ロー?おちょと…みえる…」と真剣な顔で言い始めた。 「うん、いいぞ、多分…。じゃあ、オウも一緒だよ?って言えるか?」 「きゃあっ!オウ!いっちょ〜よ!うーん、いっちょよ〜」 「そうそう、ローに言うんだぞ?ここで言えるか?」 ウルキの頭を撫でてあげる。頭の中でロランを呼ぶんだぞと教えてあげた。 「じゃあ、本がいっぱいあるだろ?本…ほんって言ってみろ。できるか?」 「ほん…ほんっ!いっぱいね〜、オウ!ん!あちょぼね〜」 ウルキは本を指さし、読んでくれとせがんでいる。勝手に物語を作って喋ってやった遊びもどうやら覚えているらしい。 「わかった、わかった。今度本も読んでやるから…絵本ないのかな…そんなのねぇか。ほらウルキ、もいっかい出来るか?ロー、ここだよ〜来て〜って」 遊びながらウルキに言い聞かせている。 オーウェンを真っ直ぐに見ているウルキは、額に汗をかいていた。 この部屋は日当たりがいいから、冬なのに暑い。なので、ウルキの集中力も長くは続かないだろう。 それに風邪でもひかせようなもんなら、乳母に怒られてしまう。汗だくになる前に、外に出ようぜとウルキに伝えてみる。 外の廊下をパタパタと走る音が聞こえてきた。その音は大きくなり近づいている。 「ウルちゃーん!いるのー?」 押しドアがパタンと開き、ロランの顔が見えると「きゃあ〜っ」とウルキは声を上げて走り出し、ロランに体当たりしていた。かくれんぼで見つけてくれた!とでも、思っているようである。全身で嬉しさを表現している。 「ロー!あちよ!あっち!」 ウルキはロランの手を引っ張りオーウェンがいる窓際まで連れて来た。 「こんなとこにいたの?オーウェンさんが見つけた?なんで?うっそ〜」 ロランがびっくりした顔をしている。ウルキは大きな笑い声を上げて、オーウェンの膝にデーンと座った。 「ウルキのテレパシー伝わった?」 「えっ!うそ!テレパシー?なんでわかるんですか?」 ロランは口を押さえて驚いている。やっぱりウルキはテレパシーでロランに伝えていたようだ。 「ウルキ、なんて言ってた?」 「お外見える…みたいなこと?後、ホンって言ってた。え?本のこと?この部屋?」 「あははは、ウルキ〜!えらいぞ!俺の言ったことちゃんと伝えられたな」 膝に乗ってオーウェンの顔をいじくり回しているウルキの頭をガシガシと撫でて、えらい!えらい!と褒めてやった。 「オウ、オウってオーウェンさんの名前も呼んでたから、なんだろ?って思ってました。まさか、一緒にいるなんて…」 「俺も一緒にいるってロランに伝えろって言ったんだよ。ウルキ!えらい!俺のことも伝えられたな」 オーウェンに褒められたウルキは嬉しそうに笑い声を上げていた。 「あー…だからか。オーウェンさんと外で遊ぶっていう感情が強く伝わってきてました。外で遊ぶ約束しました?」 「した、した!ロランをここまで連れて来れたら外で遊ぼうぜって約束したんだよ、なぁ?ウルキ〜」 ウルキは案外大物だなと思っている。ひとりでトトトと王宮の中を動き回り、好奇心旺盛である。オーウェンと遊んでいて転んでも、涙を堪えるだけで大泣きすることはない。 「よし!ウルキ〜えらかったな。外に行くか?遊ぶだろ?約束したもんな」 「オ〜ウ、おちょと!おちょとよー!」 「よし!行くか」 ウルキを抱き上げて中庭に行き遊んであげた。追いかけっこをして思いっきり身体を動かし、その後、乳母にウルキを引き渡した。 「あれだけ遊べば、お昼ご飯食べてすぐお昼寝ですね。ウルちゃんを見つけくれてありがとうございました」 ドーナツショップまで車を走らせて、この前のリベンジをしている。期間限定のキャラメルドーナツ30個にチャレンジしているロランは、ニコニコ笑っていて今日も可愛らしい。 「外で遊びたいんだろうな。俺が見つけた時も、ウルキは窓から中庭を見てたぞ」 「外で遊んでるんですけど…オーウェンさんやマリカさんじゃないと、なかなかあんなに遊べなくて。私や乳母たちだと、外でお花を見つけたりする遊びだから」 「ああ、そっか。乳母だと身体を動かす遊びが得意じゃないのか。ま、そんな遊びは俺かマリカで相手をすればいいよ」 「だけど、何でウルちゃんがあそこにいるってわかったんですか?すっごぉい!」 「えっ?あー…うーん…」 内緒にしている探検ごっこの影響だとは、非常に言いにくい。だけどロランはキラキラ、きゅるりーんって笑顔で「すごい!」とオーウェンを褒めてくる。 「テレパシーで伝わってきたんです。オウ、オ〜ウ!ってオーウェンさんの名前と、何となく場所も…言ってたかな。でも、あの書斎なんて、ウルちゃんは一度も行ったことなくて、知らないはずなのに」 「えっと…ごめん!実は、あの場所は俺がウルキを連れて行ったことがあるんだ。それと、今までウルキが王宮で隠れてる場所は全部、俺が教えた場所なんだ」 ウルキと一緒に探検ごっこをしていたことを告白し、内緒にしてたことを謝った。 ウルキは最近はオーウェンを見ると、手を引っ張り、探検に行くか外に行くかと楽しみにしているようだ。だからそんな遊びをしていたんだとロランに伝えた。 「そうなのっ?オーウェンさんが教えた場所?あー…だから、オーウェンさんがいつもウルちゃんを見つけられるんですね。なるほど」 「そ、それなんだけどさ…ウルキがひとりでいなくなっちゃうのって、いつも俺がそっちに行く時だっていうだろ?」 ここのところウルキが活発になり、ひとりでトトトといなくなってしまう。そのいなくなるタイミングは、いつもオーウェンがロランに会いに行く時である。 「多分さ、多分だけど…ロランと俺が会うことが、ウルキには伝わってるんじゃないか?だからあいつ、いなくなるんだと思うんだ」 オーウェンが、この後王宮に来るとわかると、ウルキは以前遊んでくれた場所に先回りして行っているようだと感じている。 オーウェンに対して「ここにいるよ!」「ここで遊んで!」と言っているようだった。だから、かくれんぼっていうより、オーウェンに見つけてもらうためにやってることのように思えていた。 「じゃあ、何でオーウェンさんが来るってわかるんでしょうか。誰もそんなこと教えてないですよ?私だって、ウルちゃんにオーウェンさんが来るよ、なんて言いませんもん」 「テレパシーでも?無意識に俺が来るんだって思ってない?それがテレパシーでウルキに伝わったりしてない?」 「ええーっ!!」 そこなんだよなぁ…とずっと考えていた。 いつもオーウェンが行く時に、ウルキが隠れるなんて出来過ぎている。 だから、ロランからのテレパシーが無意識に漏れているんじゃないかと、オーウェンは思っていた。 ロランのテレパシーはウルキに伝わる。ロランが「オーウェンが来る」って、無意識に送ってしまってるのではないか?と考えていた。 20個目のドーナツを手にしながら大きな声を上げてロランは驚いている。そして、みるみるうちに顔が真っ赤になっていった。 「ロラン…?」 「そうかも…です。テレパシーは使ってませんが、今からオーウェンさんが来るってソワソワしたり、心の中でめちゃくちゃ叫んだり…してます。嬉しくて…」 赤い顔をしながら照れくさそうに言うロランに釘付けである。オーウェンと会えることでソワソワとし、嬉しくなるなんてどんだけ可愛いんだ! 聞きたい。 こんな可愛い告白されたら聞きたくなる。嬉しくて心の中でめちゃくちゃ叫ぶなんてどんなことを思っているのかっ! 「ど、どんな感じで…?叫んでる?」 食い気味に聞いてしまった。手に力が入りドーナツを握りつぶしそうだ。 「どんなって…やったぁーこれから会えるぅ〜とか…みなさーん!オーウェンさんが来ますよ〜とか、心の中で実は叫んでまして…会いたい!会いたい!会える!と、めちゃくちゃ心の中で喋ってます」 ヤバい…可愛すぎて前屈みになってしまう。座ってるのにズボンの前が窮屈になってきてしまう。ちょっと冷静にならなくてはいけない。 「た、多分さ、それがテレパシーになってウルキに伝わってるんじゃないか?だからさ、今度俺がそっちに行く時は、ウルキにちゃんと言ってみてくれよ?俺が来るけどかくれんぼはするなって。ちゃんと俺が遊ぶからって。そしたら多分、あいつは隠れないと思うんだよな」 「なるほど、わかりました。次はそうやってウルちゃんに伝えてみます。そうですよね、理解できてるはずですもんね。だけどオーウェンさんとウルちゃんの方が以心伝心みたいです。テレパシーを使ってないのに、意思の疎通が出来てるみたい」 「ウルキの行動は読めるからな。新しい遊びをしてやると喜ぶし。だからウルキが次にどこに行きたいとか、何したいとか、何となくわかるようになってきたよ」 オーウェンのことをワクワクして待っているウルキを知っている。だから、言葉にしなくても何をして欲しいのかわかるし、隠れている場所もわかるってもんだ。 「私、テレパシーの使い方、合ってるんでしょうか。今日だって、オーウェンさんがウルちゃんを先に見つけて、私と会えるように誘導までしてたでしょ?ここにいるよぉ!って」 テレパシーの使い方合ってるのかな、なんて首を傾げて悩むロランが可愛い。 「まあ、どれくらいウルキがテレパシー使えるのかなって思って試してみたら、案外伝わったから面白くてさ。でもいいんじゃないか?俺がウルキに伝えろって言って、ウルキは上手に伝えられたんだから。これでアイツは使い方が上手くなるだろ」 「そうでしょうか。私のテレパシーなんて役に立ちませんね」 あはははとロランは笑っている。コウやマリカも言っていたが、テレパシーなんてそんなもんらしい。 テレパシーの相手とは、運命の相手、恋愛のパートナーになるとか何とか巷では言われているが、身近で見ているとそんなことないのはもうわかっていた。 人は、十人十色ってよく言うけど、テレパシーも同じである。一人ひとり使い方は違うし、伝えることも違う。 それでいいんじゃないかと思う。大したことに使っても使わなくても、役に立っても立たなくても。テレパシー持ちと、持ってない人なんて、どっちでもそんなに大差ないもんだし。 「それより…コホン、もうちょい掘り下げてもいい?」 「何をです?掘り下げるって」 「俺と会えると喜ぶってとこ。それが聞きたい。俺は今、ロランがめちゃくちゃ可愛いって思ってて、キスがしたい。だから…そろそろ行く?俺の部屋でその話、掘り下げてもいい?」 ドーナツショップで食べ放題中、小声でロランにだけ聞こえるように呟いた。小声だから顔を近づけて、ボソボソと話をする。 「掘り下げてもそんなに面白くないですよ?いつも思ってることだし。頭の中で喋ってるだけですよ?オーウェンさんに会えるぅ!とか、会ったら何しよう…ぎゅって抱きついていいかな?とか、今日もカッコいいんだろうな、みんなー!オーウェンさんのカッコいい制服姿見れるよ〜!とかしか言ってないもん」 ボソボソと小声で伝えたのに、ロランは背筋を伸ばし、はっきりと答えてくれた。 外国政府等の要人が来る時に、制服を着用する。その制服姿のままロランを迎えに行ったことがあり、それがカッコよかったとロランはしきりに言っている。 完全に前屈みになってしまった。すぐにでも店を出て家に連れて行こうと思ってたのに、立ち上がれなくなってしまった。股間の暴れるものが、滾り勃ちあがってしまっている。歩くのも難しい。 「わかった…トレーのドーナツ全部食べたら行こうな。それまで俺は修行してるよ」 「修行?なんですか?それ。あははは、またおかしなことばっかり言って〜」 無意識にオーウェンを褒めるロランにも、そろそろ慣れなくてはいけないのかもしれない。それに、こんなに簡単に勃ちあがっていてはいけない。やはり修行である。 「だけどウルちゃん喜んでたなぁ。オーウェンさんと遊ぶの大好きなんですよね」 「ウルキと約束したからな。外で遊ぶのも探検ごっこをするのも」 「約束は守るですね!さすが、男らしいです。だからオーウェンさんのこと好き。じゃあ、早く食べてお家行きましょう。抱っこしてギュッてして、いっぱいキスしてもらうんだ。うふふ、大好き」 収まりかけてたのに、また最初から修行のやり直しである。試練は続いている。 勃ち上がったままズボンの前が大きく膨らんでても、気にしないという鋼の精神が欲しい。 そうだ…股間の滾るものを抑えるより、気にしない心を鍛える方がいいのかもしれないと、オーウェンは考えている。

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